一枚の写真が開く、怪奇の扉(オマージュ)【怪談・怖い話】
ある日、教室で撮影された不思議な写真
1994年5月の某日、地方の小さな町にある古びた中学校の教室で、数人の生徒たちによる心霊写真撮影会が開かれた。集まった者たちの目的は、何か霊的なものを写しこむことだった。彼らが生み出したのは、ただの一枚の写真に過ぎなかった。しかし、現像された写真に写っていたのは、赤いワンピース姿の少女が宙に浮かんでいる姿だったのだ。
驚愕したメンバーの一人が、写真の真偽を確かめるため、専門家に写真の改ざんや合成の有無を調べてもらった。しかし、専門家の見解によれば、明らかに写真は加工されておらず、純正な1枚の写真だったという。「この写真は、不可解な現象を捉えたものだ」と、専門家は断言した。
奇妙な出会いと、恐ろしい事実へのいくつかの手がかり
ある雨の夜、ダイアナという大学生の元を訪れた霊感体質の友人のリュウジは、マンションのエレベーター異常を指摘した。その後、心霊写真の撮影に熱心で、証拠を求めていた。リュウジは撮影した心霊写真を見せ、ダイアナにも確認を求めた。
ダイアナは、それらの写真に写っているのは人物の姿ではなく、ほこりや光の反射などを指摘した。だが、最後の写真、中学生たちによる撮影会の写真を見せられると、ダイアナの記憶が蘇ってきた。
あの撮影会には自分も参加していたのだ。そして、同級生の少女が宙に浮かんでいる写真は、当時に起きた衝撃的な出来事と深く関わっていた。ダイアナは、自分の記憶を手掛かりに、この怪奇な写真の真相に迫ろうとした。
数日後、ダイアナはリュウジのアパートを訪れた。
しかし、そこには彼の姿はなかった。ただ机の上に、撮影会の写真が置かれていたのを見つける。
そこで気づいたのは、撮影日付が記された日付。それは、1994年5月。ダイアナの生まれた月と母が事故で亡くなった月にぴったりと重なっていたのだ。
さらに、宙に浮かぶ少女は、事故で亡くなった母親と同じ、赤いワンピースを着ていた。これは偶然の一致ではありえない。ダイアナは母の魂が、この写真に写っていると感じた。
母は、生前に自分に伝えたかったことがあったのでは?その秘密のカギがこの写真の中にあるのではないか?ダイアナはさまざまな想像を重ねた。
そしてついに、たどり着いた手がかりが一つあった。それは、撮影会に参加していた一人の男子生徒。彼はダイアナの母親の交渉事故の真相を知る人物だった。彼に会い、写真の謎とリュウジの行方を探ることに決めた。
ダイアナの母の事故は、単なる不運な出来事ではなかったのかもしれない。写真の中に隠された意味とは何なのか。真実に辿り着けるのか。ダイアナの探求は続く……
後日談
数日後、ダイアナはようやく撮影会に参加していた男子生徒、ケンジと連絡を取ることができた。待ち合わせ場所に現れたケンジは、当時の出来事を詳しく語り始めた。
「あの撮影会の直後、うちの家族に悲惨な事件が起きたんだ。弟が交通事故で亡くなってしまったんだよ」
ダイアナは驚きを隠せなかった。母の事故死と同じ月に、ケンジの弟も命を落としていたのだ。
「悲しみのあまり、両親は精神的に参ってしまった。その頃から、家の中で変な現象が起きるようになってね」
ケンジは怖そうな表情で続けた。
「弟の気配がする。それも、あの撮影会で使った教室と同じ姿で」
ダイアナは思わず言葉を落とした。
「ケンジ、写真を撮った時に、何か特別なことはなかったか?」
「うーん、それが…」
ケンジは言葉を切り、ポケットからひとつの小さな人形を取り出した。
「これを撮影の際に使ったんだ」
その人形には、古びた赤いワンピースが着せられていた。ダイアナの母と弟の衣装と同じものだった。
「これは、呪術に使うお守りの人形なんだ。うちの母親が持っていたんだけど、写真撮影の時にみんなで使ってしまった。で、撮影後に弟が事故に遭って…」
ダイアナは恐ろしい事実に気付いた。あの写真は実は、ケンジの弟の亡霊を写し撮ったものだったのだ。そしてその直後、ダイアナの母も事故死してしまった。
ふたつの家族の悲劇が深く関わり合っていたことに気づいたダイアナは、真相を探り続けることを決意した。
呪いの人形に関する過去の記録を調べ、その正体と浄化の方法を探るため、民俗学の権威にも助言を求めた。ケンジ家の怨霊払いをするため、心理カウンセリングも受けた。
やがて、ケンジの家から怨霊の気配が消え、心の平穏が戻ってきた。しかし、その代償としてダイアナは恐ろしい代償を払うことになる。
呪いの根源を断ち切るため、ダイアナは母の魂を昇華させなければならなかったのだ。苦渋の選択の末、自らの記憶と母への思い出を捨てることにした。母への想いを手放す代わりに、不幸な出来事の連鎖を食い止められたのである。
気づけば、事件から10年が経っていた。ダイアナは過去を忘れ去り、新しい人生を歩んでいた。けれども、たまに母の面影を見る夢を見ることがあり、なぜか胸が痛むのだった…。
10年の時を経て、ダイアナは新しい恋人ショウジと結婚し、子供にも恵まれた。
しかし、ある日ショウジが仕事で遠方に転勤になり、二人三脚で住む家を引っ越さねばならなくなった。
引っ越しの際、ダイアナは古びた箱の中に、当時の心霊写真撮影会の写真が残されているのを見つけた。一瞬ショックを受けたが、すぐに気持ちを立て直し、写真を捨てようとゴミ箱に入れた。ところが写真を触れた瞬間、頭に電撃が走り、これまで失っていた過去の記憶が一気に蘇ってきたのだ。
母の交通事故、呪われた人形、ケンジの弟の死、そして自らが払った代償。あの出来事の全てが鮮明に思い出されたのである。ダイアナはその場に泣き崩れ、悔しさと虚しさに打ちひしがれた。
翌日、ダイアナはケンジに連絡を取り、再会を果たした。ケンジもまた、当時の記憶を取り戻していた。二人は、あの呪いの人形と霊的な出来事の真相を再確認し合い、事の重大さに恐れおのいた。
そしてダイアナは、自分の過去に翻弄されるのを拒否し、新たな決意を胸に抱いた。自分が払った代償を無にするため、完全に過去から自由になることを。夫ショウジに協力を求め、母の魂を穏やかに手放すための「最後の儀式」を行うことにした。
古い仏壇に線香を手向け、母への思い出の品々を供えながら、ダイアナは心の中で母への別れの言葉を捧げた。そして最後に、あの心霊写真に火をつけ燃やした。煙が辺りに立ち込める中、ダイアナの頬を涙が伝った。しかし、これで完全に過去から解放されると、彼女は確信していた。
やがて、夜が明けた。ダイアナの心に、これまでにない平穏と解放感が広がっていった。これからは新しい家族と、新しい人生を歩んでいけると、彼女は実感したのだった。過去の記憶はあったが、それは彼女を縛るものではなく、強くさせてくれたものだった。
母への感謝の思いを心に秘め、ダイアナは前を向いて、新たな旅立ちを始めることができた。
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今後とご贔屓のほどお願い申し上げます。