待ち合わせのバナナジュース

待ち合わせするのは好きだろうか?
もしかして逸れは待ち合わせする相手にも依るのかもしれないが、俺はそもそも待ち合わせする事自体が好きだ。
いや、もしかすると誰かと待ち合わせして相手が遅れてくるのが好きなのかもしれない。
・・・相手はどうして遅れているのか?
・・・急用でも出来たのか?
・・・事故や病気になったのではないか?
・・・どれくらい遅れてくるのだろうか?
・・・そもそも相手は本当に来るのか?
そんなとりとめも無い事をぼんやり考えながら待ちぼうけしていると不思議と待っているのが苦痛ではなくなり時間が早く経過してくれる。
そして、それは相手が誰であろうと同じなのだ。
こんな感じだからかつては待ち合わせ場所に30分以上早く到着し3時間以上待ち続けた事がある。
確か、相手は待ち合わせ場所には来なかったと記憶しているがそれならそれで良いのだ。
相手の身に悪い事が起きてさえいなければ・・・。
 
都内にお住いの吉野さんは2年前に彼氏を交通事故で亡くしていた。
日曜日、ドライブに行こうと彼女を迎えに行く途中での事故であったためずっと彼女も自分自身を責め続けていた。
そんな自己嫌悪からようやく解放されたのが半年前。
そしてちょうどその頃から彼女は異常な行動をとるようになった。
・・・いつも誰かと待ち合わせをするようになった・・・
こんな書き方をすると分かりにくいのかもしれないが、仕事が終わった後や休みの日、ふと気が付けば自分で折ったであろう色紙の鶴を持って一人きりで立ち尽くしていた。
問題なのは彼女が誰かと待ち合わせの約束をしたという記憶も無いまま、じっと誰かを待ち続けているのだそうだ。
つまり彼女自身、自分が誰を待っているのかが分からないのだ。
分かっているのは待ち合わせにやって来た相手に折り鶴を渡さなければ、と決めているという事だけ。
更に問題なのは、いつも待ち合わせをしているのは危険極まりない場所。
ビルの屋上、崖の上、廃トンネルの中、廃ビルの中など普通は侵入する事すら難しいはずの場所で彼女は誰かを待っていた。
だから彼女はそんな場所で待ち合わせをしている時には警報で駆け付けた警備員や偶然通りかかった方に
こんな所で何をしてるんだ?
 大丈夫か?
と保護されてしまう。
そんな事が続いたため、彼女は精神科を受診し入院までしなくてはいけなくなったがそんな事で待ち合わせするという奇妙な行動が鳴りを潜めるはずもなかった。
彼女は確かに外へ出る事など出来ないはずの病院の玄関で誰かを待っていたのが監視カメラに収められていた。
しかしどうやら彼女は精神疾患という病気ではなく正常という診断を下されそのまま翌週には退院となった。
詳しくは教えてはくれなかった。
しかしどうやら監視カメラには彼女が待ち合わせの末、間違いなく何かに出会えた事が記録されていた。
明らかに人間ではない怪異と・・・。
そうして退院し普通の生活に戻った彼女だったが以前にも増して頻繁に誰かと待ち合わせをするようになってしまう。
相変わらず誰かともわからない相手と・・・。
しかし彼女自身にはそれなりの思い込みはあった。
それはきっと事故死した彼が会いに来てくれているのだ・・・ということだった。
思い返してみると、こんな奇妙な待ち合わせをするようになったのも彼を失った心の傷から回復した頃だったし、病院で客観的に彼女が誰かと会っている事を証明され、それが明らかに生きている人間ではない、と聞かされた時にソレは確信に変わったという。
しかし、どうやら彼女の友人の中には霊感が強い者も数人いたらしく、彼女が待ち合わせをしている様子を見る度に相手はバラバラで男と女の性別すら固定していなかったのを見て
なんか凄く危険なモノが近づいてきているみたいだよ?
可能ならしばらくの間は外へは出ない方が良い・・・。
そんなアドバイスを受けたそうだ。
勿論、彼女もそのアドバイスに従うつもりだったそうだ。
しかし結果として彼女は部屋の中で突然死しているのが発見された。
彼女の顔には大小さまざまな手形が蚯蚓腫れのように残されていたそうだ。
 
ここまでの話は全て、彼女の姉から聞かされたもの。
どうして彼女がそんな運命をたどったのか?
手形を付けたのは何者なのか?
それらに関しては分かりようも無い。
しかし、間違いなく言えるのは、
彼女に近づいてきていたのは決して亡くなられた彼氏などではなかったという事。
そしてもしかしたらそれらは彼女だけではなく事故死した彼氏の命すら奪っているかもしれない、という事だけだ。
 

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