【ワールドベースボールクラシック第5回大会】2023年3月24日

 2017年に行われた第四回大会で米国が念願の優勝を果たしたことで当初の目的を果たしたと米国をはじめ各国はWBCの終了を報道。その後2020年までいっさいの情報が出ず、Webサイトも更新されないままになったことからWBCの終了が現実性を帯びてきていた。

 放置状態のまま約3年が経過した2020年1月16日、第五回WBCの2021年開催がひっそりと告知された。しかし運悪くその年の2月よりCOVID-19が世界中で大流行。3月12日には無期限の延期とすることが発表。この年に開催する予定だった東京五輪も延期となり、世界がコロナに覆われたことを実感させられた。

 2021年、まだコロナ禍にあった世界だったが、東京五輪を開催。復活競技となった野球で日本は金メダルを獲得。ふたたび日本中が野球に注目することになる。その視点の先はメジャーでMVPを獲得した大谷だった。そんな盛り上がりの中、2011年より常設されてきているサムライジャパンの新監督に栗山英樹が就任。

 この人事で野球ファンはおおいに盛り上がる。過去に中畑清、星野仙一、山本浩二、小久保裕紀といった実績もなく、頭の悪い監督ばかりを使ってきた日本。ようやく野村の教え子であり考える野球が実践できる稲葉篤紀によってプレミア12、五輪の優勝を得たことからの教訓が生かされた栗山の監督就任。そして期待されたのはファイターズ監督時代の選手であるダルビッシュや大谷を代表に呼ぶことだった。

 五輪の興奮さめやらぬ日本では過去にないほどWBCが盛り上がる。それは2023年1月26日のサムライジャパンメンバー発表時点でも変わらなかった。ダルビッシュ、大谷はもちろん、鈴木誠也、吉田正尚といったメジャーリーガーを揃え、さらには佐々木朗希、村上宗隆と、ほぼ日本人が考える最強メンバー。さらに意外なところでは日系人メジャーリーガーであるヌートバーの召集も話題となった。

 組み合わせをはじめ、大会内容は第四回と大きく変わらなかったが「同一選手による先発投手と指名打者の兼任が可能」という、たった1人の選手のためのルールが採択された。これが通称「大谷ルール」である。この発表に日本全体がさらに盛り上がったことは言うまでもない。大谷がMLBから打者だけでなく投手としての参加が認められた証拠であり、形だけでなく大谷がメインで出場することが確定した瞬間だった。そして、大会前から日本が優勝候補筆頭となるのも5回のWBCで、今回が初めてだった。

 大会の第一ラウンドは台湾開催のA組、日本開催のB組、米国フェニックス開催のC組、米国マイアミ開催のD組に分かれ、過去もっとも公平な予選と言われた。日本は圧倒的な強さで予選を勝ち抜き、準々決勝でもイタリアを下して準決勝に進出。ここまでは打力の日本と呼ばれ、投手はいまいちだが打力で勝つチームという各国の評価だった。実はこの評価は決勝の途中まで変わることはなく、米国の決勝での敗因の1つであると言われている。

 圧倒的戦力を誇る日本の対抗馬はこちらもメジャー選手を多く抱える米国。特にMVPを3回獲得し、300本塁打200盗を記録している現役最強打者マイク・トラウトの参加は今回の米国チーム最大のポイントだった。過去のWBCで、これほどの選手が参加したことはなかったからだ。投手力に劣る日本は、米国との打ち合いに勝てるか否かが優勝への条件とも言われていた。

 ただ、やはり米国主導の大会であることは発揮され、準々決勝の組み合わせで事件は起こる。

 当初、日本のブロックに入っていたのはイタリア、米国、ベネズエラ。反対側にオーストラリア、キューバ、プエルトリコ、メキシコだった。しかし、準々決勝でオーストラリアの敗戦が決まった後、その組み合わせが変更される。日本のブロックには準々決勝の対戦相手であるイタリアの他、プエルトリコ、メキシコになったのだ。これを見たベスト8に残ったチームは米国が日本と決勝まで当たらないように作為したと感じたが、米国と決勝まで当たりたくなかった日本では特に報道されず、むしろありがたい組み合わせに変更されたという雰囲気だったのだ。

 準決勝ではメキシコ相手に苦戦するも不振だった村上宗隆の復活サヨナラ2点長打で勝利。

 決勝は米国の思惑通り、日本との対戦となった。ほぼ全試合チケットを完売させ、高視聴率を稼ぐ日本はWBCの興行に大きく貢献するこは間違いなく、現実として日本での経済効果は当初予想の600億円から650億円へと上昇することになった。

 試合は意外にも投手戦に近い形になった。戸郷、高橋宏斗、伊藤、大勢とその投手力を発揮し、強力な米国打線をソロ本塁打1本の1点に抑える。8回にダルビッシュ、9回に大谷という流れは誰しもが思い描いていた投手リレーだろう。当初、チームからの要請で準決勝、決勝での登板はできないのではないかと言われていた2人。この2人を投げさせることができたこともWBCの盛り上がり、そして今後の発展の可能性を感じさせてくれる。

 今後参加国が増え、各地域での予選を勝ち上がってきた国のチームが開催国の球場で決勝トーナメントを戦うようになると、さらなる発展を遂げるだろう。サッカーのW杯には遠く及ばないが、WBCもほんの少しだけ当初思い描いていた「野球の世界一決定戦」に近づいたのではないだろうか。

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