最期の一枚【稲川淳二オマージュ】
富士の樹海近くで見つかった遺体
富士の樹海近くで民宿を経営している、仮にAさんとしておきます。
この人地元の消防団のメンバーなんですが、消防団で10月頃富士の樹海から遺体を収容しています。例年、だいたい30体前後が上がるそうです。
さて、秋も深まった頃、この消防団の仲間から電話が入って、「樹海で死体が見つかったからすぐに来てほしい」という電話をもらった。すでに消防や警察には連絡がいっているというので、Aさんは現場に駆けつけた。そこは以前にも男女三体ほどの遺体が上がっている場所である。どうやら自殺をする人たちというのは同じような場所を好むらしい。
その死体は三十代後半から四十代ほどの男性で、ジーパンでグレーのジャケットを着ている。そんな服装をしていた。それで身元を特定するようなものは何一つ身に着けていない。遺体の引き取り手を見つけるのに苦労する。死体のそばに使い捨てのカメラが落っこちている。
ということはこのカメラを持ってハイキングの人たちに混じって乗合バスに乗ってここまでやってきて、降りるとみんなから離れ、樹海を散策するような風にしながら自分の死に場所を求めて歩いたのだろう。いい具合に草が敷き詰められている場所へ行き、服毒自殺をしたのだろう。
カメラを確かめると写真を一枚撮っている。死体はそんなに日にちが経っていない。これを現像したら何かの手がかりになるんじゃないか。ということで現像に回された。それからしばらくしてAさんのところへ「写真ができたので立ち会って欲しい」と連絡が来た。
Aさんと消防団の仲間が二人、それと警察の人が二人の五人で立ち会った。その写真は、木々の間から空が見えている。自殺をしたその人がきっと仰向けで見た最後の景色だろう。それを自分で撮った。ということはその人が生涯最後に撮った写真ということだ。
「これなんでしょう?」と、写真を出された。ご主人は写真を見た。その瞬間「うわぁ!!!」五人が一斉にうめき声を上げた。その写真には男女三人の顔が、上からカメラをグーッと覗き込んでいた。この顔は以前同じ場所から見つかった男女三人の顔だった。
(了)
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