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新聞の何が好きかといえば、興味のない記事があることである。普段自らは知ろうとしない情報に近づくことができるのは近頃得難い魅力だ。インターネットは気を利かせすぎる。先回りしてくれるのは有り難いが才気ばしったところがどうも好きになれない。三国志で曹操が楊脩を嫌っていたのと多分同じ感情だと思う。鶏肋鶏肋。
インターネットは寄り道をさせてくれない。ネットサーフィンなんて寄り道の極みではないかと思われるかもしれないが、あれは結局、楊脩が曹操に忖度して作ったプールのなかを泳いでいるにすぎない。心地よい反面、空疎である。想定外の何かと出合うことがない。あれは寄り道ではなく、最初から最後まで目的なのである。
新聞はどこに何がいるかわからない深海探索である。わかりやすい獲物はいるが、食えるかどうかわかったものではない深海魚に遭遇し、おそるおそる食べてみたらこれほどの美味があったかと腰を抜かしそうになることがある。インターネットは便利であるが、私はもっと不便なほうがいい。不便は面白い。便ばかり追いかけてはやがて大便になってしまう。排泄されて終わってしまうのは嫌だから、私は不便を追い求める。
正直なところ、そんなこと言ってはいるものの、新聞を読むのがしんどいときもある。何やってるんだろうかとよくわからなくなる。どうして私は何も興味がないこの人のコラムを読んでいるんだろう、と思う。
しかし、それを続けているからこそ、ある日、求めていた言葉に思いもよらないところで出合う。
サッカー元日本代表で日本サッカー協会新会長に就任した「ツネ様」こと宮本恒靖さんを紹介する朝日新聞の『ひと』という記事を読んでいた。ツネ様のこともサッカーのこともあまりよくわかっていない。短い記事だが、この記事を読む時間を何か別のことに割くほうがいいんじゃないのか、いや、しかし・・まあ、とりあえず流し読みするか、ルーティンやし。などと思いながら読んでいたら、ツネ様は若かりし頃、プロサッカー選手を目指すと同時に、「何が先につながるか、点と点がいつ線を結ぶかわからない」と考え、学びにも力を注いできたという。
「何が先につながるか、点と点がいつ線を結ぶかわからない」
まさに私はそうであるから、いま、ツネ様の記事を読んだわけである。これだから新聞はやめられない。
同じ日の朝日新聞一面、鷲田清一さんの『折々のことば』は勝海舟の教師のことばを紹介していた。
「時間さへあらば、市中を散歩して、何事となく見覚えておけ、いつかは必ず用がある」
この教師、ツネ様じゃないのか。そうでなかったら私なのかもしれない。ああ、また私は何か大切なことを犠牲にしてまで新聞に時間を費やすのである。
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