あれから・・・後編

しかし次の瞬間、突然緊張感の無い笑い声が病室内に響いた。
 
住 ガハハハ、なかなか面白い反応じゃのう!どうだ?入院した気分は?少しは良くなったか?
 
上を見上げるとそこには富山の住職の顔があった。
何が嬉しいのか、呑気に大口を開けて豪快に笑っていた。
 
俺 あっ、てめえ、何してくれんだよ!っていうか、どうしてお前が此処にいるんだよ?しばらく戻れないって言ってなかったか?そのせいで一人で何とかしようとしてこんな目に遭ったっていうのに!だから呑気にイタズラしてんじゃねえよ!
 
住 ガハハハ、まあ、そういうな。ワシもお前を心配して予定を早めてわざわざ戻って来てやったんだから。それでどうだ?具合の方は?
 
俺 お前さ?あの電話の後、音信不通になって俺も心配してたんだぞ?具合は最悪だよ。身体が重くて息苦しくて・・・。それも全部お前のせいだからな!
 
住 ワシのせいか?まあそれでもいいぞ。ワシもあの後、色々とあってな。で、お前の身体の不具合は病気じゃないから病院じゃ治せんぞ?待ってろ。ワシが今、楽にしてやるから!
 
俺 えっ?お前にそんな力あったか?楽にしてやるって俺の息の根を止めるって意味じゃないだろうな?
 
住 信用が無いもんじゃのぅ。昔はワシが除霊してやってたのを忘れたのか?まあ、殺してやってもいいが面倒くさいから除霊だけするぞ。
 
そう言って住職は俺の身体をバシバシと叩き続けお経を唱え始めた。
そうすると、すぐに体が楽になった。
まるで身体中の毒素が一気に抜けていく様に・・・。
 
住 どうだ?楽になっただろ?
 
俺 お前、必要以上に叩いてないか?でも、うん、確かに楽になった。助かった。ありがと。で、どうする?このまま一気に畳みかけるか?
 
住 ちょっと待て。勘違いするな。ワシが出来るのはここまでだ。お前が今対峙している相手はワシの手には負えんほど厄介な奴だ。あんなに離れた場所にいたワシまで巻き添えになりそうだったんだからな。だからお前も逃げた方がいい!可能な限り遠くへな。なんなら海外だと安心だぞ!それとな。お前に憑いていたのはただの下っ端だ。だからワシでも祓う事が出来た。じゃが本体はそんなもんじゃない。全く別物だ。言葉も通じん獣の霊だ。そして完全なバケモノだ。桁外れのな。どうして今まであんな奴がこの世に出てこなかったのかは分からんが・・・。
 
俺 そんな凄い奴なのかよ。なんかやる気が失せるわ・・・。でもやらなきゃ死ぬだけだからな。それとな、お前はバカなのか?どうやったら、しがないサラリーマンが海外逃亡なんか出来るんだよ?本気でそう思ってるんなら500万ほど寄付してくれ!
 
住 まあ冗談はここまでにしてだ。実際問題として何とか対策せんとかなりマズい事になるぞ?今はAさんも姫ちゃんもおらんからなぁ。どうする?
 
俺 いや、だから俺がお前に対策方法を聞いているんだけどな? やっぱりお前じゃアイツの相手は無理か? 能力不足か?
 
住 なかなか嫌な言い方をする奴じゃな。まあ、ワシが立ち会っても食われるか、憑依されるかのどっちかだな。そうなったらワシはお前の敵に回る事になるがそれでもいいか? まあ、どちらにしてももう動けるのはワシとお前だけなんだからお互いに無理は避けんとな?
 
俺 だから別に無理したんじゃねえよ。あの写真の事を忘れてただけだって言ってるだろ?で、やっぱり対峙するのは無理か?お前の言う通りに逃げるしかないのかな・・・。
 
住 ああ、逃げるしか手は無いぞ。まあ、これが普通だろうな。これまでが異常だっただけだ。ふつうは怪異に対峙なんかしない。適当に誤魔化してうやむやにしてな。だからあの二人がいるという事がどれだけ凄いことだったのか、今更にして実感しとるよ。
 
俺 Aさんと姫ちゃんか・・・。まあ、それは考えない事にしてるよ。あの二人にもそれぞれ生活があるんだからな。だからあの二人にはもう頼らない。これまで迷惑をかけまくってきたんだから・・・。
 
そう言うと、住職は大きく頷いて布袋を俺の前に差し出した。
 
住 ほら、とりあえず渡しておく。Aさんや姫ちゃんとは比べようもないが、何かの気休めくらいにはなるだろ?それじゃワシはもう帰るぞ。これでもかなかな忙しい身なんでな。まあ、死ぬなよ?ワシも死なんから!
 
