霊感

元々人間には全ての人に霊感が備わっているのだと聞いた事がある。
太古の時代に生きた人々にはその強さは違えど必ず霊感という者が備わっておりそれが生きていくうえで必要不可欠なものだったのかもしれない。
そして、それは文明の利器が発明すらされておらず何をするにも手間を掛けなくてはいけないという不便な生活の中だからこそ霊感という感覚が備わっていたのかもしれない。
しかし、色々と便利なものが次々に発明されていきある意味では何をするにもそれ程の苦労や労力を必要としなくなってしまった現代においては霊感を備えながら生きている者はそれほど多くない。
ただ、生まれた時には誰もが霊感を持って生まれてくるらしい。
力も無く無防備な赤ちゃんだからこそ霊感という者がいまだに必要とされているのかもしれない。
そんな霊感は便利な生活の中で少しずつ影を潜めていき表に現れなくなる。
霊感など無くても生きていけると悟るのだろうか・・・。
いや、霊感がある事が逆に異端と見られる事への防衛本能だろうか・・・。
どちらにしても、そもそも人間は生まれながらにして霊感は持っているのだ。
そして、それをそのまま維持し続ける者もいれば、完全に消えてしまう者もいる。
しかし何度も言うが人間にはそもそも霊感が備わっているのだ。
それがいつ何かのきっかけで目覚めるかもしれないし、逆に消えてしまう事もあるのかもしれない。
そんな訳で今夜は霊感に関して寄せられた話をしてみようと思う。
彼の住む地域には以前は「お化け屋敷」と呼ばれている家があった。
勿論、ただやみくもにそう呼ばれていた訳ではなかった。
以前、その家に住んでいた高齢の女性が深夜に強盗に入られた。
何とか逃げ出そうとして家から庭へ出る事には成功したらしいがそのまま広い庭を追い回されたあげく最後には包丁で胸を貫かれて殺されたそうだ。
きっと殺された女性は何度も命乞いをしただろうし近所の住民に助けを求めたのだろう。
しかし、近所の住人はその女性が逃げ惑う声も助けを求める事も聞いてはいなかった。
そして、その女性は翌朝になってから無残な死体となってようやく発見される事になったそうだ。
近所の住民が夜中に大きな物音や悲鳴を誰も聞いていなかったのも事実らしく、もしもそんな悲鳴が聞こえたならばきっと誰かが助けに来てくれるか、もしくはすぐに警察を呼んでくれたに違いない。
しかし、殺されたその女性にはそんな事は分からないしどうでも良い事だ。
自分は殺された・・・。
誰も助けてはくれなかった・・・。
何も悪い事はしていないのに・・・。
その女性が死ぬ直前に思った事といえば、そんな感じになるのだろう。
そして、その怨念が空き家となったその家に刻み付けられてしまう。
空き家になってからその家はすぐに売りに出されたが買う者などいるはずもなかった。
殺人事件があった家が売れるには事件が風化するだけの長い時間が必要だし、それでも売れなければ家を取り壊して更地にするしか無いのだ。
そして、ずっと売れ残ったままのその空き家からは毎晩、どこからか包丁を研ぐような音が聞こえてきたり突然空き家である浴室の水が流れ出したり、庭を誰かが走り回る様な音が聞こえてくる様になった。
こうなってしまうと完全に瑕疵物件、いや心霊スポット化してしまうのも仕方のないところだ。
ある日、近くの大学の学生がしっかりと管理する不動産会社に許可を取ってその空き家を調べた事があるそうだ。
大学のサークルでの活動なのか、それとももっと学術的な研究の一環なのかはわからないが・・・・。
大学生という立場からすれば許可を取って臨んた調査になるわけだから、本当ならば「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という結末に落ち着かせたかったのかもしれない。
しかし、昼間にその空き家に入った大学生たちは夜を待たずに逃げ帰った。
本当の怪異を目の当たりにし本物の幽霊を視てしまったのだろう。
結果としてその空き家調査は心霊スポットとしての箔が付くという結果で終わってしまった。
だから、その家にはもう誰も住む者は現れないだろう、と近所の誰もが思っていたそうだ。
しかし、その後、その家に1組の家族が引っ越してきた。
確かに豪華な庭付きの屋敷が想定外の安価で購入できるのだから、買い手が付くのも分からなくはない。
しかし、近所の誰もが噂し合った。
きっと不動産屋に騙されてこの家を買わされたに違いない・・・。
すぐにこの家から逃げ出すだけならまだしも、死人が出るのだけは勘弁して欲しいね・・・と。
だから、近所の親切な1人がその家族に進言したそうだ。
この家で以前、殺人事件があったのを知らないんですよね?
住んでいて何もおかしな事は起こりませんか?と。
すると、その家族は笑ってこう答えたそうだ。
ああ・・・それならちゃんと事前に聞いてますよ・・・。
でも、そういう事はあまり気にしないタチなので・・・。
それに今のところ住みやすくて良い家ですよ!と。
そして、それは負け惜しみでもなければやせ我慢でもなく本当の事実だった。
その家族は未だにその家に住んでおり不幸な事など一度も起きてはいないそうだ。
その家族の全員が霊感がゼロ、いや封印されたままの状態なのだろう。
それならば確かに無敵かもしれない。
霊は基本的には物理的な攻撃は出来ないのだから。
感性に恐怖を与えながら精神を蝕んでいく。
だからこそ、霊感があると逆に危ない目に遭ってしまう。
ただし、人間の霊感はいつ覚醒するかもわからない。
突然,霊感が覚醒し目の前のおぞましい顔に気付き心臓が止まらないとも言い切れないのだから。
 
 

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