見出し画像

夢が創りだす歪んだ未来【怪談・怖い話】

遥か昔を思い出させるような夢を見た。

5,6歳の私の前に、見知らぬ女性が現れた。彼女は笑顔で私に話しかけながら、延々と道なりに歩いていった。その道の一方が切り立った岩山で、頂上には何かの建物があり、反対側には車の往来のない道路が走っていた。

女性の服装は学生服で、10代後半だと思われた。会話の内容は忘れてしまったが、「右足には気をつけてね」と言われたことだけ覚えている。そのまま真っ直ぐ進むと、左手に工事現場らしきものが見えた。そこで夢からさめた。

真っ直ぐ伸びた道の向こうに見えた、記憶の奥底に潜む夢の断片。

夢の中で私は5,6歳の頃の姿に戻り、学生服を着た見知らぬ女性と一緒に、ゆっくりと歩を進めていた。端正な顔立ちの彼女は、明るい笑顔でたえず何かを話しかけてきていたが、内容は思い出せないままだ。ただ「右足には気をつけてね」という言葉だけが脳裏に焼き付いている。

山に暮らしていた時期があり、危険な目にもあわなかったと思う。しかし数年前、突然右足に違和感を覚え、レントゲン検査の結果、小さな余分な骨が原因と分かった。医師からは、早期発見できて良かったが、手術は今は必要ないと言われた。ギプスをすればよかったが、私は面倒なので断った。

「あの夢との関係があるのかもしれない」と、ひょっとした疑念が頭をよぎった。そしてその思いは的中する。その日の夢で、女性は再び姿を見せ、「何があっても味方だから」と言った。この言葉は、何か深い意味を孕んでいるように感じられた。

あの日の夢は、時を超えて私に重大な警告を発していたのだろうか。

あの夢から1年後、私は交通事故に巻き込まれた。

意識を失う寸前、夢に現れた女性の姿が浮かんだ。血を流しながらも、彼女は優しく微笑んでいた。そして言った。「大丈夫。必ず助けが来るから」

その言葉は、私に希望を与えてくれた。遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。私は必死に意識を保とうとしたが、やがて闇に飲み込まれていった。

病院で目覚めた私は、右足を大怪我していた。医師は真剣な表情で「あと少し遅ければ、足を切断せざるを得なかった」と告げた。私は夢の中の警告を思い出し、ぞっとした。

その後、リハビリに精を出した。歩行は長い時間をかけなければならなかったが、医師からは「奇跡的な回復力だ」と言われた。私はその奇跡を、夢の中の少女のおかげだと信じている。

彼女は時空を越えて、私の守り神となってくれたのだ。夢の世界は、私たちが気づかぬうちに、確かにこの現実と繋がっていたのかもしれない。

人は忘れかけていた過去の記憶の在り処を、夢の中に見出すこともある。それは、前世からの思い出に通じる扉なのかもしれない。扉の向こうには、誰もが気づかぬうちに、次なる人生への大切なヒントが隠されているのだ。


#怖いお話ネット怪談 #怖い話 #怪異 #怪談 #ホラー #異世界 #不思議な話 #奇妙な話 #創作大賞2024 #ホラー小説部門

今後とご贔屓のほどお願い申し上げます。