闇に潜む昇降機【怪談・怖い話】
これは、北陸地方の雪深い都市に転勤した山本さん(仮名)から聞いた話だ。
十年ほど前の冬、山本さんは仕事の都合で隣県の都市に移り住んだ。その地で、職場のパートさんからある夜の出来事を聞かされたという。
数か月前、エレベーター事故で清掃会社のおばさんが亡くなったというのだ。
エレベーターの箱が来ていないにもかかわらず、ドアが開いて転落死したという。その時は心霊的な話には無関心だった山本さんだが、後になってその話が現実味を帯びることとなる。
ある夜、いつものように23時頃にタイムカードをスキャンし、エレベーターに向かった。建物は築30年以上の古いビルで、エレベーターも新しく取り換えたばかりだった。
山本さんは通路を曲がったところで小柄なおばさんを見かけた。最初は清掃員だと思い、エレベーターに乗る前に追いつこうとしたが、エレベーター乗り場に着いたときには誰もいなかった。
薄暗い廊下には月明かりだけが差し込み、不気味な静けさが漂っていた。エレベーターのパネルを見ると、数分前に自分が使ったはずのエレベーターが3階に止まっていた。
不思議に思いながらもエレベーターのボタンを押すと、押していないのに4階、5階とランプが点灯し始めた。扉が開いたが、中は空っぽだった。エレベーター事故の話が脳裏をよぎり、恐怖で震えた山本さんは、どうすることもできずに『開』ボタンを押したまま動けなかった。
結局、怖さを押し殺してエレベーターに乗り込み1階へ降りたが、警備員はのんびりとくつろいでいた。山本さんは誰にも言わず、会社を急いで出た。その夜の体験が頭から離れず、一時間以上コンビニで立ち読みしてから帰宅したという。
その後、数ヶ月が経ち、山本さんは再びその恐怖を忘れ、仕事に没頭するようになった。一年後、新しい上司が着任し、毎晩遅くまで仕事をする日々が続いた。ある日、送別会の席で上司と話していると、上司もまた奇妙な体験をしていたことが判明した。
上司は3階の踊り場で、恐ろしい顔をしたおばさんを見たという。清掃員だと思い声をかけたが、返事はなく、急に消えてしまった。その後、上司はエレベーターを使うようになり、階段を避けるようになったのだ。山本さんが見たのと同じおばさんであり、その表情や姿が脳裏に焼き付いていた。
その後、上司の提案で建物はお祓いを受けた。今では山本さんも上司も別の営業所で働いており、その建物での奇妙な出来事は語られることがなくなった。しかし、あの時の恐怖は今も山本さんの心に残っている。お祓いの効果があることを信じつつ、二度とあのような体験をしたくないと願っている。
[出典:76 :1:2009/05/08(金) 14:24:36 ID:ku7leP2E0]