地面を掘る理由

富山の住職とはもう長い付き合いになる。
住職が片町に出てきて一緒に酒を飲んだり俺が住職の寺に泊まり込んで飲み明かす事もある。
色んな話を好き勝手に話しながら飲む酒は本当に楽しいのだがやはり住職の寺には数えきれないほどの呪物や曰く付きの品々が安置されており、其処から聞こえてくる呻き声や叫び声を頻繁に聞かされることになりそれだけはどうしても慣れる事は無い。
そんな住職の寺で年に一度俺が手伝わされる作業がある。
それは地面を1メートルほど掘り返して其処に置かれている鉄の箱を取り出すという作業だ。
ただいつも鉄の箱を掘り返した時点で俺はその場から無理やり帰らされてしまう。
だから俺は、なんで年に一度そんな物を汗水たらして掘り返しているのか?という事に関して何も知らなかった。
しかし、ある時、住職の寺で夜通し酒を飲んでいた時、俺がその話題にしつこく食い下がり渋々住職が聞かせてくれたのがこれから書く内容になる。
住職は俺に話し始める前にこう言った。
この話は一度聞いたらもう逃げられないんだからな?
本当にその覚悟があるんだな?と。
確かにそう言われると少し腰が引けてしまったが、生臭坊主ではあるが退魔を生業としている住職がここまで神経質になる曰くとは何なのか?という好奇心が勝ってしまった。
そしてここからは臨場感を優先して記憶している限り会話形式で書いていこうと思う。
住 双子って知ってるか?
俺 お前、完全に俺の事を馬鹿だと思ってるだろ?
住 思ってねえよ・・・思ってねえけど知らなかったら話がややこしくなると思ってな?
俺 はいはい。まあ分かったからさっさと話せ・・・。
住 実はな・・・もう10年以上前になるかな。ある地方の田舎から依頼があってな。その依頼内容というのが双子の娘さんの関する話だったんだ。
俺 で?・・・・お前の話、前置きが長いって・・・。
住 その依頼っていうのが霊的な能力を封印してくれないか、という事でな。つまりその双子の姉妹っていうのが霊的な能力を持ってるみたいでな。それを何処にでもいる普通の子は同じようにして欲しいという内容だったんだよ。
俺 ふうん。お前でもそんな事出来るんだ?以前Aさんがやったのは見た事あるけど、そういうのってお前程度でも出来る事なのか。なんか意外だわ。
住 お前程度で悪かったな。お前はワシを過小評価し過ぎだぞ。お前の周りにいるAさんとか姫ちゃんが異常すぎるだけでワシもれっきとした法力僧なんだけどな?まあ、確かにAさんとか姫ちゃんの霊力を封印できるか?って聞かれたら無理!と即答するけどな。
俺 ふうん・・・そんなもんなのか。で、お前はその依頼受けたの?まあ受けてなかったらここで話が終わっちゃうんだけどな(笑)
住 いや、ワシは最初は断ったよ。そもそも霊力というものは誰かに授けてもらったり封印されるべきものではないからな。霊力があるのもきっと何かの為、なんだろうからな。それを強引に抑え込むのは本来やるべきじゃないんだから。
俺 そっか。で、依頼を受けてどうだったの?ちゃんとその姉妹の霊力は封印できたの?
