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1人目の客になれた話 出町桝形商店街編

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。出町の王将といえば、私も学生の頃、よく食べに行きました。国道沿いの王将とは違う、床やテーブルのユーズド感、皿洗いを手伝えば食事代が無料になるというのも話題でした。

 そんな出町の王将が惜しまれつつ閉店したのはいつ頃だったか。閉店の理由は忘れてしまいましたが、味のあるアングラ王将がまた消えてしまったかと残念に思っていました。作家の澤田瞳子さんも閉店に際し、残念だという文章を書いておられたような気がする。
 
 その王将の井上さんという方が、出町桝形商店街に新しく餃子の店をオープンするということで京都界隈は少しばかり盛り上がっておりましたので、これは狙わねばなるまい、と11時オープンのところ、9時40分に到着したところ、やたら店の前が賑やかで、やはり話題の店の開店ゆえ、遅かったか!と唇を噛んでおりましたところ、店の前におられるのは、なんと全員、テレビの取材。大きなカメラを右肩に抱えている人、その後ろで先端にふさふさの毛布の着いた棒を持っている人、何も持ってないけどたぶんディレクター的立場の人、それとは別のテレビ局のディレクターっぽい女性もおられ、カメラは回っておりませんが取材を受けました。

「あとでよろしければ、食べてるところを撮影させていただいてもいいですか」
「もちろんオッケーです」

 出町桝形商店街は人の温もり溢れる商店街です。私なんぞが1人目の客になってもいいものかと思いながら店の前で並んでおりますと、メディア関係者の皆さんや商店街の皆さん、出町の王将のスタッフだったと思しき方たちが店を出たり入ったりします。

 後からやってきたお兄さんが私とは逆側に立ち止まり、関係者らしき方と話をしています。
「おめでとうございます、お客様第一号です」

???
おいおい、ちょっと待ってよ、大黒摩季になりそうになりましたところ、何も持っていないディレクターらしき方が「違いますよ、あそこにおられる方が最初ですよ」と言ってくれ、おじさん!あんた、持ってるね!と思った次第。

 おじさんは毎日放送の人でした。カメラが回る。取材を受ける。マスクのせいでメガネが曇る。「どうしてこんなに早くから並んだんですか」と聞かれ「オープンしたお店の1人目の客になるのが趣味なんです」

 並んでいる間に澤田瞳子さんの『火定』を読もうと持ってきたんですが、オープンの雰囲気を見ておきたくなり、読むのはやめました。

 澤田瞳子さんからは胡蝶蘭が届いていました。お店のお母さんが私の1人目の客Tシャツを見つけて笑ってくれ、「ちょっと1人目のお客さん、胡蝶蘭出すの手伝ったってえな」とご指名を受け、手伝う。
 読売テレビの取材も受ける。使ってくれるかなー。

 令和5年3月3日、出町桝形商店街にオープンした「いのうえの餃子」の1人目の客は私です。

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