用務員のおじさん【怪談・怖い話】
これは、ある小学校に通っていたという男の話だ。
彼が通っていた学校では、ある日突然、用務員のおじさんが急病で休むことになり、臨時の用務員がやって来た。その男は、特に目立ったところもない、どこにでもいそうな中年の男だった。学校の誰もが「まあ、普通の代わりの人だろう」と思い、特別気にすることもなかったという。だが、何とも言えない不気味さが漂い始めたのは、彼が女子生徒に話しかけるときだった。
おかしなことに、その臨時の用務員は、すべての女子に対して「ヨリコちゃん」と呼びかけたのだ。彼がそう呼びかけるたび、女子生徒たちは困惑し、何度も訂正した。
「違うよ、あたしカナだよ」
「メグミだよ、誰と間違えてるの?」
それでも、おじさんは微笑んで、「ああ、ヨリコちゃん、気をつけてね」と、聞く耳を持たない様子で繰り返すばかりだった。不自然さに耐えかねて、男は友達や兄弟に「ヨリコ」という名前の生徒が学校にいるか尋ねた。しかし、誰に聞いても「ヨリコ」という女子の存在を知らないという。どの学年にも、どのクラスにもそんな名前の女子はいない。それがわかると、徐々に不気味さが広がり、周囲も彼と同じ疑念を抱き始めた。
それでも、日常の中でいつの間にかこの奇妙な呼びかけにも慣れてしまい、誰も深く追及することはなくなった。臨時の用務員もそれなりに仕事をこなし、特段おかしな行動をとっているわけではなかったからだ。
しかし、その不気味さが決定的になったのは、ある放課後の出来事だった。彼が学校のプールの近くを通りかかったとき、臨時の用務員がプール掃除をしていた。だが、その姿は異常だった。彼はプールの排水溝に顔を近づけ、何か小声で話しかけている。遠目ではよく聞こえなかったが、その動作自体が異様に思え、男は足を止めて様子を伺った。しばらくすると、風が吹き、用務員の呟く声がはっきりと耳に届いた。
「ヨリコちゃん、ヨリコちゃん…代わりがいれば出られるよ。ヨリコちゃん…」
その言葉が何を意味するのか、男は理解できなかった。ただ、その瞬間に背筋が凍りつき、全身が逃げろと警告しているのを感じた。彼は振り返り、一目散に走り去った。
それから数日後、元の用務員が復帰し、臨時の用務員は何事もなかったかのように姿を消した。誰もその男の行方を知らないし、彼が何者だったのか、結局誰も問いただすことはなかった。ただ、「ヨリコちゃん」という名前が、いまだに誰の記憶にも残っていないまま、奇妙な不安だけが胸に残っている。
あのおじさんが排水溝に向かって誰と話していたのか、本当に「ヨリコちゃん」とは誰だったのか――今でも彼は、その答えを見つけられずにいる。
[出典:原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「匿名さん」 2007/12/26 14:45]
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