そう言うと、住職は手を振って病室から出ていった。
俺一人が病室に残されたが、既に体調は完全に回復している。
住職には感謝しなきゃな・・・。
そう思いながら俺は翌日には無事に退院する事が出来た。
 
家に帰った俺は愕然とした。
俺の家にはAさんから貰った手作りの護符が至る所に貼ってある。
それがかなり黒く変色していた。
かなり以前に貰った護符だが、ずっと家の中を浄化し護ってくれていた。
その護符が黒く変色しベッタリと水分を含んでいた。
それが過去の経験から、もう長くは効力を維持できないという事を知らせてくれていた。
だとしたら、一刻も猶予は無かった。
住職から貰った袋の中には御札と数珠、そして粗塩が入っていた。
きっとアイツが考えた自衛ツールなんだろう。
しかし、やはりそれだけでは不安は払拭できなかった。
だからAさんから貰ったまま温存していた新品の護符と扇子も持って家を出る。
今度こそ、何とかして廃寺の本堂まで辿り着く。
きっとソレは本堂に棲みついているはずだから。
そして誠心誠意、謝罪し説得しなければいけない。
もし出来なければ、もう助からないという事なる。
だから自信が無くてもやるんだ!
出来るか出来ないかという問題ではない!
自分にそう言い聞かせた。
 
車に乗った俺は前回とは全く違うルートであの場所へと向かった。
そのせいで前回よりも少し時間を要したが何とか無事にあの廃寺がある山へ辿り着く事が出来た。
しかし車が廃寺に近づくにつれて、またしても周りの景色が一気に暗くなった。
「おいおい、またかよ?どれだけ暗いのが好きなんだよ?」
そんな事を思っているとやがて車は完全なる闇の中を走ることになった。
まだ時刻は午後2時過ぎ・・・。
まだまだ暗くなる時刻ではないが、そうしたいのならばそうすればいい。
俺の意気込みには一片の曇りも無かった。
暗い道をヘッドライトの明かりだけを頼りに慎重に走る。
時折、道の端に何かが立っているのが見えて肝が冷えたが、そもそもそんな程度の事で驚いていたのでは話にもならない。
俺はこれから下っ端ではなくラスボスと対峙しなければいけないのだから。
色々とあったが、それでも何とかあの廃寺の前までやって来た。
「何とかふりだしまで戻って来られたな・・・」
車を停車し車外に出たが、エンジンはかけたままにした。
いつでも逃げられるように・・・。
静かな空間に停車させたエンジンの音だけが静かに響いていた。
石段を一段ずつゆっくりと上ろうと思っていた。
しかし前回は確かに上ったはずの石段が消えうせていた。
「どうしてだ?間違いなくあの寺なのに・・・。石段まで消したり出したり出来るのかよ?」
そうして固まっていると背後に停めてあった車のエンジンが突然停止した。
そしてまた一気に周囲の気温が下がったような気がした。
静寂に包まれた暗闇から何かがゆっくりと近づいてくる気配を感じる。
どうする?
このまま此処で待機か?
それとも、このまま進めばいいのか?
いくら考えても答えが出ない。
俺は背中に冷や汗が流れるのを感じながらその場に立ち尽くすしかなかった。
そして思った。
もう一つの選択肢があるじゃないか!
それは此処からさっさと逃げ出す事・・・。
上手く逃げきれたら今の土地から出来るだけ遠くへ引っ越す。
そうすれば、住職が言っていたように命だけは助かるかもしれない。
しかし、そんな考えももう遅すぎたのかもしれない。
周りから押し潰されそうな重圧と恐怖を感じた俺は、恥ずかしながら後ずさりする事も身体を動かす事も出来なくなってしまっていた。
「ダメだ・・・殺される」
 
そう思った時だった。
ポンポンポン・・・。
誰かが俺の背中を叩いた気がした。
えっ?
思わず振り返るとそこには見慣れた顔があった。
ニコニコと笑った顔。
あの姫ちゃんが其処に立っていた。
大きな紙袋を地面に置いたままで・・。
 
姫 キャー、Kさんだ~!本当にいた~!お久しぶりです~。
 
俺 えっ?お久しぶりだけど今、かなり緊迫した状況なんだけど?
 
姫 はい。大丈夫です!今は動けなくしてちょっと静かにしてもらってますから!
 
