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AirPodsは死んだ。

僕は、AirPods Proを普段から愛用している。
AirPodsとは、街ゆく人が耳からぶら下げている白いワイヤレスイヤホンのことだ。
今や通勤中に音楽やラジオを聴くのに欠かせない存在になっている。


だけど、以前はAirPodsのことがあまり好きではなかった。あまり理解して頂けないと思うが、理由はAirPortsが人気だからである。

他の人とは何かが違う、変わっている、と言われることに喜びを感じ、自分を特別だと思っていた10代の頃から変わってない僕は、他の人と同じものを使うことができなかった。

だから大した理由もないのに、AirPodsではない他のワイヤレスイヤホンを使っていた。AirPodsを使わない俺センスいいだろう!と言わんばかりに優越感に浸りながら、AirPodsだらけの人混みの中を歩いていた。

しかし、今まで使用していたイヤホンが壊れたタイミングで、AirPods Proを購入してしまった。
理由はいたって単純で、自分の好きなアーティストがAirPodsProを使っているという話を聴いて、真似したくなったからである。さっきまでの思春期はどこにいったんだ。

最初は抵抗感があったけど、使っていくうちになぜAirPodsが人気なのか?が分かっていった。

音質とかノイズキャンセリングについては、正直他のイヤホンと比べて大差ないと思う。
他と比べてAirPodsが優れている点は、本体がとにかく軽くて耳にフィットするので、ずっとつけっぱなしでも全然耳が疲れないところである。
どれくらい疲れないかと言えば、AirPodsを耳に装着したまま寝れるくらい。

また、AirPodsは耳に装着してから、長時間充電が持つので、ずっと耳につけっぱなしにできる。家で掃除機をかけるとき、洗濯をするとき、ご飯を作るとき、食器を洗うとき、何か作業をするとき、ごみを捨てにいくときなどなど…。いちいち充電を気にする必要がないので、ストレスなく家事やちょっとした作業を行うことができる。

今日の朝も、そんな親愛なるAirPodsを装着して、音楽を聴きながら、朝の支度をしていた。
歯を磨き、服を着替えて、寝癖を直し、AirPodsを装着し、家を出た。AirPodsを入れるケースはベッドの上に置いたまま。

職場までの20分間、音楽を聴きながら、黙々と歩き続けた。
職場に着いた僕は、AirPodsをケースに直そうとポケットに手を入れてみたが、そこにはケースがなかった。何度ポケットを叩いてみても見つからなかった。
バッグの中もバックの内側の小さなポケットも探してみたが、やはりなかった。
僕はその時、悟った。家にケースを忘れてきてしまった、と。

AirPodsの帰る場所がなくなってしまった。
おい、どうするんだ!充電できないぞ。
こいつが少しずつ弱っていくのを黙って見届けるしかないのか。
いつの間にか僕はぎゅっとこぶしを握り締めていた。

だが、どうしようもない。仕事終わりにAirPodsと二人でデートをする予定だったのに。僕の不注意により、その予定は完全になくなってしまった。ごめんよ、エア。

そう言って僕は、カバンの内側の小さなポケットにAirPodsを裸のまま入れた。罪悪感に苛まれながら、僕は、カバンを一切見ないように前だけを見つめた。

仕事終わり、カバンの内側の小さなポケットに手を入れてみると、AirPodsは冷たくなっていた。
僕はAirPodsを殺してしまった。

AirPodsなしの帰り道。
見慣れているはずの帰り道が、音楽やラジオがないだけで、全く違う景色に見える。
街の喧騒、自分の足音、車が道路を駆け抜けていく音、風で木々が揺れる音。そこには、いつもは感じることができない新鮮な音があった。

AirPodsは死んだ。

でも僕の感性は確かに生きていることを実感した。

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