カルトの闇に沈んだ土木青年【怪談・怖い話】
十七の春、雪の残る山形を後にして、東京に出てきたぼくの人生は劇的に変わり始めた。先生の「東京てば、オッカネェどごなんだぞい。ワリイ女さ気ぃつけろよ」という言葉を胸に、ぼくは足立区の土建屋で懸命に働いていた。盆、暮れ、正月も関係ない忙しさで、東京の華やかさを味わう暇もなかった。
ある休日、珍しく銀座に出かけた時のことだ。ショウノウ臭い一張羅の背広をまとい、銀座をブラブラしていると、一人の男が声をかけてきた。「映画に関するアンケートをお願いします」と。お人好しのぼくは、快く受けることにした。アンケートを終えると、映画の無料チケットやサービスがついたお得なチケット綴りを薦められ、一冊3000円で三冊買った。
今ならインチキだとすぐに気づいただろうが、当時のぼくは純粋無垢な好青年だった。自慢じゃないが、じいちゃんも連帯保証人になって借金を背負った経歴があり、ぼくも「人が好い」と誉められたものだ。だが、それが大きな誤りだった。
借金地獄の始まり
英会話セット、恋人紹介センター、競馬の必勝法、しあわせの壷、開運の印鑑。ぼくは次々と怪しい商売に引っかかり、金をつぎ込んでいった。仕事仲間からは「たつ、おめぇって人がいいんだなぁ」と言われ、ぼくはその言葉に照れていた。しかし、それが破滅への道だったのだ。
カルト的宗教団体にも関わり、お布施や布教活動に時間と金を奪われた。サラ金の名義貸しもしてしまい、借金地獄に落ちた。気づけば、親方からも呆れられ、仕事にならないぼくは自然と『脱ドカタ』になった。そして、起業家を目指す道を歩むことになる。
起業家への道
借金総額1,200万円、四人家族を養うには重すぎる負担を背負いながら、ぼくは何をすればいいのか分からないまま、起業家を目指すことにした。巷に溢れるビジネス情報誌を片っ端から集め、情報収集に勤しんだ。
それがカルト宗教との縁を切るきっかけになるかと思いきや、今度は経済カルトに引きずり込まれることになった。怪しいネットビジネスやマルチ商法に手を出し、ますます泥沼にハマっていった……
数年が過ぎ、ぼくは一度は泥沼から抜け出せたと思った。しかし、現実はそう甘くはなかった。借金の返済に追われ、家族との時間もなく、精神的にも追い詰められていった。そんなある日、旧友から一通の手紙が届いた。
「たつ、お前のことをずっと心配していた。実は、俺も同じような経験をしていたんだ。お互いに助け合おうじゃないか。」
その手紙に心を動かされ、旧友と再会したぼくは、彼と一緒に新たなビジネスを始めることにした。今回は怪しい商売ではなく、地道で確実なビジネスだった。二人で力を合わせ、少しずつ信頼を築き、借金も減らしていった。
しかし、またしても運命の悪戯が待っていた。新たなビジネスが軌道に乗りかけた頃、旧友が突然倒れ、帰らぬ人となったのだ。彼の死にショックを受けたぼくは、一度は全てを投げ出そうとした。しかし、彼の夢を引き継ぐことを誓い、再び立ち上がった。
今、ぼくは小さな会社を経営し、家族との時間も大切にしながら、地道に生きている。カルト宗教や怪しい商売に騙された過去は消えないが、その経験が今の自分を作り上げたのだと思う。
ぼくは、もう二度と騙されない。家族のため、自分のため、そして、亡き友のために、誠実に生きることを心に誓っている。人生は決して楽ではないが、真実の道を歩むことこそが、ぼくの選んだ唯一の道なのだ。
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今後とご贔屓のほどお願い申し上げます。