【自由詩】歩いてみれば
「歩いてみれば」
駆け抜ける 電車乗らずに 歩いてみれば
そこには知らざる 世界ありき
彼方まで 遥か遠く見渡せし 草花彩る公園や
食卓に 馴染み深し 食べ物を 製造するは
大工場
歩いてみれば 見つけたり
十字路を 右へ左へ 気の向くままに
奥へ奥へと 入ってゆけば
紫陽花で 庭を飾りし 婦人が一人
澄んだ眼で 公園駆ける 少女が一人
歩き疲れ 腰かけ休む 我を見て
話しかけたる少年が一人
彼は朗らかなりき
歩いてみれば かくのごとく
豊穣なる風景 広がりし
我 このことに気づかざりき
されど電車に乗ってみれば
風景は過ぎ去り 味わうこと能わず
色鮮やかな草花は見えず
遠くを見渡そうにも 聳え立つビルが
我が視野を奪うばかり
車内を見ても 渋顔ばかりが 集まれり
自然に触れず 土から離れた彼らには
道行く少年のごとき 朗らかな表情を
望むこと能わず
車窓に映る かすかな自然さえ 目もくれず
彼らは旅立つ 謎の端末世界へ
降りた後も 帰路においても
夢中で眺める 端末世界
豊穣なる風景も 彼らの眼には映らざりき
そしてやがては彼らも去り行く
「つまらない田舎だから」と不満こぼして
されどかの地を つまらなくしたのは
他でもない彼らの精神なり
電車を降りた一歩先には
おもしろき風景が広がりしものなり
彼らは終に それを知らずかの地を去れり
歩いてみれば
自然がある
暮らしがある
「記憶」がある
失われしあの頃の記憶が
公園に学校に広場に坂道に
散らばって眠れり
我が記憶を失えども
場所は記憶を失わざりき
求めさえすればいつでも
記憶はそこで待っている
我らが生命吹き込み
現世に甦るその時を
さればこそ 我は今日も歩かん
失われし記憶の
かけら求めて
いいなと思ったら応援しよう!
興味を持った方はサポートお願いします!
いただいたサポートは記事作成・発見のために
使わせていただきます!