少しずらせば・・・
・・・幽霊を見てみたいけど遭遇出来ない
そんな言葉をよく耳にする。
そもそも幽霊なんかに会ってどうするのか?という疑問は置いておくとして俺の経験上、この世には至る所に幽霊はいる。
俺も常日頃から視えるわけではないが本物の霊能者と会った後は1週間ほど視えてしまうし何ならその霊能者と一緒に行動している時にはどこを向いても幽霊ばかりだ。
歩道、車道、ビルの中、公園、駅、家の中と何処にだっていつも幽霊はいるのだと分かった。
動いているモノ、動かないモノと様々だが確かに其処にいるのだ。
それが最初は怖くておどおどしてしまったがよく考えれば当たり前の事だと思うようになった。
現世に生きている人の数よりも亡くなっている人の数は圧倒的に多いのだ。
そしてその殆どは現世の人に関与しない領域にいるようだ。
それに幽霊といっても元々は生きていた人間だったのだからその大多数は善人でも悪人でもなかったのだと思う。
悪さをする事も無いしきっと何も考えなくていい境地にいるのかもしれない。
話を戻すが、幽霊を見たいならいつもとは少し違った動きをすればいい。
動物の中には360度の視野を持つものもいるが人間の視野はせいぜい180~200度程度。
そして幽霊というものはその視野の外側にいるのだと思っている。
だからいつもより少しだけ視野をずらしてやればいい。
それが視野が狭まる暗い部屋ならもっと視やすくなると思う。
幽霊を視て何をしたいのか?は知らないが視た事を後悔しないように祈りたいが。
広島県にお住いの熱田さんは40代の主婦。
ずっと狭いマンションで暮らしていたが夫の昇進を機会に中古の一戸建てを購入した。
新築の家を購入したかったが予算をかなりオーバーしてしまい妥協するしかなかった。
だから中古とはいえ出来るだけ新しい家を選んだがやはり安いには理由があり買い物や学校の便が悪いなど生活するうえでそれなりに不便な面も多いようだ。
そして彼女が今一番困っているのが家の中で頻発する怪異だという。
彼女自身、これまで生きてきて自分に霊感があるなどと感じた事は無くどうして突然そんなものが見えるようになったのかは謎だという。
彼女は週二日のパート以外は本業主婦として忙しく過ごしているがキレイ好きな性格からかその殆どは掃除で忙殺されている。
そんなある日、彼女は不可思議なものを視てしまった。
玄関の掃除をしようと廊下を歩いていた際、視界の端っこに奇妙なモノを視た。
灰色をした人の形をしたものが階段の2段目に立っていた。
慌ててもう一度見直すともう何も視えない。
その時には単なる見間違いだろうと気にしないようにしたが、それからも彼女は不思議なモノを視続ける事になった。
それはいつも視えるというわけではなくふと視線を流した時に視界の中に映り込んだ。
全身が視えるわけではなく半身や体の一部しか視えないがどう考えてもそれは人の身体としか思えないものだった。
それが何なのか?自分でも説明がつかなかったらしく家族を含め友人にも同じような経験は無いかと聞いて回ったが手掛かりと呼べるものは全く見つからない。
そして彼女は決定的なモノを視てしまう。
寝室の掃除中につまづいて転んでしまった彼女は運よくベッドに倒れ込んだがその際、視界の中にソレは映り込んだ。
ベッドの横に知らない男性が立っていた。
細身の中年男性は灰色をしたモノクロ映像の様に見え、ベッドの横に立って視線をまっすぐ壁に向けていた。
薄く透けている事も無くどうして見知らぬ男性が家の中にいるのか?と別の意味で恐怖した。
しかし彼女はある事に気付いた。
もしかしたらこの男性はたまに自分の視線の中に入ってくる人ではないのか?と。
その男性はマネキンのように一点を見つめたまま動かなかったがいつものようにすぐに消えてしまうという事も無かった。
それでもやはり恐ろしくなってしまった彼女はすぐに夫に電話をかけて家に帰って来てもらった。
しかし仕事中に帰ってきた夫と再び寝室に行ってみるとその男性は忽然と消えていた。
その間、彼女はずっと1階のリビングにおりその男性が家から出ていく音も聞こえなかったから何処かへ逃げられる筈は無かった。
信じてくれない夫に腹を立ててしばらく外に出たが、やはり気になって家に戻ると家の中は先ほどまでとはガラリと様子が変わった気がした。
そして家の中の至る所に沢山の灰色なモノが家の中にいた。
立っているモノ、座っているモノ、寝転がっているモノ、天井に貼りついているモノ。
それらはピクリとも動かなかったが確かに家の中にいた。
所狭しといった状態で。
慌てて警察に電話をして来てもらった。
しかし警察は何もせずに帰っていった。
彼女には相変わらず数えきれないほどの灰色のモノが視えていたというのに彼女の主張は全て悪ふざけとして受け取られ最後には嫌味まで言われてしまう。
しかし、そうやって警察を呼び、自分たちの姿が見えると主張する彼女の全てをそれらもしっかりと見ていたのだろう。
そしてコイツには間違いなく自分たちの姿が視えていると確信してしまったのだろう。
現在、彼女の眼には家の中を蠢いている灰色のモノの姿が視えている。
動かなかったモノ達はやがて動き出してしまったという。
そして気付いた事なのだがそのモノ達は透けている様に見えていなくても物理的な存在ではないという事。
いとも簡単に彼女の身体はソレの身体をすり抜けてしまう。
ごく稀にからかうように彼女の顔の前に手や顔を近づけてくるモノもいるが驚くだけで特に実害はないそうだ。
そんな状態でも彼女はその家から出ていこうとは思っていない。
その理由は共存したいと思っているのではなく、ただ単にせっかく購入した家を手放したくないからだそうだ。
案外、彼女とソレらは相性が良いのかもしれない。