住 だから一度断ったと言っとるだろうが?断ったが向こうがやけに必死に頼み込んでくるんだよ。早くしないと大変な事になるから・・・って言ってな。だからワシも少し興味がわいたんだ。霊力がある事で大変な事になるってどういう意味だ?しかもそんなに急ぐ必要があるのは何故なんだ?ってさ。
  だからとりあえず一度会ってみる事にした。双子の姉妹はかなりの霊力というか霊感が備わってたな。そしてワシも封印する前に一度確かめたかった。どうして封印しなければいけないのか?ってな。すると、霊力があるせいで視えないはずのモノが視えてしまうらしくてな。しかも実害を伴って。確かにその双子の姉妹はまだ中学生くらいなんだろうけど体中が包帯だらけでな。それも全部、霊障によるものだと説明されたよ。まあ確かにワシにもわかったよ。その姉妹の怪我が虐待やイジメによる物理的な攻撃によるケガではないという事は・・・。しかし、そうなるとその姉妹の霊力を取り払う、いや封印しようとすればその姉妹に攻撃している何かが黙ってはいないだろうと考えたんだ。下手すれば獲物が居なくなってしまうんだからな。だからワシはかなり大掛かりな準備をしてその姉妹の霊力を封印する事にした。ただ不思議な事にワシがその姉妹の霊力を封印している間、一切の邪魔が入らなかったんだ。わしもそれほど強い結界は張らなかった。むしろソレが姿を見せてくれれば一気に祓ってしまおうとさえ思っていたんだからな。で、結果としてワシの術は成功した。双子の姉妹からは完全に霊力が消えてしまった。まあ、無理やり抑え込んでるだけで完全に消し去る事は出来ないんだけどな。
俺 ふうん。ちゃんと成功させたんだ。お前でもたまにはうまくいく事もあるんだな?でも、良かったじゃん、それでその姉妹は救われたんだろ?
住 いや、そうではなかった。ワシはその家の家主に騙されたんだな。これは後で分かった事なんだがその家系では元々が強い霊力を持ったものが多く生まれて来てたんだ。そしてそれを利用して占いや呪術で生計を立てていたみたいでな。まあこんな風に言うと聞こえが良いが、つまりは霊的な力を以てその土地の家々を支配していたんだろうな。そして、そんな風習が今でも色濃く残ってる土地みたいでな。しかも50年~100年に一度くらいとんでもない霊力を生まれながらにして備えた子が生まれるらしい。
俺 という事はその姉妹がそのサラブレットなのか?だとしたらどうして封印なんかする必要があるんだ?
住 いや、待てって。ちゃんと話は最後まで聞け!これも後から分かった事なんだけどな。その姉妹は双子ではなくて三つ子だったんだよ。そしてサラブレットはその姉妹ではなくてもう一人の女の子だそうだ。つまりワシが封印したのはサラブレットではなくて、出がらしの控えめな能力を備えた姉妹だった。まあ控えめとはいってもワシから言わせれば相当な霊力を秘めていたけどな。
俺 それじゃ、お前は余計な事しただけなんじゃないの?せっかく三つ子が力を合わせればもっとすごい力が発揮出来たかもしれないのに・・・・。
住 だから話は最後まで聞けと言っとるだろうが?なんでもな。昔から強い霊力を備えた子が生まれる時には三つ子か双子らしいんだよ。そして、その中の1人が最強らしい。そしてワシが思うに、常に三つ子か双子で生まれてくるというのは霊力が桁外れに強いその一人を諫めて暴走させないためだと思うんだ。だが、そうはしなかった。三つ子か双子のうちの1人がより孤高の存在になるためにその家系ではずっと他の子を生贄にしてきた。生贄と言っても別に殺したりするわけじゃない。要は他の子の霊力を封印してそのサラブレットに取り込ませるという事だな。そうすればそのサラブレットはより強くなれるみたいだ。だからその時ワシがした事はその双子の姉妹を霊力を封印してより簡単に三つ子の1人であるサラブレットに取り込ませやすくする事に加担した事になる。ワシも後悔したし何か出来ないか?と思案したよ。でもな、ワシが思っていたよりもそのサラブレットの能力は規格外だった。ワシではただの捨て駒になるばかりか取り込まれてしまう可能性だってあった。
俺 なんかすごい話になって来たな。でも、ここまで聞いた話とお寺の庭に埋めてある鉄の箱の因果関係が全く分からんのだが?
