【あまちゃん再放送記念 朝ドラコラム】2023年4月17日

 「あまちゃん」以前以後としても過言ではないほど、このドラマがNHKに与えた影響は大きい。現在108本も作られている朝ドラ史上でも常に1位となるこのドラマは、能年玲奈という怪物を産んだだけでなく、NHKそして民放ドラマのその後を大きく変えていった。

 朝ドラが日本中に影響を与えた最初の作品は1966年に放送された第6作「おはなはん」だろう。ドラマが始まると同時に主婦が水仕事を一斉に止めてしまうため、水道の圧力が下がって出が良くなるという逸話は有名だ。そして1974年の第14作「鳩子の海」の子役斎藤こず恵や1975年の第15作「水色の時」の最年少主演大竹しのぶの影響で出演者に注目が集まるように。1979年の第23作「マー姉ちゃん」で「サザエさん」をテーマに。これ以降、日本の歴史上の人物をモチーフにした作品作りも織り交ぜられるようになる。

 そんな朝ドラ史上、燦然と輝くのが1983年の第31作「おしん」。平均視聴率は52.6%、最高視聴率62.9%は今後も絶対に超えられないであろう。1人の女性の一生を1年かけてしっかりと描く手法で、幼少期の小林綾子、10〜20代の田中裕子、その後の乙羽信子が熱演。特に田中裕子はその後の彼女の女優人生の大きな足掛かりとなり、日本を代表する女優と呼ばれるようになる。脚本家の橋田壽賀子を飛躍させた作品であり、その後朝ドラでは1992年の第47作「おんなは度胸」や大河ドラマの傑作「おんな太閤記」などでも話題となった。

 田中裕子以前からではあるが、朝ドラは新人女優の登竜門といわれ、現在活躍する多くの女優が有名になるきっかけに。1985年の第34作「澪つくし」はのちに科捜研で活躍する沢口靖子の初めての連続ドラマであり、主演。その後1996年まで、のちの大女優(もしくは有名人の奥様)になる女優が続出。斉藤由貴、古村比呂、若村麻由美、藤田朋子、山口智子、清水美砂、荻野目洋子、畠田理恵、鈴木京香、桜井幸子、石田ひかり、戸田菜穂、細川直美、安田成美、菅野美穂、松嶋菜々子などなど。

 ただし、まだ朝ドラは主婦のものであり、橋田壽賀子以来、その傾向は強まる一方だった。その流れを変えたのが1996年の第55作「ふたりっ子」だ。双子タレントとして大ブレイクする三倉茉奈・佳奈(わずか8話のみの出演)をはじめ、岩崎ひろみ、河合美智子、内野聖陽、段田安則など多くの俳優を輩出。羽生善治をはじめ多くのA級棋士や古田敦也、掛布雅之、原辰徳などがゲスト出演。主婦だけでなく多くの女性視聴者を獲得した。

 出演者といえば2000年の第63作「オードリー」だ。堺雅人と佐々木蔵之介という2人の大俳優を生んだ作品。この2人以外にも渡辺いっけい、上川隆也、綾野剛、ディーン・フジオカ、中村倫也、松下洸平など、朝ドラがブレイクのきっかけになった俳優も多い。

 2001年の第64作国仲涼子主演の「ちゅらさん」は放送終了後も人気が続き、2008年まで続編などが4作も作られ、その後の朝ドラ人気作はサイドストーリーなどの特別編が作られるようになった。ただこの「ちゅらさん」人気の影には朝ドラ人気の翳りもあった。常に新作を追い求めていた視聴者が、現在放送している作品を前作よりつまらないと思うようになり、ここから2012年前半期の第86作堀北真希主演の「梅ちゃん先生」までは視聴率が下降。2007年の第77作貫地谷しほり主演の「ちりとてちん」や向井理の出演で話題となった2010年の第82作松下奈緒主演の「ゲゲゲの女房」などのヒットはあったが、2012年後半期の第87作夏菜と風間俊介主演の「純と愛」が史上最低視聴率となったことからネットで叩かれ始め、朝ドラの終焉が語られるようになった。

 そんな逆風の中で登場したのが、2013前半期の第88作「あまちゃん」である。

 「木更津キャッツアイ」「池袋ウエストゲートパーク」などで絶大な人気を誇る宮藤官九郎脚本ということで多くの男性視聴者を獲得。80年代のアイドル、お笑い、ドラマなどのネタ全開で、AKB48や秋元康もパロディ化。細かな伏線がどんどん回収するスピード感ある朝ドラらしからぬ展開は、幅広い層に支持された。主演は、当時まったく無名だった能年玲奈であったが、第1部・故郷編(第1〜72話)での透明感、第2部・東京編(第73〜156話)でのアドリブ全開の演技力で一気に多くのファンを獲得。事務所の問題などから続編などは作られなかったが、東北各地でのイベントに現在でも呼ばれており、10年が経過した今もその人気は衰えていない。宮藤官九郎はこの成功から大河ドラマの脚本も任され、傑作「いだてん」を誕生させることになる。

 「あまちゃん」以降、朝ドラの視聴率は20%台に復活。民放で活躍する脚本家や演出家を積極的に入れることで安定的な人気に。しかし2022年前半期の第106作黒島結菜主演の「ちむどんどん」以降、再び人気に翳りが出てきており、最新作「らんまん」よりも「あまちゃん」再放送の方が視聴率を取れているという現実。

 再び宮藤官九郎が脚本もしくは能年玲奈が出演する朝ドラが登場するのではないかと夢想させる今回の「あまちゃん」再放送だ。

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