【史上最強女流棋士里見香奈の挑戦】2022年7月5日

 将棋はよく囲碁と比較されるされるが、組織としての大きな違いが存在する。

 それは囲碁界に女性の棋士は存在するが、将棋界に女性の棋士は存在しない点だ。

 将棋界において棋士とは奨励会に入会し、三段リーグで1位をとり、四段となった者を指す。今まで四段になった女性は存在しないため、女性の棋士は存在しないのである。では女流棋士である里見香奈や西山朋佳はどのような存在なのかというと、日本将棋連盟の下部組織である女流棋士会に所属する準会員という扱いである。そのため8大タイトルはもちろん、参加資格が「棋士」である大会には参加することができない。

 囲碁の場合は男女の区別なく、女流の段位は男性の段位と同等である。しかも別に高額賞金が得られる女流大会が存在するため比較的収入が良く、権利も保障されている。しかし将棋の場合、女性が参加できる大会は女流大会のみに限られている。その弊害は収入に反映し、女性プロ棋士は一部の人を除いて低く抑えられ、しかも全員準会員であるため権利も存在しない。

 女流最強棋士である里見香奈が女流5タイトルを制したときに目指したのが本物の棋士。つまり奨励会入会し、三段リーグ参戦して四段になることだ。あの日本最強棋士羽生善治をして地獄だったと言わしめた三段リーグ。毎年リーグ上位成績2名だけが四段つまりプロ棋士になることができる過酷な争い。そして満26歳の誕生日までに四段に昇段できなかった者は退会となるという年齢制限があり、全てをかけてプロを目指した将棋指しを奈落の底に叩き落とすシステムでもある。

 そんな過酷な三段リーグに里見は22歳だった2014年から参戦。しかし三段リーグと女流タイトルの同時進行は過酷で体調を崩し、その年はほぼ休養。2015年に復帰し女流タイトルのほとんどを奪い返したが、三段リーグは2016年まで休場。その後2018年まで三段リーグ挑戦するものの勝ち越しもままならず26歳を迎えてしまい、奨励会退会が決まってしまう。つまり女性初のプロ棋士誕生の夢は潰えたのである。

 その後女流棋士として6大タイトルを同時制覇(現在女流タイトルは8つ)。在位も48期と清水市代、中井広恵、林葉直子を抜いて文字通り女流史上最強棋士となった。

 実はプロ棋士になる方法はもう1つある。それが棋士編入試験制度。棋士の公式戦にアマチュア枠や女流枠から出場し、10勝以上、かつその間の勝率が6割5分以上の成績を収めることで資格を得て、その時点でもっとも直近にプロ棋士となった者と5対局し、3勝を挙げることでプロ棋士、つまり奨励会四段となる。さらに女流棋士においては特別ルールとして、プロ棋士になったあとも女流タイトルへの出場権はそのまま維持できるのだ。

 今まで棋士編入試験制度資格を得た者は5名。今泉健司、稲葉聡、加來博洋、折田翔吾、そして里見香奈である(稲葉と加來はプロにならず)。

 もちろん里見が合格すれば女性初。そして名人戦をはじめとするタイトル戦とクイーン戦と呼ばれる女流棋士タイトルの両方を取る権利が得られる唯一無二の存在となるのだ。

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