短編小説『メリー・ポピンズが言えない』
三十七度を超える日が続く異常気象を耐え抜き、今日もなんとか生きています。かつて俺たちは二十五度を超えたら夏日だなどとほざいており、三十度以上の日を真夏日だと宣言していましたが、いまや三十度なんて意外と涼しいのね、と余裕をかましていられます。
悲しいくらい人は慣れる生き物です。七十年代には自動車が凶器のように言われていました。年間の交通事故死者数はものすごい数だったらしいですが、それでも我々は自動車に乗ることをやめず、車社会に慣れていきました。
わずか三年ほど前は数百人のコロナ感染で時の総理大臣が緊急事態宣言を発令していたのに、今では一日何千もの感染者が出ているのにもはや当事者以外は関心を示すことがなくなりました。
今年の猛暑も一段落したかのように感じるのも慣れてしまったからなのでしょうか。「それでは歌っていただきましょう!スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス、映画メリー・ポピ、ポプ、ポプピ、失礼しました。メリー・ポピンズの主題歌です、どうぞ」この曲紹介で最も緊張感漂うのは、スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスであるに違いないのですが、この峠を越えたところでなんてことはないメリー・ポピンズが言えなくなるという罠。曲紹介をしたことの無い人でもきっと同じような経験はあるのではないでしょうか。
連日の三十七度超えがスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスだったとするなら、今はメリー・ポピンズです。今がいちばん危ないといえるかもしれません。息も絶え絶えになりながら血眼になり、なんとか乗り切ったあの酷暑。歯を食いしばって生き抜き、なんとか難題にも立ち向かえたのですが、いざ過ごしやすくなると、仕事にも精が出るかと思いきや、ついついだらけてしまう。
メリー・ポピンズがちゃんと言えるようにしなければ。
秋めいて風に追いつかれちまつた
蠱惑暇(こわくいとま)
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