赤い部屋の匂い【怪談・怖い話】
その村には、奇妙な言い伝えがあった。山の麓にある廃屋には「赤い部屋」と呼ばれる部屋があり、そこに入った者は決して戻らないという。誰もが怖れ、近づこうとはしなかったが、そんな話を笑い飛ばす者もいた。
ある若者が、村の仲間にそそのかされ、その赤い部屋に入ることになった。彼は「どうせ昔の迷信だろう」と豪語し、夜中の廃屋へと向かった。月明かりに照らされた廃屋は黙って彼を迎える。床板がきしむ音を立てながら中へ入り、彼は目的の部屋を探した。
「赤い部屋」はすぐに見つかった。その部屋は奇妙なほど綺麗で、他の朽ち果てた部屋とはまるで違った。赤い壁紙が古びることなく鮮やかに張られ、甘ったるい花のような匂いが漂っていた。若者は気味悪さを感じつつも、部屋の中央で笑いながら声をあげた。
「なんだ、ただの部屋じゃないか!」
その瞬間、部屋の壁紙がゆっくりと波打ち始めた。彼は動揺し後ずさるが、背後の扉はいつの間にか消えていた。目の前で赤い壁が生き物のように脈動し、次第に剥がれ始める。剥がれた壁紙の内側からは、何かがじっとこちらを見ていた。それは無数の瞳だった。大きさも色もさまざまなそれらの目は、笑うように歪んだ形で動き出し、若者をじっと見つめている。
彼は叫びながら壁に駆け寄り、出口を探したが、赤い壁紙は彼の身体に絡みつく。息が詰まりそうなほどの甘い匂いが充満し、彼の視界は次第に赤で染まった。
翌朝、仲間たちは若者の行方を捜したが、廃屋には誰もいなかった。ただ、「赤い部屋」と呼ばれた部屋の壁には、新しい目が一つ増えていた。それは、どこか彼に似た目だったという。
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