１人目の客になれた話 壬生梛ノ宮町編
趣味はオープンしたお店の１人目の客になることです。新型コロナウイルスも割と落ち着いてきたからなのか、わかりませんが、近頃、新店オープンが増えたような気がします。いや、前から変わらずオープンしていたけど、少し前までは私がアンテナを立てるのを止めていただけかもしれません。
祇園梛神社の近くに新店がオープンしますよ、と私の趣味に理解を示してくれている職場仲間が教えてくれたのが二日前だったか。その日の帰りにチェックしてみたら、確かに６月１９日オープンと書いてある。「ハーブティーとハーブカクテルのお店」と書いてある。もう、明らかに私のような者を客として想定していません。しかし、私は、これを趣味にしているのです。強い意志で突き抜けなければならないのです。
１４時オープンと書いてあったので、３０分ほど前に到着してみると、無事、誰も並んでおりません。お店は四条通り沿いにあるのですが、入口が少し奥まったところなので、いったん歩道に電動自転車を置き、奥へ入っていきます。メニューが立てかけてあり、カモミールとかペパーミントとかレモングラスとか書いてあります。私の馴染みあるオシャレなカタカナといえば、ボビーコールドウェル、ボズスキャッグス、ネッドドヒニーくらいで止まっているので、そのオシャレさに汗が噴き出ました。
手拭いで汗を拭う。ああ、こんなお店に来る人はシルクのハンカチーフなんぞを使うのでしょう。メニューを見ておりますと、店内からオシャレなスタッフの方が出てこられ、「１４時オープンなんです」と告げられました。「実はオープンしたお店の１人目の客になることを趣味にしていまして。このＴシャツをご覧になられたらおわかりと思うのですが。オープンまでここで待たせてもらってもよいですか」そう話すと「いい趣味ですね」と笑ってくださいました。京都人特有のイヤミだという可能性を私は考えもせずに舞い上がりました。
いったん中へ戻ったスタッフの方が再び出てきて、入口前を箒で掃きはじめました。邪魔だと思われていないだろうか、と思いつつ、許可を得てさらに邪魔になるであろう電動自転車を持ってきて待機しておりますと、お掃除しながら話かけてきてくださいます。「いつ頃から趣味になさっているんですか」それ聞く！？聞いちゃうの！？「何年か前に中華のハマムラっていう有名な店が府庁前に移転オープンするときに、早めに行ってみたら１人目の客になれて、その時めちゃくちゃ気持ちよかったのがはじまりですかね」「そのあと、何年かして、大学の先輩に『開店閉店ドットコム』っていうサイトを教えてもらって、これチェックしたら１人目の客になりまくれるやん！って思って本格的にはじめました」などという話を実に興味深そうに聞いてくださり、接客業の鑑かと思いました。
「でも、こういうオシャレで確実に僕みたいなんを客として想定してないお店に並ぶのは
、ちょっと申し訳ない気もするんですけどねー」と、私としては「いえいえ、そんなことないですよ」という答えを期待して話したのですが、これに関しては、微笑み返しをするにとどめておられました。やっぱり、３０分前に「１人目の客Ｔシャツ」を着た４２歳のおっさんが来ることは想定していなかったようです。嘘をつかない姿勢に逆に好感が持てる。
１４時、１人目の客として入店。１０人も入れば満席くらいでしょうか。カウンターのみの小さなお店です。さっき出てこられた方ともう１人、２人で迎えてくださいました。メニューを差し出され、基本、お昼はカフェで夜はバー営業なんですが、お酒を注文していただいてもいいですよ、という説明を受けましたので、一通り、メニューを確認したうえで、私は、意を決して「じゃあ、モ、モ、モ、モヒートをください！」と伝えました。
モヒートが出てくるまでの間に、お店の名前の由来を聞いてみたところ、飼っているモモンガのミミちゃんから名付けたのだそうで、入口前のケージのなかで、ミミちゃんはお眠りになられていました。ミミちゃんカワイイ。出てきたモヒートはストローが２つ、付いてきたので、どういう飲み方をすればいいか、悩みながら、片方のストローで飲む。ミントの葉が詰まってしまったとき用にバックアップでもう１本、ストローが刺さっているらしい。
聞けば、東京にお住まいだったのですが、お店オープンを機にこちらへ来られたとのこと。素晴らしい。実に美味しいモヒートをいただいている間、お知り合いとみられる男女２組が来店し、開店をお祝いしておられました。オシャレな雰囲気でした。モヒートに刺さっているもう１本のストローが飲んでいる間に眼鏡に刺さりそうになっている私のような男が１人目の客になっちゃってごめんなさいね。
６月１９日・日曜日１４時、壬生梛ノ宮町にオープンしたハーブティーとハーブカクテルのお店「３３ｃｈａ（みみちゃ）」の１人目の客は私です。モヒート美味しい。
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