短編小説『がら』
いつもより1時間ほど早起きして文机の上に置いておいた眼鏡をかける。ぼやけていた世界の解像度がぐんと上がる。碌に勉強もせず下請け業者相手に偉そうに持論述べくさるおっさんどもの観ている世界は眼鏡をかけていないど近眼みたいなものなんだろう、嗚呼朝から気分が悪い。しょうもない仕事やで、しかし。
枕の周りにストローを細かく切り刻んだような円柱型の白い物体が散乱しており、はて、これは何だとしばし考え、すぐに枕の中に入っているやつだと気づく。そばがらでは無いが便宜上、「がら」と呼ぶ。がらと外部を分断する枕のファスナーが少しばかり開いていたらしい。
俺は散らばっているがらを両手でかき集め、枕の中に返してやり、もうこんなことにならないようにファスナーを閉める。
充電してあるスマホを取ろうと文机とは反対側にあるコンセントの方へ振り向くと、そこにも三粒、がらがあり、苦笑しつつ拾い上げ、それをまた枕の中へ返す。
そうだ、俺は小便がしたくて起きてしまったんだった。いそいそとトイレへ向かい、洋式便器に座り込みスマホでSNSなど見ようとしたら、今度は床に五粒のがらがある。用を足し、片手に五粒握りしめて枕へ返そうと部屋へ戻ると、文机の上や布団の四隅、枕の周りにも、がらがあり、こんなに取りこぼしていたか、と驚きながら拾うと全部で十五粒あった。全て枕に仕舞い込み、リビングへ移動し、朝飯を食べんとすると、足元にまた、がらを発見する。一箇所に二十粒ほどまとまっている。とりあえず片付けて朝飯を済ませ、洗面所で歯を磨こうとしたら洗面台にがらが溢れていてギョッとする。
片付けても片付けてもキリがない。このがらはどこから来たんだ。俺の枕にはもう入り切らない。寝巻きにしている白シャツを脱ぐためにまくりあげるとシャワーのようにがらが溢れ出てきた。もう、いいや。今日はがらのせいにして仕事を休もう。明日もあさっても。