行者杖の音
今吾妻流として、主に教えている武器のひとつに行者杖(金剛杖)がある。
中国の行者杖は孫行者で猿拳的だが、日本のそれは上に五輪を頂いた樫の棒で、役行者の伝統にあるのだろう。
これは僕の祖母とその親戚たちが四阿山や妙義、榛名などの上毛の山々で修験の行をした時に、お世話になった法印さんと言って、在野の修行者がいて、その方が山を歩く時に使っていた杖の使い方。
僕も若干の歳から、その方の弟子筋なのか、息子なのか??先達さん(この人は本当に無口で、自分のことなどは殆ど語らない、謎の人だった)について秩父や東北、関西や上信の行場を回ったことがあるから、祖母からというよりその方から多く学んだ。
いま、その方もなくなってずいぶん経ったので記すこともできるが、その頃は山に出入りしていても、その内容は他言無用だった(断食や瀧行、籠山行などはその方から学んだものです。何故多言無用だったのかというと、もともとそういった禁忌があったのか、おそらく民間の家でやっていて、宗教団体とは異なった儀軌だし、先達自体本職があったのですが、傍らでまじない、病気なおしみたいなこともされていたので、あまり目立ちたくなかったのではないでしょうか。)
歩き方や行者の杖の運用法(川衆とび・送り杖・繰り杖・条里の杖など)は特にその本伝の内容ではないので、今思えば語っても良かったのではないか。(本伝の内容とは密教的なもの。所謂雑密ですね。)でも、口外すると目が潰れるとか、佛罰云々と言われると、ちょっと怖かったというのもなきにしも非ず。
僕はその杖使いが大好きで、紹介状をかいてもらって伺った那智で誂えた2本目の杖を、今も大事に使っている。(あの時は決死の覚悟で行きました。5日間で紀伊半島を縦走、伯母子を超えて高野山につく時には足は血だらけ、目はギラギラだったです。一番真面目に行者をやっていた頃です。)
恐くて寡黙な先達曰く「繰り杖がうまければ、50年たっても折れたりはしないもんだ・・・」
教えのお蔭か、それ以来行にあまり出ていないからか(笑)もう20年たった僕の金剛杖も、色こそ良い感じになってきたものの、底だけが丸くなっただけで、折れたりひびが入ったりはしていない。
この方の杖使いは、実に味があって、比叡の行者さんを彷彿とさせるものもあり、また武の内容もあり(昔は山で自衛する必要があったそうです)・・・これに祖母から学んだ数手の杖の技を錬りこんだものが、今の僕の行者杖となっています。
応古の吾妻衆が、この杖術を遣っていたのかは判りませんが、狭い山の中でも有効に活用出来る知恵が、たくさん詰まった面白いものです。
楽しいので、やってみたい方がいたら声をかけて下さいね✨