俺 えっ、あっ、そうなんだ? いや、でも、なんで? どうして? 仕事は? なんで、こんな所にいるの?
 
姫 えっ?どうしてって?嫌ですよ~、久しぶりにお休みもらって帰ってきました~、あっ、そうそう、ちゃんとお土産も買ってきたんですよ~、どうです?偉いでしょ~?
 
俺 いや、そういう事じゃなくて・・・。どうして俺が此処にいるって分かったの?それとね。どうやって此処に来たの?
 
姫 まあ、それはとりあえず置いておいて・・・ですねぇ。えっとこれが東京のお土産で~、そしてこれが出張に行った時のドイツのお土産です~、Kさんってドイツ行ったことないですよね~?それと東京にも近づけなかったですよね~?
 
俺 いや、だからさ。こんな所で呑気にお土産を渡されても困るというか、頭が混乱しちゃうんだけどね・・・。実は今、それどころじゃなくて・・・。
 
姫 はい。大丈夫です。ちゃんとKさんが好みそうなお菓子を買ってきましたからぁ。何だと思います? えっとこっちがスポンジ菓子でドイツのがクッキーですよ。気に入ってくれると嬉しいんですけどねぇ。
 
俺 いや、もうほんとに勘弁してよ。あのさ、今って凄く危険な状態でさ。それってわかってる?
 
姫 は~い。大体の流れは把握してますよ~。えっと、あちらにいらっしゃるのが今回のお相手の方ですか~?さすがにKさんがお相手するくらいだから凄く怖そうですね~?
 
俺 いや、全然お相手なんかしたくないし・・・・。 というか敵というか命を狙われちゃってるのよ? つまり俺、殺されそうなんだけど?・・・。 なんでそんなに緊張感が無いの?  いや、もうそんな事はどうでもいいや。 あのさ、えっと、姫ちゃん、何とか出来そう? コイツに勝てそう?
 
姫 それはやってみないと分かりませんね~。それに私でも良いんですけど、もうひとり遅れて来てくださる方がいる予定なので~。そしてその方は私なんかより遥かにお強いですし此処にいる方にもかなり怒っていらっしゃいましたから・・・。だからその方にお願いされた方が良いと思いますよ~
 
その刹那、1台の黒い高級車が道路に停まると運転者が出てきて後部座席のドアを開けた。
そしてトランクから何かを取り出して地面に置き、それに誰かを乗せるとそのまま車は走り去ってしまった。
車のライトで誰かは分からなかったが、姫ちゃんの言葉から俺にもそれが誰なのかは想像できた。
しかしAさんは現在実家にいて車いすでしか動けない状態。
そんなAさんがこんな場所に来られる筈は無かった。
 
「なに呑気な事やってるんですか?やっぱりバカなんですか?」
 
聞き慣れた冷たい声は明らかにAさんだった。
 
俺 えっ?なんで?どうしてこんな所にいるの?あっ、車いす・・・。それなら尚更、こんな所にいちゃ駄目じゃん!
 
A なんで? どうして? それしか喋れないんですか? 相変わらずボキャブラリーが貧し過ぎますよね? そんな感じでどうして営業の仕事なんか出来るのか? それが私にとっての最大の謎ですけどね・・・。
 
俺 そうですか、すみませんね。自分でも不思議だよ。
 
俺がそう言ったのと同時にAさんに気付いた姫ちゃんが慌ててAさんへと駆け寄る。
 
姫 Aさん、会いたかったです~。どうですか、足の方は? ご無理だけはされないでくださいね~。あっ、そんな事より・・・。 えっと~これがAさんに買ってきたお土産です~。お菓子とお酒ですけどかなり奮発しました~。 これってKさんやご住職のよりも高いやつなので絶対に言わないでくださいね~
 
A うん。分かったよ。絶対言わないから!でも姫ちゃんも相変わらず元気だね。それに全然変わってないじゃん!
 
俺 はいはい。全部聞こえてるんですけどね?まあ、全然いいんだけどさ。それに住職にもお土産があるんだ?
 
姫 はい。そうなんです~。でもご住職は連絡がつかなくって。 どうすればいいと思いますか~? お酒は良いんですけどもう一つはあまり日持ちがしない物なので・・・。
 
俺 いや、アイツなら腐ってても食うと思うから大丈夫だよ。それに2か月もすりゃ戻ってくると思うから俺から渡しとくよ。
 
そんな奇妙な会話をしていた時だった。
 
A で、コイツどうすればいいんですか? そもそもコイツってKさんのお友達?それとも敵なんですか?
 
