捨て猫

宇川さんは猫が大好きだった。
しかし家族に猫アレルギーの母がおり反対された為に猫を飼う事は出来なかった。
しかし、彼女の猫を飼いたいという願望が薄れる事は無かった。
だから中学生になった頃からずっと心に誓っていた。
大人になり1人暮らしを始めたら絶対に猫を飼おう、と。
しかし、これから書く出来事があってからはペットを飼いたいとは思えなくなってしまっただけでなく犬にも猫にも触る事すら出来なくなった。
彼女が中学3年の頃、自宅と隣接する空き家にSさんという30代の女性が引越ししてきた。
Sさんはとても綺麗な方で小さいながらも会社を経営しているバツイチの女性だった。
引越しの挨拶で彼女の家を訪れたSさんがとても優しそうに見えた彼女は、Sさん自身が子供好きだった事もありすぐに仲良くなった。
両親から注意される程Sさんの家に頻繁に遊びに行った。
その度にSさんは彼女の為にケーキやコーヒーを出してくれたり一緒にゲームで遊んでくれたりした。
夕飯に招待される事もあったし両親の許可を得てSさんの家に泊めてもらう事さえあったそうだ。
そんなある日、いつもの様にSさんの家に遊びに行くと家の中には真っ白な猫がいた。
捨て猫を見つけて可哀そうになり思わず家に連れ帰ったのだと聞かされた。
子猫ではなく大人の猫で少し気難しそうに見えたが実際に遊んでみるとおとなしいがしっかりとコミュニケーションも取ってくれたし何より噛んだり引っ掻いたりという事もして来なかったらしく彼女はすぐにその白い猫が気に入った。
それから彼女はSさんの家に行く頻度が一層高くなった。
勿論、その白い猫と一緒に遊びたかったから。
しかし、それから暫くして彼女はある違和感を感じる様になった。
それは、その白い猫が明らかに人間の言葉を理解しているとしか思えない反応をするという事だった。
そして次第に猫の態度も横柄になって来ている様に感じた。
勿論、それだけなら彼女もそれ程気に留める事も無かったのかもしれない。
しかし、その頃からSさんの様子がおかしくなった。
いつもニコニコと笑い優しく接してくれるSさんから笑顔が消えた。
そして常に何かに怯えている様な感じがして仕方なかった。
ある時などSさんが彼女をリビングから外に連れ出してこう言った。
もううちには来ない方が良いよ・・・。
そして家に居る時には絶対に1人きりにならないでご両親と一緒に居るようにして・・と。
それはまるで猫に聞かれないようにしている様だった。
そして、その話を白い猫はしっかりと聞いていた様だ。
その後、明らかにSさんに対する猫の態度が露骨に変わった。
まるで威嚇しているかのように・・・。
その様子が彼女にはとても恐ろしく感じられその場から逃げる様に隣の自宅へ帰った。
それから数日間は少し怖かったのでSさんの家に行く事も無かった。
しかし、そうしていると彼女はSさんの事が心配で仕方なくなった。
ただ一人で行くのはやはり怖い。
それで母親に頼み込んで昼間にSさんの家へ一緒に行ってもらった。
その時、彼女はSさんの安否を確認出来たらすぐに帰るつもりだった。
しかし、家の中には白いあの猫はいなかった。
家の中にいたのは疲れきった表情のSさんと家政婦を名乗る背の高い女性だけ。
しかも、Sさんは明らかにその家政婦の事を恐れている様に見えた。
その家政婦を見るSさんの眼はまるで恐ろしいバケモノでも見るような引き攣った顔にしか見えなかった。
家政婦は彼女と母親に
ゆっくりしていった下さいね・・・と言った。
しかし、その言葉の後、Sさんは彼女の母親を連れて廊下へ出るとしばらく戻って来なかった。
彼女はその家政婦と2人きりで過ごす事になったのが耐えられない程に嫌だった。
彼女には、その家政婦こそが、あの白い猫が化身したモノにしか視えなかったのだという。
それからSさんと一緒にリビングに戻ってきた母親はかなり焦った顔で彼女の手を取ると
その場から逃げる様にして外へと出た。
そんな彼女に愛おしそうに手を振るSさんと玄関まで付いて来て
もっとゆっくりしていってください・・・と繰り返す家政婦の姿が対照的過ぎてとても恐ろしかった。
家に帰ると母親は家中の窓を閉めて鍵もかけた。
そして父親に連絡しいつもより早く帰ってきてもらった。
それから両親は真剣な顔でしばらく何かを話し込んでいた。
それが何の話だったのかは分からないが、その夜、父親は護身用のバットを持ったまま朝まで一睡もせずに起きていたし母親も何故かその夜だけは小さな子でもあやす様に一つのベッドで一緒に寝てくれた。
それから彼女はSさんの姿を一度も見ていないのだという。
両親に聞いても何も応えてはくれなかったがその後その家が取り壊される事になった際、家の中の家財道具が全て残されたままになっていたのを見た彼女は彼女が病気で入院したのでも引越ししたのでもなく忽然と行方不明になってしまったのだと確信したそうだ。
そして。これは後日談になるのだが隣のSさんが住んでいた家を解体した後、新しい家を建てる為に地面を少し掘り起こしたそうだがその時地面の中から数人分の人骨が出てきたらしく警察も来て大騒ぎになったそうだ。
しかし、その人骨は結局Sさんのものではなかった。
それではその数人分の人骨は誰の骨であり、そしてSさんは何処へ消えてしまったのだろうか?
いや、もしかしたらSさんはそもそも人間だったのだろうか?
 
 
 
 

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