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失われた妹の声【怪談・怖い話】

これは、ある中年男性が二十年以上前に体験した出来事について語ってくれた話だ。

彼がまだ小学五年生の春、クラスメイトのタカミちゃんと図書委員になったのが始まりだった。タカミちゃんは大人しいが、本が好きで、休み時間になるといつも何かしらの本を読んでいた。週に一度、放課後に図書室で共に作業する日々が続き、最初は事務的な会話しか交わさなかったが、徐々に打ち解けていった。

特にタカミちゃんがよく話すのは、二つ年下の妹、カズミちゃんのことだった。引っ込み思案ながらも明るく、可愛らしい笑顔を持つ妹で、体が弱くて学校に通えないが、姉を笑わせるためにいつも工夫を凝らしているという。彼もいつしかその妹に興味を持つようになり、「いつか会ってみたい」と言うと、タカミちゃんは「絶対に仲良くなれるよ」と笑顔で応じた。

夏休みが近づくにつれ、二人の距離はさらに縮まり、彼はタカミちゃんに夢中になった。図書室以外の場所でも会い、周りの目を避けて放課後一緒に帰ったり、夏休みには図書館で宿題をしたり、プールや縁日にも出かけた。その関係は幼い恋とも言えるものだったが、彼の心を占めていたのは間違いなくタカミちゃんだった。

二学期が始まると、二人はこっそりと文通を始めた。ノートに交互に書き込む手紙には、くだらない漫画やゲームの話が多かったが、タカミちゃんが一番多く書いたのは、やはりカズミちゃんのことだった。だが、彼はまだ見ぬカズミちゃんに対して、少しずつ嫉妬心を抱くようになっていった。

そんなある日のことだ。タカミちゃんが突然「家に来ない?」と誘ってきた。驚きつつも彼は喜んで承諾し、タカミちゃんの家へ向かった。母子家庭である彼女の家は、古い文化住宅の一角にあり、年季の入った赤茶色い屋根と外壁には雑草が絡みついていた。彼は緊張しながら家に上がり、タカミちゃんが「妹を呼んでくるね」と言って奥の部屋に入っていくのを見送った。

その時、ふすま越しに聞こえたのは、タカミちゃんとは異なる幼い女の子の声だった。「知らない人に会いたくない」と駄々をこねるカズミちゃんと、それを説得するタカミちゃんの会話が続き、やがてカズミちゃんが折れた。「わかった」と、小さな声で応じたのだ。

ところが、タカミちゃんがふすまを開けた瞬間、彼は思わず違和感を覚えた。奥の部屋にはタカミちゃん一人しかおらず、カズミちゃんの姿は見当たらなかった。しかし、タカミちゃんは何事もないかのように、彼のいる部屋へ戻り、手にした小さな箱を大事そうにちゃぶ台の上に置いた。そして、その箱の蓋をそっと開けると、中から現れたのは小さな人間の頭蓋骨だった。

「ヒロキ君、妹のカズミです。仲良くしてあげてね」

その瞬間、彼の全身は凍りつき、言葉を失った。しかし、さらに恐ろしいのは、玄関のドアが突然開き、タカミちゃんの母親が現れたことだった。彼女はタカミちゃんを怒鳴りつけ、激しくビンタした。「何やってんの!?」と、恐ろしい形相で娘を叱りつける母親に対して、タカミちゃんは涙を流しながら「カズちゃんにもお友達作りたかったんだもん!」と叫んだ。

彼はその修羅場に耐え切れず、タカミちゃんの家を後にした。心に深い恐怖を抱えたまま歩き続けていると、タカミちゃんの母親が追いかけてきた。彼女は彼に謝り、「見たことは誰にも言わないでくれる?」と頼んだ。そして、その謝礼として一万円札を手に握らせたのだった。

翌日、タカミちゃんは何事もなかったかのように学校に来たが、彼女は彼に「もう話せない」と告げた。「じゃないとカズミと一緒にいられなくなるから……」と。

その後、タカミちゃんは図書委員を辞め、卒業まで一言も交わすことはなかった。そして、彼はあの日見た光景が現実なのか、それとも何かの幻だったのか、今でも分からないまま、ただあの時の恐怖を心に刻んでいるという……

[出典:879 :本当にあった怖い名無し:2022/08/14(日) 08:27:49.60 ID:Hxbvqk9s0.net]


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