1人目の客になれなかった話
趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。
京都の喫茶店といえばイノダ。高田渡の「コーヒーブルース」でも歌われている名店です。本店は堺町三条を下がったところにあるのですが、堺町三条を東へ少し歩いたところには「三条店」があります。円状のカウンターがあり、その円の中で調理をされていたように記憶しておりますが、なんせ最後に行ったのがもう何年も前のことなので随分曖昧な記憶です。
その「三条店」が本日午前10時にリニューアルオープンするということで、お店が新しく生まれ変わるのと時を同じくして、私も1人目の客となり、「三条店」の記憶を新しく確固たるものにしてやろうと決めたのが数週間前。知人がオープン日時を教えてくれた、その日から10月29日は三条へ行かなくちゃ、三条堺町にあるイノダっていうコーヒー屋へね、って歌っておりました。あの歌が歌っているのはおそらく本店のほうですけど。
とはいえ、私もそんなに暇ではないし、早く行きすぎるのもスマートではありません。目安となる最長待ち時間は「1時間」です。先日の選挙は1時間10分前から並びましたし、その前の吉祥院の王将も同じくらい待ちましたが、まあ、ざっくり「約1時間」としておきましょう。1時間30分以上待つのはさすがにアホらしい気もしています。しかし、信頼できる先輩や知人友人に話をすると「イノダに1時間前は厳しいのではないか」ということであったので、なるべく1時間30分前を目指しつつ、1時間前までには店頭に到着できるようにスケジュールを組み立てました。
今日は昼から雨らしい。
どうせなら朝からアホみたいなどしゃ降りになれば並ぶ人も減るでしょうに。
四条烏丸にある職場を出たのが8時40分過ぎ。もうこの時点で1時間30分前をオーバーしております。仕方ない、私もそこまで暇ではないのだ。
こういう時に限ってエレベーターはなかなかやってこないし、赤信号にはつかまるし、四条烏丸から堺町三条なんてサンクスくらい「すぐそこ」だと思っていたのに結構時間がかかります。ゆっくりお散歩できるなら立ち寄ったんやけどなー、と六角堂を通りすぎ、堺町通りの一本手前の縦の通り(名前は忘れた)を北上。三条通りを右折してしばらく歩くとイノダコーヒ三条店です。
イノダコーヒ三条店の幟の手前に割と大きめのトラックが停まっており、おかげでお店の前の雰囲気が掴めません。トラックの手前におじさんが一人、不自然に立ちすくしていますが、確か入口はトラックの奥あたりだったはずなので、あのおじさんは並んでいるわけではなく、ただただ、不自然に立ちすくしているだけ、のはず。
近づくにつれ、解像度が上がっていく。
おじさんは近づいても不自然に立ちつくしたままでしたが、もっともっと近づいていくと、おじさんの奥に八人ほど、整然と並びながら「三条店」の開店を待つおじさまおばさま方がおられました。
私の記憶では、昔は三条通り沿いに入口があったはずなのですが、かつて入口があったはずの場所より少し手前、ちょうど不自然におじさんが立ちつくしている場所からお店側奥に向かって通路ができており、その先に入口があるようでした。
もう八人九人並んでいるようではさすがに会計を1人目に済ませて「実質1人目の客」を狙うことも難しそうです。仕方なく私は既にオープンしている三条堺町下ルにある「本店」で休憩しようとしたのですが、こちらはこちらで行列ができており、やむなく職場へ戻りましたが、しばらくしてから、あの八人ほどのおじさまおばさまたちはあれだけ長時間待ったんだから、モーニングを食べながらゆっくりのんびり過ごすのではないか、そうであるなら、アイスコーヒーだけ注文して一気飲みする勢いで飲み干して帰ればお会計は1人目の「実質1人目の客」になれるのではないか、と思い直し、オープン20分前くらいに再び「三条店」へ向かったのですが、辿り着いてみたら三条通り沿いに行列が延びており、三十人ほどが並んでいました。
さすがにこの三十人が全員モーニングを食べたとしても私が注文したアイスコーヒーが出てくる頃には何人か帰ってしまうだろう、という判断のもと、職場へ帰りました。判断を間違ってしまったのかもしれない。残念ですが仕方ない。私も暇ではないのだ。
令和6年10月29日午前10時にリニューアルオープンしたイノダコーヒ三条店の1人目の客にはなれませんでした。
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