1人目に投票した話 都知事選ではありません
趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。選挙の日は1人目に投票するのも趣味にしています。
東京都民なら今日は都知事選の1人目の投票をするのですが私は都民ではありません。遠い京都の地から投票率が上がることを願うばかりです。こんな私の活動でも少しくらいは投票率のアップにつながるかもしれません。
投票所で1人目に投票する場合、2人目以降と異なるのは、投票箱の中に何も入っていないことを確認する作業があることです。
絶対に何かが入っていることなんて無いのですけど、1人目の投票者がそのことを確かめる、その作業が「公正な選挙」を担保している。大袈裟にいえばそんなところです。正直、「茶番」だと思わないこともないですが、私は長年受け継がれているこういう「無駄」が大好きです。
祇園祭も船鉾の保存会が「神面改め」っていうのを毎年やります。ご神体の神功皇后像に付けるお面の無事を確認する神事です。
神面は室町時代に制作された「本面」と、江戸時代に作られた「写し面」があって、船鉾保存会にとってものすごく大事な大事なもので、巡行中は保存会の役員さんが木箱の中で厳重に保管したうえで鉾に乗り込んで、写し面の方がご神体に付けらるそうです。この「本面」と「写し面」に息がかからないように懐紙をくわえながら、二つの面両方を同時に掲げて無事を確認するのが「神面改め」。別にそんなことしなくても神面はどうせ無事だろうし、そんなに気になるなら毎日ちゃんと様子を見ておけばよいではないか、などというのはつまらないことです。
私は保存会の人間ではないので、毎年この新聞記事を読むたび、「茶番」だと思わないこともないですが、私は長年受け継がれているこういう神事が大好きです。こういうのを一つ一つ大切にするのが成熟した文化なのだと私は思います。
いつもの投票所の体育館の入口で「神面改め」で検索しながら書いてみました。
今日は京都市議会議員中京区補欠選挙という、なんとも地味な選挙なので、そんなに早く行かずとも1人目にはなれるだろうと投票開始40分前に行ってみたところ、体育館入口のスロープ脇の手すりのところにポロシャツで白髪のおじいちゃんが凭れていました。
毎回毎回、この投票所では私が1人目として待機しておりますと、おじいちゃんがやってきまして、「あんた並んどるんか?ほな、わしは1人目に投票でけへんのかいな!わし、毎回1人目に投票しとるんやで?にいちゃん、わし、1人目にはなれへんのか?」と言いながらやがてあきらめて帰っていくんですが、まさか、あのおじいちゃんが今日は私を出し抜くためにいつもより早めに来たのかもしれない。
正直私は帰ろうかと思いました。もはやこの時間にここにいる理由はありません。しかし、たぶん今回の選挙もいつもと同じお兄さんがスタッフとして取り仕切っているはずです。お兄さんに挨拶だけして、「今日は1人目になれませんでしたわ」とカラッとした口調で、あくまで「別に悔しくなんかないよ」という風に言い残して帰ろうと思い、なるべく笑顔を絶やさぬようにそのおじいちゃんの後ろに並んだところ、おじいちゃんは後ろにつけた私を確認してすぐに体育館のなかへ消えていきました。スタッフだったらしい。
しばらく待っておりますと、いつものお兄さんがやってきてくれました。
「今回の選挙はあまり盛り上がってないみたいですね」
「急でしたから仕方ないですよ」
「いつもより遅めに出ても1人目にはなれそうやなと思ってたらなれました」
「ではいつもの段取りでお願いしますね」
なじみの定食屋に「いつもの」と注文する感覚です。ただ、私がいつも思うのは、いつも決まった人が1人目に投票するのは実はものすごく不正が起きやすいのではないかということでして、もし私があのお兄さんと共謀したうえで、すでに五万票くらい入っている投票箱を「空です」と申告するなどしたら・・・
私が言うのも変なんですが、たぶん、本来なら1人目の投票者は毎回違う人であるほうが健全なんでしょうね。まあ、絶対にそんなことは起こり得ないから書いているんですけど。これも「茶番」ですが、長年受け継がれていってほしい。
令和6年7月7日(日)午前7時開始の京都市議会議員中京区補欠選挙、いつもの投票所の1人目の投票者は私です。
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