【小説】目が覚めたら夢の中 第51話 衝動2
衝動2
「!」
私はアメリアと見つめあう。状況を把握したのか、アメリアは困惑した様子でエンダーンを見た。
「エンダーン様。この身体に手を出したら、自死されてしまうのでは?」
「手を出すのは私ではなく、そなたなのだから問題なかろう?」
エンダーンは口の端をにやりと上げて、私を見やる。
「断る。」
「そうは言っても、もう身体がつらいのではないか?そなたが大切にしている少女の身体だ。そなたが初花を散らせるのだ。願ったり叶ったりではないか。」
エンダーンはアメリアの手を引き、私の方に身体を押し出した。彼女の身体が寝台に座っている私に触れ、私の身体が跳ねる。
媚薬のせいで感覚が鋭敏になっていて、少しの刺激でも身体が反応してしまう。
エンダーンは私が翻弄されている様子を見ると、楽しそうに笑って、離れたところに設置してある椅子に腰を下ろした。
「私はいいですよ。カミュスヤーナ。」
彼女はエンダーンに聞こえないようにか、ひそひそとささやいた。
「だめだ。君はまだ成人していない。」
「あと数ヶ月で成人ですから、私たちが口を噤んでいたらわかりません。」
そう言う彼女の顔は少し青ざめている。この様子を見ていると、アメリアはテラスティーネと意識を入れ替えたらしい。私はこの窮地を切り抜ける方法がないか、考えを巡らせる。
さすがにこの距離だと、奴に誤認させたり、ごまかしたりするのは難しい。
できるだけ深く呼吸をして気持ちを落ち着かせようとするが、彼女に対する欲望が簡単にそれを凌駕する。衝動のままに彼女の初花を奪ってしまいたいと。
・・衝動?これを彼女の初花を奪うこと、彼女を壊すことではなく、別のことに転嫁すればいいのではないか?・・例えば奴への破壊衝動に。
「証石を出してくれないか?」
彼女は戸惑ったように目を瞬かせたが、軽く頷くと、口の中で文字列を唱え始めた。私も同じように口の中で文字列を唱える。
目の前にいる彼女の体を自分のほうに引き寄せた。彼女の赤い瞳を正面から見つめる。
「私はこれから君の魔力を奪う。君を死なせるほどは取らない。そして、その魔力を糧にして、奴への破壊衝動を増幅させる。私は奴に反撃する。」
「貴方はそれで無事で済むのですか?」
「・・それはわからない。多分正気は失うと思う。・・アメリア。テラは私が魔力を奪った後、気を失う。そしたら、すぐに入れ替わって、ここから逃げるのだ。そなたたちにまで破壊衝動が及ばないように。」
一瞬、彼女の瞳が揺らめいた。彼女の中のアメリアがこの言葉を聞き取ったと解釈する。
彼女の右手を取って、自分の右手を掌が重なるようつなぎ合わせた。証石同士がカチッと音を立てて合わさる。彼女の身体がぴくっと震えた。私は刺激から湧く感覚を外に押し出すように、息を吐いた。自分の息がとても熱く感じる。
「カミュスヤーナ。一緒に帰るのですよ。」
「・・・。」
「きっと、戻ってきてください。私の側に。」
それができると約束はできない。自分がどうなるか、はっきり言ってわからない。でも、これだけは確かなことを口にする。
「私は、君を愛している。私は君の側にあれて幸せだった。」
彼女が私の言葉に目を見開いた後、目尻を下げて笑ってみせる。私は彼女の声が外に漏れないよう唇を合わせ、唇と証石の合わさったところから、一気に魔力を取り込んだ。
彼女の身体から力が抜け、私の腕の中に倒れこんでくる。私はそれを抱きとめながら、身体の中で膨れ上がるものを、奴への破壊衝動に注ぎ込んだ。