揺れる・・・
超自然的現象とは明らかに自然ではなく現在の科学や常識ではとても説明がつかない現象の事である。
そんな超自然的な現象が目の前で起きているとしたらあなたはその場から逃げますか?
それともその謎を解き明かしたいと、いや自分自身を納得させるために近づきますか?
危険を顧みず・・・。
確かにそれは全く未知の常識になり得る発見かもしれない。
しかしその確率は低くその殆どは俗にいう怪異というものに他ならないのだが・・・。
長野県にお住いの佐久間さんは建設会社に勤める42歳の男性。
仕事は主に現場での施工管理、いわゆる現場監督になる。
ただ大きなゼネコンとは異なり彼が勤めている小さな建設会社では現場監督といってもやるべき事は多岐にわたり雑用から力仕事までなんでもやらなくてはいけない様だ。
そんな彼の会社では入社して2年も経っていない新入社員が現場で亡くなるという死亡事故が発生していた。
彼とも特別に仲が良いとか彼の現場での事故というわけではなかったが彼としてはその新入社員の死をずっと悔やみひきずっていたそうだ。
そんな彼が超自然現象に初めて遭遇したのは仕事が終わり駅から自宅まで歩いていた時。
前方に小さな公園があり古い街灯が弱弱しく光っていた。
いつも帰り道で横眼に見ながら通り過ぎる公園。
しかもその夜はいつもとは明らかに違っていた。
残業が長引いてしまい彼が会社を出たのは午後10時を回っていた。
だからその時は少なくとも午後11時に近い時刻になっていたはずだった。
それなのに公園から音が聞こえてきた。
ギーコ・・・ギーコ・・・ギーコ・・・ギーコ・・・。
それは明らかにブランコが揺れる音であり実際にブランコが揺れていた。
それなのにそのブランコには誰も乗ってはいなかった。
そもそもそんな深夜に公園で遊んでいる子供などいるはずもなかった。
それなのに彼の眼には明らかにゆっくりと前後に揺れ続けるブランコとギーコギーコという音が聞こえていた。
風は不気味なほど無風状態。
そして2脚あるブランコのうち揺れているのは1脚だけ・・・。
だから彼はその光景に強い興味を惹かれた。
怖いというよりも、どうなっているのかが知りたい!という気持ちの方が強かった。
彼は揺れ続けているブランコへと静かに近づいていった。
前後に1メートル程の幅でゆっくりと揺れているブランコは一向にその動きを止める様子も無かった。
それなのにどこにも何の仕掛けも無い。
つまり誰かのイタズラではないのは明らかだった。
彼は思い切ってそのブランコの動きを自らの手で止めようとした。
ゆっくりと手を伸ばしてブランコの座る部分を手で掴む。
その瞬間、明らかな違和感が伝わってきた。
ブランコが軽くなかったのだ。
誰も乗っていないのならばブランコは軽いはずだから簡単に片手でも止められるはずだった。
それなのに彼が掴んだ手まで引きずられるようにブランコの動きと同調してしまう。
彼は少し背中に冷たい物を感じながらそっと手を離した。
その刹那、突然ブランコは前後の振れを大きくし彼の顔面に激突した。
涙が出てしまう程の痛みだったが彼は反射的にその場から走り出した。
そして背後を一度も振り返らず自宅に戻るとすぐに洗面台の鏡で自分の顔を確認した。
すると彼の顔はかまいたちのようにスパッと裂けており流血し無残な状態だったという。
2度目に彼が遭遇した超自然的な現象は仕事で山間の現場に向かっていた時の事。
現場近くを見回っていた時、現場と大きな道路をショートカットできるルートを発見した。
幅は5メートル程度の小さな谷に古い吊り橋が架けられていた。
大きな道路から現場まで車と徒歩で20分以上かかっていたがその吊り橋を通る事が出来れば所要時間は5分程度に短縮できた。
だから彼はすぐにその吊り橋が使用できる物かどうかを確認しようと思った。
現場監督としては当たり前の行動かもしれない。
しかし問題はその吊り橋が揺れていたという事。
確かに古い木製の吊り橋ではあった。
だがその時は天気も晴れで風も無く穏やか過ぎる気候だった。
そんな中で吊り橋が揺れていた。
その揺れ方はまるで視えない何かが吊り橋の上を行ったり来たりしているような説明のつかない揺れ方だった。
しかし彼の頭の中には現場への行程の時間短縮の事しか無かったのだろう。
一緒にいた部下の制止も聞かず彼は1人でその吊り橋を渡り始めた。
彼が吊り橋を渡り始めると揺れは一気に大きくなり彼はそのまま進む事も出来ずただ吊り橋の上で立ち止まり揺れが収まるのを待つしかなかった。
だが揺れは収まるどころか突然ありえないほどの大きな揺れへと変わった。
それはまるで誰かが吊り橋の向こう側から突進して来ている様な奇妙で大きな揺れ方にしか見えなかったそうだ。
彼は吊り橋から落ちないように必死に縄で出来た部分にしがみついた。
しかし次の瞬間、彼の体は突風にでもあおられたようにバランスを崩すとそのまま足場の隙間から谷へと落ちていった。
慌てて助け出された彼だったが体の何箇所かを骨折し内臓にも損傷を負った。
以上が彼の身に起こった超自然的な現象である。
ちなみに数年前に亡くなった新入社員との関係は何も無いが、ただはっきりしているのは全てがその新入社員の死亡後に起こり始めたという事である。
そんな彼の身の回りでは、押しボタン式信号が誰もいないのに反応し彼の行く先々の信号が全て赤になりずっと変わらないというような超自然的な現象が毎日の様に続いている。