俺 いや、そんなの見りゃわかるでしょ? っていうか、こんな危ない友達なんかいねえから! そもそも命を狙われてるんだから! だからさっさと助けてよ?
 
A さっさと助けてよ? それが他人にものを頼む言い方ですか? もう一度小学校からお勉強してきた方が良いんじゃないですか? 他人にちゃんと頼む時にはそれなりの言葉遣いってものがあるんじゃないですか?
 
この時、俺は全く恐怖を感じなくなっていた。
確かにこの場所に来た時には恐怖で心臓が早鐘の様に鳴り響いていた。
それがどうだ。
今は全く恐怖を感じていない。
思い起こせばいつもそうだった。
どんなに恐ろしい相手に対峙した時でも心の中には余裕があった。
不思議にゆるゆるした空気の中にいた。
それは勿論、Aさんと姫ちゃんがいたから・・・。
この二人がいれば怖いモノも怖いモノではなくなっていた。
 
俺 あ~、もうどうでもいいわ。えっと、すみません。 助けてくれませんか?お願いします・・・。
 
それを見たAさんの顔がにやりと笑う。
 
A どうでもいい? まあ聞こえなかった事にしておきますね。 はい。わかりました。ちゃんとお願いされました。 でもいいですね。 これはKさんから依頼されての行動であって、私が勝手にやった事ではありませんからね? だから、ちゃんとお礼はしなくちゃいけませんよ?
 
そう言うと、Aさんは車いすのまま前へと進む。
雑草が自ら倒れて車いすでも通れる道を作っていく。
10メートルほど進んだ場所で車いすを停止させるAさん。
そして、そのまま車いすから立ち上がると何にも掴まらずに二足でその場に立ちあがった。
「だからさぁ。さっきから説明してるでしょ? 私が言ってる意味分かんないの? アンタがちょっかい出してるのはうちの雑用係なの・・・わかる? わかんないなら仕方ないよね? 消しちゃうけどいい? まあ出来るだけ痛くないようにはしてあげるけどさ」
 
Aさんがそう言った瞬間、廃寺の奥から何かが凄まじい勢いで近づいてくるのがわかった。
その風圧で俺は思わず体勢を崩されてしまう。
しかし俺よりも前に立つAさんはそんな風など関係ないとでも言うように微動だにしなかった。
 
残念だね・・・せっかくそこまで恐れられるバケモノになったのに・・・。
でもね・・・上には上がいるの・・・バイバイ!
 
そう言った瞬間、辺りが白い閃光に覆われる。
そしてその光が消えた時、辺りは暗闇ではなく完全な昼間に戻っていた。
怪しい気配は消えてしまい、のどかな自然が癒しさえ感じさせる。
 
A はい・・・リハビリ終わりましたよ。それじゃ帰りますかね・・・。
 
そう言ってAさんは俺を手招きする。
 
俺 えっ?何?どうしたの?
 
Aさんの元に駆け寄るとおもむろにこう言われた。
 
A 押してくださいね。私は車いすなんですから・・・。
 
俺 いや、ちょっと待ってよ。さっき自力で立ち上がってなかった?いや、間違いなく自分の足で立ち上がってたじゃん!それに強い風が吹いてきてもびくともしなかったよね?ほんとに足が不自由なの?なんか怪しいんだけど・・・。本当は立ち上がれるんならちゃんと自分の足で歩いてよね。
 
A 姫ちゃん?聞いた?今の言葉? これって完全に障害者イジメだと思わない?なんかショックだよね。姫ちゃん、私、泣いてもいいかな?
 
姫 はい。私もびっくりしました~。まさかKさんがイジメをするなんて・・・。Aさんが泣かれるのなら私も一緒に泣いていいですか?
俺 いや、イジメじゃなくてさ。だって本当に立ち上がってたじゃん?
 
A 本当に小さい人間ですよね。小さなことにいちいち拘って・・・。頑張ればなんとか立ち上がれるけど本当に歩けないんですけど?でも、そんなんじゃ友達いないでしょ?これからも一人きりで生きていくんですか?可哀そうに・・・。
 
俺 ほっといてくれ。とにかく立ち上がったのをしっかり見たんだから車いすは絶対に押さないからね。
 
A そうですか。わかりました・・・。それじゃ、車いすは自分で動かします。ただ操作に慣れていませんから誰かにぶつかったり轢いたりするかもしれませんけど気にしないでくださいね?
 