住 だから、ここからが本題なんだよ。で、ワシは思案した。何とかできないか?ってな。
  しかし、ワシの知り合いにもそれ程の能力を持っているものはおらんかった。
  でもな。突然思い出したんだ。化け物が一人いた・・・ってな。
俺 そんな奴がいたんならさっさと頼めば良かったのに・・・。
住 まあ、そうかもしれんが。その時はそいつとはまだ知り合って間もなかったし、どちらかと言えば敵対関係に近かったからな。なかなか助けを乞う決心がつかなかった。
俺 そんなこと言ってる場合じゃなかったんだろ?本当にお前は昔から素直じゃないんだよな。しかも初対面の時の印象も最悪だし(笑)
住 まあその点に関しては否定はせんよ。でもな、思い切って頼んでみたらそいつはこう言ったんだ。「いいですよ・・・面白そうだからやりますよ」ってな。
俺 で、謝礼は高かったのか?
住 いや、お金は1円も取らなかった。その代りに食事券を渡した。相手の希望でな。
俺 いや、それってもしかしてAさん?お前がAさんとそれなりに仲良くなったのってそんなに前からじゃないよな?よく頼めたな?
住 背に腹は代えられんというか、そんな事を考えている余裕が無かったんだ。
俺 で、結局どうなったんだ?Aさんとそのサラブレットで対峙したんだろ?
住 ああ・・・したよ。そしてすぐに終わった。Aさんは確かポテチを食べながら対峙してたな。何してるのかは分からなかった。でも、あとで聞いたらその女の子の霊力を封印してたって言ってたな。ほんの数十秒の事だったよ。その時はっきりわかった。規格外の化け物は誰なのか?って事がな。まるで相手にならなかった。それからはワシもAさんに興味がわいた事も事実だし、できるだけ怒らせないように気を付ける様になった。
俺 その当時から凄かったという事ね。まあ、なんとなく納得できるけどな。でも、それとお寺に埋まってる鉄の箱が繋がらんぞ?
住 ああ、そうだったな。全てが終わった後でAさんに言われた。女の子の能力は封印したけど、そもそも先祖代々の呪力的な霊力はまだ生きてる。そして、復活しようとする筈だってな。その時に利用されるのは三つ子のサラブレットではなくてその他の2人の姉妹なんだそうだ。だからAさんはその双子の姉妹の依り代として念を込めてヒトガタを作ってくれた。そして、これを鉄の箱に入れて地面の中に埋めろってな。地面の中に鉄の箱を埋めなぎゃ防げないそうだ。それでもその結界が持つのはせいぜい1年から2年。だからその双子の姉妹を護りたいなら1年に一度地面を掘り返して鉄の箱を取り出して中に入っているヒトガタを新しいものに変えろってさ。だからワシは1年に一度地面を掘り返してヒトガタを新しいものに変えてるんだ。お前に手伝わせてるのはAさんからアドバイスされたから。霊的な守護が強い者以外はその鉄の箱に近づいてはいけませんってさ。そしてお前が最適なんだそうだ。すまんな・・・。
俺 まあ、大筋で話は理解できたけど、もう10年以上前の話なんだろ?もうそろそろ浄化されてるんじゃないのか?お寺の地面を1メートルも掘り返すのって大変すぎるだろ?
住 まあできる事ならワシもやりたくないがな。でも、お前には見せていないが毎年ヒトガタを交換する時、古いヒトガタはかなり真っ黒になってるんだよ。今でもな。
  だから、これはその姉妹が亡くなるまでずっと続けなくちゃいかんのだ。あっ、それとな。この事を絶対に他言するなって忠告したのはAさんだからな。この事実を知っただけでもかなり危険な目に遭うらしい。実際ワシも恐ろしい目に遭ったからな。
俺 お前な・・・それならそうと最初に言えよ!そこまで危険なら絶対に聞かなかったからな!
 
これがその時話した全てである。
しかし、その後、俺はそれに関連していると思われる怪異には一度も遭遇していない。
何故なのか?
それは俺にも分からない。

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