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「闇に消えた山の記憶【怪談・怖い話】

これは、10年前に仕事で出張していた時に、ある同僚から聞いた話だ。

その男、仮にYとしよう。彼は地方の山奥にあるラブホテル街へ、仕事の打ち合わせで訪れたという。Yは現場での打ち合わせが終われば、そのまま市内で美味しい夕食を楽しんで帰ろうと、軽い気持ちでいた。しかし、現場は予想外に手間取ってしまい、時計の針が夜の7時を回っても終わらなかった。

疲れた体を引きずりながら、Yは車に乗って食事を探しに行こうとした。その時、ふと目に入ったのが、ホテルの裏手に広がる山の中腹に見えた数軒の民家だった。薄暗い夕暮れに浮かび上がるそれらの家々は、なぜかYの目を引いた。いつもなら、そんなものは気にも留めないはずなのに、その時はなぜか気になって仕方がなかったという。

じっとその民家を見つめていると、不意にそれらは闇に溶け込むように消えてしまった。いや、正確には見えなくなったのではなく、さらに暗くなって視界から消えたのだとYは言う。驚きと奇妙な違和感を覚えたものの、彼はそのまま車を走らせて食事を探しに行った。

Yが車を走らせる途中、またしても奇妙なものが目に入った。森の奥にぽつんと立つ鳥居が、ぼんやりとした闇の中で不気味に浮かび上がっていたのだ。その鳥居は、先ほど見えなくなった民家とは対照的に、闇の中でもくっきりと見えたという。Yは自分がおかしくなったのではないかと感じつつも、食事を探しに市街地へと向かった。

気がつくと、Yは病院のベッドに横たわっていた。意識が戻った彼にとって、それは信じがたい現実だった。食事に行こうと車を走らせた後の記憶が一切無くなっており、気がつけば二日が過ぎていたのだ。

後に同僚のTさんに聞いた話では、Yが駐車場で民家をじっと見つめていた時、Tさんは彼の様子がおかしいと感じ、「一緒に食べに行かないか?」と声をかけたそうだ。しかし、Yはそのまま岩肌に向かって「おお×△■×、もすもうす!!」と大声で叫び、Tさんを無視して車に乗り込み、山を降りるはずの道とは反対方向へ走り去ってしまったという。

Tさんは危険を感じ、他の職人たちと共にYを探しに行った。彼らが車で数分走った先には、先ほど消えたはずの民家が現れ、その入り口にYの社用車が止まっていた。Yはその民家の軒先でうつ伏せに倒れており、右手には髪の毛を握り締め、後ろ髪の一部がごっそり抜き取られて血が滴っていたという。

Yはその後、無事に仕事に復帰したが、あの場所で何が起こったのか知りたくもないし、考えたくもないと言っている。ただ一つ確かなのは、彼の頭が今もなお坊主刈りのままだということだ。

[出典:17 :チクチク坊主:2009/02/16(月) 12:43:56 ID:nGUvdBxZ0 ]


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