![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/165485612/rectangle_large_type_2_96ca4512e5d62ab02cdf9c6d14b63f96.png?width=1200)
【小説】純血統種に報復を 第13話 救済と恐怖
第13話 救済と恐怖
目を開いたら、心配そうにセラフィーナを見降ろしているオクタヴィアンの顔が見えた。
セラフィーナは長椅子に寝かされているらしい。
彼の腕を借りて、何とか長椅子から身を起こした。頭がくらくらする。セラフィーナは頭に手を当てた。
「気分は……悪くない?セラ」
「大丈夫。私は何をしていた?君から目を閉じるよう言われてからの記憶がないのだが」
頭を振るセラフィーナに向かって、オクタヴィアンは苦々しげに言葉を吐く。
「セラ。私は貴方の願いを叶えてあげることができなくなった」
「え?」
セラフィーナがオクタヴィアンの方を見ると、彼はセラフィーナの視線に気づき、それから逃れるように目を伏せた。
「それは、この天仕の理を破る話のこと?」
「いや、貴方を王宮から連れ出す話の方」
オクタヴィアンはつい先ほど、彼と結婚すれば、王宮を離れてどこにでも行けると言ったのではないか?その結婚を止めようと言っているのだろうか?やはり、私も王族の一員として処罰したいと思ったのだろうか?
「私が瞼を閉じている間に何があった?」
セラフィーナの質問に、オクタヴィアンは大きくかぶりを振った。
「セラ。私はこの地の王になる。そして、この理を排す」
「!」
「私は貴方のお父様とお兄様を討伐する。でも、貴方は私と結婚しても、王族のままだ。枷は外れない。もしかしたら、このまま一生この王宮から自由に出られないかもしれない」
「……」
「私は貴方の願いを叶えられない。だから、もう私に協力してくれなくていい」
「君は全てを一人で決めてしまうのか?」
オクタヴィアンはセラフィーナの言葉にぴしりと身体を固くして、ゆっくりと顔を上げた。
「私たちは婚約しているのに。婚約者に何も相談せず、すべてを一人で決めて、一人で行おうとしているのか?」
「セラ……」
「今の君はとても放っておけない」
自分の顔を見てみればいい。とセラフィーナはオクタヴィアンの顔を指差した。
「君は心の中で助けを求めている。私は君を助けるよ」
オクタヴィアンがその赤い瞳を見開いた。
「私は、貴方の家族を殺すと言っている。そして、なり替わって王になると」
「それは、それだけのことを父と兄はしたから。君のお父様も、そのことについて言及していたではないか。覚悟はしている。そして、私は家族のことを黙って見ていただけだった。だから、私もこの王宮に捕らわれる必要があるのかもしれない。それが私の罪を償う方法ならば」
「セラ」
「でも、君は関係ないだろう?君が王になる必要はないと思う」
「駄目だ」
オクタヴィアンはその赤い瞳でセラフィーナを見つめた。
「私が王にならないと、一番重要な人物の協力が得られない」
「それは一体、誰のことだ?」
「君は、私が王になるのを待っていてくれ」
「タヴィ」
オクタヴィアンは心の中で、硬く王になることを決意してしまっているようだ。そのために、セラフィーナの協力は必要ないと言う。セラフィーナは黙ってオクタヴィアンを送り出してはいけないように感じた。でも、何度オクタヴィアンに呼び掛けても、セラフィーナの声が彼に伝わっているような気がしない。
「セラ。私は貴方を解き放ってあげることができなくて。すまない」
「タヴィ。この期に及んで何を言っている?」
「私は弱い。貴方の手を離すことができなかった。……貴方との婚約を取り消すつもりはない」
この天仕の王になって、セラフィーナと婚姻して、歪んだ理を排除して。
そして、彼には何が残るのだろう?
「タヴィ。今焦って決めることはない。そして、一人で決断し実行するのは悪手だ。私は君がどうなろうと、私をどうしようと、君の味方だ。だが、多分私の手には余る内容なのだろう?」
セラフィーナが、彼を安心させるように笑みを浮かべてオクタヴィアンに近づくと、彼はなぜか彼女から距離を置こうと、身を退けさせた。
「タヴィ?」
「すまない。本当に」
オクタヴィアンはセラフィーナの顔を見ながら、口の端を引きつらせた。何かを恐れているようにも見える。セラフィーナ自身を恐れている?
「タヴィ。私の中に何かいるのか?」
オクタヴィアンは、セラフィーナのことを苦しそうに見つめた。彼は彼女に助けを求めていて、それでいて何かを恐れている。
「はっきりと言えないことなのか?」
「今は無理だ」
「言えるまで待っている。だから、今日はもう帰った方がいい」
「……」
「君は今、私と一緒にいたくないのだろう?」
セラフィーナの中にいる何かと。
第14話に続く
いいなと思ったら応援しよう!
![説那(せつな)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/62022163/profile_ccdc7812790798d1d25f9f55d0c5cbb6.jpg?width=600&crop=1:1,smart)