1人目の客になれた話 下鴨本通り北大路編
趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。
先日のイノダコーヒ三条店のリニューアルオープンの際にはオープンの1時間15分前に既に店頭に八人ほどの行列ができておりました。
おそらく、ご近所の長年この店に愛着を抱きつづけていらっしゃる常連のお客様なのでしょう。
私はむしろ、この人たちを差し置いて1人目の客にならなくてよかったと思いました。
このお店の1人目の客は私じゃないほうがよかったのだ、と。
イノダコーヒ三条店にとっても、1人目の客になれるならなんでもいい男よりも、長らく店舗を愛してくださっていた方を1人目の客としてお迎えしたいにちがいない。
実際に1人目の客になった人がどういう人なのかは知りませんけど。
それでも。
私は私で1人目の客になることを趣味にしている以上、そこに開店する店があり、私のスケジュールが空いているのであれば行かねばならぬ。こういう「縛り」を課すことで暮らしは潤うものなのです。
イノダコーヒ三条店もおそらく無理であろうなと思いつつ、それでもあえて負けに行くのが私の趣味でもあるのです。
さて。
今日は下鴨本通り北大路の交差点南西角にこれまた地元の皆さんに愛され続けているであろうお店がリニューアルオープンします。
別に名前を伏せ続ける必要もないので書いてしまいますが洋菓子店のバイカルです。
私の抱くイメージとしては、京都の洋菓子店といえばバイカル。大学入学して京都に来て最初に入った洋菓子店がバイカルでした。下鴨本店ではなく金閣寺店でしたが、私の地元にはこういう歴史と風格を感じさせる洋菓子店はなかったので「京都ってすごい」と思った記憶があります。
本日、1人目の客になりにいくゆえ、せっかくなのでバイカルのことを調べてみたところ、創業は1955年!この京都下鴨の地が創業の地らしい。
私は大学卒業後、出雲路橋あたりに住んでおり、当時はこのあたりも生活圏内でしたので、「あ、こんなとこにもバイカル!」と思っておったものでした。当時はバイカルに入ることはほとんどなく、もっぱら向かいの葵書房に行っていたのではありましたが。その葵書房も、もうずいぶん前に閉まってしまいました。
これも知らなかったのですが、なぜしばらく閉まっていて、なぜリニューアルオープンしないといけなかったのか、というと、これはお店の公式サイトの文章をそのまま引用しますが、
→ここから引用
2023年9月、この建替えを前に下鴨工房へ車が突っ込む事故が発生しました。
予想を超えた出来事に、社内も戸惑い、また、ほぼ決まりかけていた新店舗の設計も、本当にこのままで大丈夫なのか、と再度設計士と共に検証を重ねました。
新店のテーマは「新しい京都・下鴨のランドマーク」。
建築物に制約の多い京都の街並みになじみ、また下鴨の地域を優しく照らす店舗となればと、約10か月の建設期間を経て、2024年11月15日(金)10:00にリフレッシュオープンいたします。
←ここまで引用
そんなことがあったのは知りませんでした。
うちの近所の定食屋さんも車が突っ込んでしばらく休業しておりました。大通りに面したお店にはそういうリスクもあるらしい。ドライバーの皆さん、くれぐれも安全運転をよろしくお願いいたします。
余談ですが、私はどれだけ気をつけていても自分が事故を起こしてしまいかねないので車の運転はしません。車って強い。不相応な強さを持つと持て余してしまいます。強い力に踊らされて知らずうちに弱い立場の人を傷つけてしまったり、不快な思いにさせてしまったりすることもありますからね。車に乗らなくても、例えば「言葉」一つとっても、その強さが嫌な響きを纏ってしまうことがある。普段言葉をつかう仕事をしている私は、時折、自覚なく、そういう強い言葉を使ってしまっていることがあり、いましがた、そのことについて先輩から指摘を受けたばかりです。
自覚なくやってることだから人に指摘してもらえないとなかなか気づくことができません。「もうあいつに何を言っても直らないわ」と放っておかずにそれをなるべく強くない言葉で私に気づかせてくださった、その方にとってもバイカル下鴨本店は昔から愛着のあるお店だそうです。たぶん、そうやって愛着をもち、今日のリフレッシュオープン(公式サイトにはリニューアルではなくリフレッシュと書いていたのでここからはそれに倣います)を心待ちにされている方がきっと多いことでしょう。
というわけでライバルが多そうなのでオープンの1時間前には着いておこうと家を出て、地下鉄で北大路まで行き、下鴨本通り北大路の交差点まで歩いてきたら8時50分頃に着き、お店の前には誰も並んでおりませんでした。
しばらく待っておりますと、入口の扉が開き、中に置かれていた開店を祝う花輪の数々をスタッフの皆さんが店頭に並べます。開店前のそわそわした雰囲気が私は好きだ。
このときほど「初心」が詰まっていることはないでしょう。長らく同じことを続けていると、ついつい忘れてしまいがちになるもの。当初の志が薄汚れてしまったり、あらぬ方向へ飛躍してしまったり、そのことによって昔は親しんでくださっていた方たちが離れてしまったりすることもある。「あの人は変わってしまった」って周りの人に思うことがたまにある。初心を忘れているからだと思う。自分もそうならないように。開店前の雰囲気を眺めながらそう思う。
道ゆく何人かの人に「何時オープンですか」と聞かれ、「10時です」と答えるとそのまま通り過ぎていかれる。まだ開店まで30分もありますからね。そりゃそうだ。
「10時かいな、まだ時間あるし、ほんなら私、先に銀行寄ってくるわ」と言って消えていった年配の女性が帰ってきたのがオープン20分前。その頃には数人、私の後ろに並んでおりました。
聞くところによると、このリフレッシュオープンに先駆けて実施されたレセプションでも何時オープンかを質問している人が多かったらしい。みんながこの日を待ち侘びていたのです。私も人として、こうありたいと思うのはそれだけでもおこがましいことかもしれません。
お店をオープンするスタッフの皆さん、そのお店に愛着を抱いておられる地元の皆さんの思いに対するリスペクトを失ってしまったら、私のような者が1人目の客になってはいけません。今日はなんだか、私にとってもリフレッシュオープン初日となりました。
令和6年11月15日午前10時、下鴨本通北大路交差点南西角にリフレッシュオープンしたバイカル下鴨本店の1人目の客は私です。
私の後から入ってこられたおじさんに「そのTシャツどこで買うたんや、かっこええな」と言うていただきました。幸せです。
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趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。この趣味について綴った私の著書『1人目の客』や1人目の客Tシャツ、京都情報発信ZINE「京都のき」はウェブショップ「暇書房」にてお買い求めいただけます。