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【小説】純血統種に報復を 第13話 救済と恐怖

第13話 救済と恐怖

 目を開いたら、心配そうにセラフィーナを見降ろしているオクタヴィアンの顔が見えた。
 セラフィーナは長椅子に寝かされているらしい。
 彼の腕を借りて、何とか長椅子から身を起こした。頭がくらくらする。セラフィーナは頭に手を当てた。

「気分は……悪くない?セラ」
「大丈夫。私は何をしていた?君から目を閉じるよう言われてからの記憶がないのだが」
 頭を振るセラフィーナに向かって、オクタヴィアンは苦々しげに言葉を吐く。

「セラ。私は貴方の願いを叶えてあげることができなくなった」
「え?」
 セラフィーナがオクタヴィアンの方を見ると、彼はセラフィーナの視線に気づき、それから逃れるように目を伏せた。

「それは、この天仕てんしことわりを破る話のこと?」
「いや、貴方を王宮から連れ出す話の方」
 オクタヴィアンはつい先ほど、彼と結婚すれば、王宮を離れてどこにでも行けると言ったのではないか?その結婚を止めようと言っているのだろうか?やはり、私も王族の一員として処罰したいと思ったのだろうか?
「私がまぶたを閉じている間に何があった?」

 セラフィーナの質問に、オクタヴィアンは大きくかぶりを振った。
「セラ。私はこの地の王になる。そして、この理を排す」
「!」
「私は貴方のお父様とお兄様を討伐とうばつする。でも、貴方は私と結婚しても、王族のままだ。かせは外れない。もしかしたら、このまま一生この王宮から自由に出られないかもしれない」

「……」
「私は貴方の願いを叶えられない。だから、もう私に協力してくれなくていい」
「君は全てを一人で決めてしまうのか?」
 オクタヴィアンはセラフィーナの言葉にぴしりと身体を固くして、ゆっくりと顔を上げた。

「私たちは婚約しているのに。婚約者に何も相談せず、すべてを一人で決めて、一人で行おうとしているのか?」
「セラ……」
「今の君はとても放っておけない」
 自分の顔を見てみればいい。とセラフィーナはオクタヴィアンの顔を指差した。

「君は心の中で助けを求めている。私は君を助けるよ」
 オクタヴィアンがその赤い瞳を見開いた。
「私は、貴方の家族を殺すと言っている。そして、なり替わって王になると」

「それは、それだけのことを父と兄はしたから。君のお父様も、そのことについて言及していたではないか。覚悟はしている。そして、私は家族のことを黙って見ていただけだった。だから、私もこの王宮に捕らわれる必要があるのかもしれない。それが私の罪を償う方法ならば」

「セラ」
「でも、君は関係ないだろう?君が王になる必要はないと思う」
「駄目だ」

 オクタヴィアンはその赤い瞳でセラフィーナを見つめた。
「私が王にならないと、一番重要な人物の協力が得られない」
「それは一体、誰のことだ?」
「君は、私が王になるのを待っていてくれ」
「タヴィ」

 オクタヴィアンは心の中で、硬く王になることを決意してしまっているようだ。そのために、セラフィーナの協力は必要ないと言う。セラフィーナは黙ってオクタヴィアンを送り出してはいけないように感じた。でも、何度オクタヴィアンに呼び掛けても、セラフィーナの声が彼に伝わっているような気がしない。

「セラ。私は貴方を解き放ってあげることができなくて。すまない」
「タヴィ。この期に及んで何を言っている?」
「私は弱い。貴方の手を離すことができなかった。……貴方との婚約を取り消すつもりはない」
 この天仕の王になって、セラフィーナと婚姻して、歪んだ理を排除して。
そして、彼には何が残るのだろう?

「タヴィ。今焦って決めることはない。そして、一人で決断し実行するのは悪手だ。私は君がどうなろうと、私をどうしようと、君の味方だ。だが、多分私の手には余る内容なのだろう?」
 セラフィーナが、彼を安心させるように笑みを浮かべてオクタヴィアンに近づくと、彼はなぜか彼女から距離を置こうと、身を退けさせた。

「タヴィ?」
「すまない。本当に」
 オクタヴィアンはセラフィーナの顔を見ながら、口の端を引きつらせた。何かを恐れているようにも見える。セラフィーナ自身を恐れている?

「タヴィ。私の中に何かいるのか?」
 オクタヴィアンは、セラフィーナのことを苦しそうに見つめた。彼は彼女に助けを求めていて、それでいて何かを恐れている。

「はっきりと言えないことなのか?」
「今は無理だ」
「言えるまで待っている。だから、今日はもう帰った方がいい」
「……」
「君は今、私と一緒にいたくないのだろう?」

 セラフィーナの中にいる何かと。

第14話に続く

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説那(せつな)
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