結界
結界を張る。
それは悪霊に対してとても有効な手段になる。
例えば強大な呪いや怨霊に対しても結界を張る事で結界内への侵入を防ぎ安全を確保することが出来る。
現在の東京や京都などはそういう面ではしっかりとした結界が張られていると言われているが、それでは東京や京都では怪異や幽霊が現れる事は一切無いのか?
答えは否である。
結界というのは視えない壁の様なものであり霊的にだけ作用するものだ。
そして、結界の外からの侵入を防いでくれる。
しかし、反面では結界内の霊が結界外へ逃げる事も邪魔をしてしまう。
知り合いの霊能者であるAさんはそういう理由で確実性がある場合を除いては出来るだけ結界を張る事はしない。
つまり結界内に異質なモノが他に存在していないと確認が取れなければ絶対に結界を張らないのだ。
そうでなければ結界内に悪い霊を繋ぎ止めてしまう事になる。
結界はあくまで霊的な絶対的な壁であり、霊的な知識があれば誰にでも容易に張ることが出来る。
粗塩、しめ縄、護符や御札など比較的容易に入手できるものを使い、それを的確な場所に配置するだけで簡単に結界が完成してしまう。
勿論、凄腕の霊能者が張る結界とはレベルは違うがそれでもある程度の効果は十分期待できると思う。
しかし、いつもAさんは言う。
素人、霊能者に拘わらずあまりにも結界の使い方を間違えている者が多すぎるというのだ。
結界とはあくまで壁でありバリアーの様なものであり結界自体に悪霊を弱体化させる力など無い。
あくまで結界内に留めるだけで結界内では自由に動き回れるし何の制約も無いのだから。
だから結界の使い方を誤ってしまうと更なる危険な目に遭う事になる。
これから書いていく沼井さんはそれまで住んでいたアパートから中古住宅に家族で移り住んだそうだ。
家賃がアパートと変わらない中古の一戸建て住宅。
ポツンと他の家から離れた場所に建っている以外は特に変わった部分は無かった。
家の造りはお世辞にも新しくモダンとは言えなかったが部屋数も多く2階建てで小さいながらも庭までついている。
そして、何よりも気に入ったのは部屋の中がきれいだったという事。
確かに家中には埃が至る所に溜まっており、掃除をするのも大変だろうな、と思ったらしいが聞けば、その家は家を建てた方がすぐにその家に住めなくなってそのまま放置されていたのだと説明された。
確かにそう説明されればその家の中が何処にも傷みが無い事にも納得できた。
しかし、それと同時に沼井さんの頭の中にはある疑念が浮かんだ。
この家はもしかして瑕疵物件、事故物件なのではないのか?と。
確かにアパートの家賃と同じ金額で一戸建てに住めるというのならば誰でもそう考えるだろう。
しかし、不動産会社の営業マンはそれを全面的に否定した。
「この家では誰も死んでいませんし事故や事件も起きてはいません」
「この家を建てた方は家が完成したと同時にご両親と同居しなくてはいけなくなっただけ」
「確かに家が完成してから20年以上誰も住んでいませんでしたがそのお陰で家に傷みも
存在しませんから」
そう畳みかけるように言うと最後にこう言ってきた。
「良かったら賃貸ではなくこの家を買い取ってご自分の物にしませんか?」と。
そして、提示してきた金額が沼井さんが想定していたよりもかなり低い価格だった。
そうして彼は家族と相談して思い切ってその家を買う事に決めた。
しかし、住み始めてからが悲惨だった。
確かにその営業マンが言ったようにその家では誰も死んでおらず事故も事件も起こっていないのは事実なのかもしれない。
しかし、ポツンと離れた場所に建つ家屋に20年間誰も住んでいなかったのだとすれば、其処はきっと人ではないモノ達の棲み家になっている可能性が高い。
家族全員の体調がどんどん悪くなっていき飼い始めた犬も誰もいない場所に向かっていつも吠え続けていたがある朝惨殺された様な酷い状態の死体となって発見された。
また、そのうちに奥さんに別人格が憑依したかのように訳の分からない事を叫びだし子供達も家の至る所で幽霊らしき無数の黒い姿を視るようになってしまう。
それでも、その家を簡単に手放す訳にはいかなかった。
何しろ20年近くの住宅ローンを組んでしまっていたのだから。
そして、彼が助けを求めたのは人伝に紹介された1人の女性霊能者だった。
その女性霊能者は自分の事を最強の霊能者と名乗り総額で500万円以上の報酬を要求した。
しかし、他に頼る者がいない彼は何とか500万以上の金額を工面しその霊能者に渡した。
そして、その霊能者が家にやって来た。
家の中を見て回り、何かを呟きながら1時間ほどで全ての工程を終えてさっさと帰っていった。
強力な結界を張ったからもう安心だ。
そんな言葉を残して・・・・。
しかし、それ以降も怪異は一切収まらず、再びその女性霊能者と連絡を取ろうとした時には既に相手は電話に出る事は無かった。
その頃は何度も奥さんが自殺未遂を繰り返すようになっていたそうで、ダメ元で俺に突然電話をかけてきた。
勿論、会社に。
話しを聞いて放置しておくことも出来ず、俺はいつものようにAさんへ相談した。
そして、以下がその時のAさんの反応だ。
本当に霊能者って名乗ってる奴にはクズの様な奴が多すぎます。
とにかくお金を要求してくる霊能者というだけで全て偽霊能者ですから。
で、家に強力な結界を張った・・・・そう言ったんですよね?
馬鹿としか言えませんね。
悪霊ごと家の周りにバリアーを張ったという事ですから。
うーん、そうですね。
それじゃ、こう伝えてください。
その霊能者という女がやっていった結界らしきものを全て捨てさせてください。
そして、しばらくはその家から離れたアパートか何かに避難させて・・・。
その間にホワイトセージのお香を大量に買い込んでおいてください。
そして、天気予報をよく見て、前日が雨で翌日は朝から快晴になる日にその家に戻る。
夜明けの少し前に家に着くようにして家の中に入ったら家中の部屋や廊下で買っておいたお香を焚いてください。
家中が真っ白な煙で充満するくらいに・・・。
そして朝日があがったと同時に全てのドアや窓、玄関なんかを全開にしてください。
それで全て解決すると思います。
この程度の悪霊なら・・・・。
お祓いなんかしなくても読経なんかしなくても除霊なんか誰にでも出来るんです。
その人が払った500万以上の謝礼金は戻って来ないから諦めるしかないですね。
社会勉強です。
もう二度と同じ詐欺霊能者には引っ掛からないでしょうから・・・。
そう言っていた。
ちなみに、それを沼井さんに伝えると早速実行した様で1か月ほど経ってから全てが解決したというお礼の電話をいただいた。
勿論、謝礼は丁寧に辞退したが。
結界は使い方を間違うとより危険な状況を招いてしまう。
そんな話だった。
この話の朗読を聴きたい方は下記チャンネルへ。
https://www.youtube.com/watch?v=_QS_bGw2Ad0&t=48s