殺生の報い、忌むべき呪縫の猿【怪談・怖い話】
魔界に通じる井戸の底から甦った化物の仇討ち。
人災を招いた宿命の鎌は、犠牲者の深層意識に潜む残虐性からくる報復心を呼び覚ましていた。
土佐の武士、大塚は格下の身分ながら狩猟の虎だった。或る秋日、彼は森の奥で狙いを定める。獲物を追跡する内に、人跡未踏の深い谷へと足を進める。そこに穴熊の蜘蛛の子を散らしたような古井戸があり、大塚は気づかぬ内にその底へと落下したのだった。
絶望の淵に囚われた武士は、切腹による最期を覚悟する。しかし上空から伸びた藤蔓が希望の綱となり、思わぬ助けを呼んだ。しかし救助してくれたのは人ならず、大群の猿だったのである。武士は恩を仇で返し、手柄を狙って猿の長を射殺してしまう。その残忍な行為が、猿に宿った怨念の化身を呼び覚ました。
大塚は家に帰り、安堵の夕餉に籠もる。しかしそこに、先ほど殺した猿長の幽霊が白夜の霧間から姿を現した。その恐怖に耐え切れず、武士は狂気に陥り絶命する。彼の家系では口外の憚るべき恐怖体験となり、代々語り継がれてきたという。
この不思議な出来事から百年が過ぎた。
大塚家の当主は、猿の怨霊への畏怖から代々その血を引き継いでいた。ある日、当主は猿の呪縫から解放されたいと切に願い、僧侶に祈願を捧げた。
やがて霊能者の助言を得て、猿の怨霊を鎮めるべく村人たちは古井戸の跡地へと集結した。そこで彼らは猿の骸骨を発見する。それは当の大塚が殺害した猿長のものであった。村人たちは慎重にその骨を拾い集め、供養を捧げた。
やがて怨霊は鎮まり、大塚家から猿への呪縛は解かれた。だが代わりに、村では新たな伝承が生まれる。それは古の武士が虐げた猿への贖罪の物語であり、人と自然の調和を説く教訓となったのである。村人たちはこの伝説を後世に伝え、狩猟を慎み、動物を敬う心構えを持ち続けてきたという。
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