短編小説『レセプションお化け』
令和4年8時26日
夕方、久しぶりに山田さんに会う。山田さんは毎日facebookに投稿しているから、そんなに久しぶりな感じはしなかった。どこに行くのかと聞くと「レセプション」と答えた。高級ホテルのレセプションやねん、と少しかったるそうに、迷惑そうに吐き捨てたが、レセプションが始まると言っていた18時30分の3分後には、そのホテルで撮ったとみられる写真をfacebookに投稿していた。このあと、レセプションに来ている人のなかで最も有名とみられる人と一緒に写真を撮り、撮った写真をfacebookにアップする見込み。
「今日は久しぶりにお会いできて嬉しかったです。レセプションの写真拝見しました。元京極アグニFCのダイヤ英寿と一緒の写真ビックリしました!」
山田さんにLINEを送ったら秒で返信がきて「ほんまレセプションばっかでしんどいけど、誘われたら行くしかしゃあないやん😩」と書いてあった。あの速さはひょっとしたら山田さんはAIなのかもしれない。面白くなってオレは「ほんま大変っすね!明日は何してはります?久しぶりに呑みにでもいきませんか」と返してみたら「明日かー、明日はレセプションやねん。。。」と返ってきたが既読は付けずにいたら「ほんまにみんな、なんで俺みたいなん誘ってくるんやろなー。まぁ、多少交友関係広いし、ある程度拡散力があると思ってのことなんやろうけど、正直疲れるわー、明日なんて別にたいしたことないチェーンの居酒屋やからねー」と聞いてもいないことが返ってきた。
「そうなんですねー。いや、残念です。実は僕も明日はレセプションで。今度、今出川丸太町にオープンするホテルエリザベスのレストランのレセプションなんですが、ワイン飲み放題みたいなんで山田さんどうかなーって思ったんですけど、無理なら仕方ないですね。他を当たりますー」と返してやったら、「え?何それ?俺のとこにそんなレセプションのお知らせ来てないけど?」「いやいや、別に君のことをどうこう言うつもりじゃないけど、君を誘うなら、まず俺を誘わないと順序が逆というか」「所詮ただのラジオディレクターの君がまさか俺を差し置いてそんなところのレセプションに行くなんてことは許されないよ」「ねえ、君、わかってる?」「レセプションのレセプションたる意味というものを碌にわかってもいないよね?」「君のような人間が俺を差し置いて?」「そのようなレセプションに参加するというのはよくない。君は参加するのをやめたまえ」矢継ぎ早に返ってきたLINEを無視し続けていたら、未読があっという間に36件にまでなった。
今出川丸太町にホテルエリザベスなんてオープンしない。だいたい京都に今出川丸太町なんて場所が存在しない。ホテルエリザベスというホテルも存在しない。少し調べればわかることを調べようともせず、普段見下しているオレが、自分を差し置いて自分が行くレセプションよりも高級とみられるレセプションに参加するのが鼻持ちならないという思いが勝ってしまい、感情的なLINEを集中投下してしまったらしい。あれが世にも名高いレセプションお化けだ。
レセプションお化けは、自分がレセプションに行きたくて行きたくて仕方なく、レセプションへ参加することが半分生きがいになっているにも拘らず、レセプションへ行くことをかったるそうに迷惑そうに説明する。
レセプションお化けは、レセプションの内容よりも見栄え、とにかく高級か高級ではないかだけに注意を払い、内容については深く触れず、否、浅くさえ触れずに「この高級なレセプションに参加しましたよ!」ということをfacebookにアップする。他のSNSよりも知り合いにピンポイントでアピールしやすいfacebookを好む傾向がある。Twitterでは匿名で店員の接客に対する文句を呟いたりする。そのうえで同じレセプションに参加している人を吟味し、最も有名とみられる人物に声を掛け、親しげに二人で写真を撮り、もちろん、それもfacebookに投稿する。今日も全国各地にレセプションお化けが出没している。
オレが未読にしているLINEは、もう84件に増えている。「君ごときが何を発信してもホテルエリザベスのためにはならないだろう」「オレが代わりに投稿してやるから写真を送りたまえ」「代わりに底辺の居酒屋チェーンの写真を送ってやるよ」
御所の近くにあるビジネスホテルの外観を撮り、いつも行く王将というお店の餃子定食の写真と一緒に画像を送信したら、「😭」と一緒に彼いわく底辺の居酒屋チェーンの焼き鳥と生ビールの写真が送られてきた。facebookを開いたらオレの送った写真に「今出川丸太町のホテルエリザベスにて意外性の餃子でチル❤️」と添えられてあり、74人のfacebookお化けが「いいね」していた。
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