 
それを聞いた俺は慌てて車いすを押す事にした。
こんな茶番劇にこれ以上付き合ってはいられなかった。
そして俺は車いすを押しながらAさんに聞いた。
「えっと・・・ところでどうやって帰るの?さっき送って来た車はもう行っちゃったみたいだけどさ?」
A 何言ってるんですか?そんなのKさんが乗せて帰るに決まってるじゃないですか!バカなんですか?
 
俺 いや、どっちかって言うとバカなのはAさんでしょ?どうやったら軽四に3人+車いすが乗せるの?乗らないでしょ?
 
A 相変わらず気合が足りない人ですよね?どうしてやってみる前から諦めちゃうんですかね?やってみなきゃわかんないもんですよ?
 
俺 いや、どう見たって乗れないのは一目瞭然なんだけど?でも、わかった。やるだけやってみればいいんだよね?
 
Aさんと姫ちゃんが後部座席に乗り、車いすを狭いトランクに収めようとしたが乗せられる筈もなく、これみよがしに助手席に乗せてみる。
車いすが運転席まではみ出してしまい、とても運転できそうもない。
 
俺 そら、やっぱり無理でしょ?こんな状態じゃまともに運転できないよ?車いすが運転席の半分くらいまではみ出してるでしょ?
 
A やりましたね。ほら、乗せられるじゃないですか!それじゃとりあえず金沢まで出発進行ですね!
 
俺 いや、何が出発進行なんだよ?どう考えたってこんな状態じゃ運転できる訳ないじゃん? っていうかさ。今気づいたけどさ。どうして車いすなのにタイトなミニスカートなんてはいてんの?それに相変わらず派手な服着てるし・・・。あっ、しかもピンヒールまで履いてるじゃん?なんでもっと落ち着いた服装にしないのよ?
 
A はぁ?余計なお世話ですよ。いいじゃないですか?ミニはいたって!私は好きな服を着て好きな事を好きなだけするんです!Kさんに文句を言われる筋合いは1ミリもありませんからね!
 
姫 そうですよ~、なんかとってもお似合いです~。私もそんな服がに合うようになりたいです~。Kさん、私が来てもAさんみたいに似合いますからね~?
 
俺 あっ、いや、姫ちゃん、ごめん。話がややこしくなるから割り込んでこないでね?
 
A あっ、Kさんがそんなこと言うから姫ちゃん泣きそうじゃないですか?どうしてそんなひどい事を言えるんですか?暴力ですね・・・言葉の暴力!もうKさんは人でなしですね。いや人間のクズ・・・いや人間でもなくてカメムシです!
 
もう一体何を言っているのかも分からなくなっていく。
それにしてもこんなやり取りが再びできる事を喜ばなけれぱいけないのかもしれない。
そしてもう二度とこんな時間を過ごす事が出来ないのかもしれないのだから。
 
 
そんなやり取りの後、有無を言わせず運転させられた俺は体をドアに押し付けるような体制のまま金沢まで軽四を走らせ何とか無事に帰ってくる事が出来た。
車中でAさんから
「もう大丈夫ですけど気持ち悪いならその写真はさっさと燃やせばいいですよ」
そう言われていたのだが帰宅して確認するとその写真からは白い顔が全て消えていた。
しかもその写真はそれから数日後に確認した時には写真そのものが忽然と箱の中から消えてしまっていた。
これはどういう事なのか?
 
その翌日、俺はAさんから連絡が入り、約束だからという事で、ファミレスで好きな物を好きなだけ奢らされた。
そしてそこにやって来たAさんはしっかりと高そうな電動式の車いすを使っていた。
そんな良い車いすを持っているのならあの廃寺にもそれで来んかい!
と思ったがそんな本音は口にすることは出来なかった。
そんな事を言えば、電動車いすで体当たりをくらわされるのは容易に想像できたから。
 
そして、その場で聞いたのだが・・・。
 
どうやら窮屈な実家から出て、バリアフリーのマンションで暮らすそうだ。
・・・豪華な料理は口に合わない
・・・スーパーとかコンビニの弁当を食べて暮らし、たまにはファミレスで好きな物を好きなだけ食べる生活がいい・・・そうだ。
 
そして、最後には
「これからもKさんからのお願いを聞いてあげますね!貧乏なのでこれからも美味しいものを奢ってくださいね!
そう言われた。
 
 
確かにある意味嬉しい誤算ではあったが、心配なのは俺の財布の中身だ。
バイトでもしようかな・・・。
本気でそう思った・・・。
今年の冬はとても寒くなりそうだ。

いいなと思ったら応援しよう!