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祖母の押し売り対策

まだわたしが小さい頃、祖母と留守番してた時、ゴムひもを携えた押し売り(今わかる人も多くはないだろう:笑)が来て
「おいお母さん、俺は今さっき刑務所から出てきたばかりなんだ、悪いがこのゴム紐買ってもらおうか!」と言って上がり込もうとしてきた。

祖母はおびえる僕にやさしく「兄ちゃん、あたしの後ろにおいでよう。」と言いながら玄関に仁王立ちになり

「そりゃぁご苦労さんなこった。でもこちとらお前さんみてえな雑魚には用はねえんだ。渡世をやってちゃあ〇〇の親分さんの名前くらいは聞いたことがあるだろう?そうだよ、カクライのイチ公っつったら知らねえ奴はいねえだろ。あんた、イチ公の前でアタシの名前を出してみる度胸はあんのかい?」みたいなことを立て板に水を流すようにドスの効いた大音声でノタマッた。

押し売りは一瞬きょとんとして、そのあとさっと青くなり、身震いしたかと思うと「そ、それは失礼いたしやした。名のある姐さんのお宅とは知らず・・・」とかなんとか(笑)

小さくなって出てゆく押し売りを見て「あーあ、兄ちゃん怖かったねえ。でもああいう馬鹿は親方の名前を出されると、急にああいう風になっちゃうんだよ。覚えておきなよう。」と笑って、何事もなかったかのように、三時のあなたを見に戻った。

それにしても祖母は胆力があった。
同じようなことは数度あったが、そのつど〇〇の親分さんが、××の会長さんになったり、△△社長になったり、ときには自分を八幡のおしょうさんと言って知らねえもんはいねえんだ、って啖呵を切ったり・・・わが祖母ながら、まったく大したもんだと思った。


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