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【小説】純血統種に報復を 第12話 この地の真王

第12話 この地の真王

「なんだと」
「だから、私はそなたらが壊したいと思っていることわりを作ったものだ」
セラフィーナはそう言って、ニッコリと笑った。

「なぜ、そんな理を?」
「そなたは、はぐれと呼ばれる天仕てんし以外の血が混じった天仕が、純血統種じゅんけっとうしゅと呼ばれる天仕より、魔力量が多いのは知っているか?」
オクタヴィアンは口を引き結んだ。

『でも、これを見ると、天仕の純血統種より、はぐれの方が実は魔力量が多いらしいですけど』
王宮図書館に、エルネスティーネと2人で来た時に、彼女がそう言っていたことを思い出す。だから、オクタヴィアンは、てっきり王がはぐれの魔力を奪っているのだと思っていた。

「私は、天仕の力をそぎ落としたかっただけだ。たまに味見と称してもらってはいたが」
「ということは、貴様は」
「私は、魔人だよ。ただし、もう身体はない。魂だけの存在さ。味見の時には王の身体を借りた」

「……」
「はぐれといえども、天仕は天仕。とても美味しかった。でも、美味しいものも食べすぎると飽きるもの」
セラフィーナは卓の上に手を置くと、その手にもたれるように力を込めて、こちらを見やった。

「私がこの地に来たのは何十年も前のことだ。もう既に、はぐれは存在していて、人間の住む地からこの地へ移り住んできていた。そして、純血統種と呼ばれる天仕は、同族のはぐれを迫害はくがいしていた。私はたまたま、この地に移り住んできた、はぐれの身体を借りたまま、この地に住んでいた。そして時々周りのはぐれを狩って食べていた」

「……」
「さすがに何度もはぐれを狩ることを続けていたら、純血統種に疑われるようになった。そして、王宮に連れてこられてしまった。結果、処刑が決まったから、私は借りていた身体を捨て、この地の王の身体を借りることにした」

「そして、はぐれを狩って、王に献上けんじょうする理を作ったのか?」
「そう。そうすれば定期的にえさが手に入る。純血統種にも受け入れやすい内容だった。……でも、もう飽きてきた。この生活にも」
セラフィーナはそう言って息を吐く。

「王は、はぐれを食べることで、力を得て、命も伸びると信じている。いや、私が信じさせた。だが、身体の方が捕食ほしょくには受け付けなかったようだ。食べる必要のないものを食べているから、身体は余計に老化を促進させ、精神も正常に機能していない」

だから、50歳代後半の見かけで、顔色も悪かったのか。
それに、他人の妻を取り上げるようなことも、行ってしまうような、無秩序な行動。

「それでは、次期王位継承者である彼女の兄は」
「彼には隷属れいぞくの術をかけている。だから、王の命令しか聞かない。さすがに、王がああなってしまうと、おかしいと気づかれてしまった。刃向かうことが多くなってきたし、他の天仕らをまとめて、王を討伐しようとする動きが見られたから、術をかけた。ほふってもよかったが、さすがに次期王位継承者がいなくなると、後々面倒だからな」

確かに、謁見えっけん時の彼の様子もおかしかった。操られていたのなら理解できる。

「とにかくもうこの地には飽きた。だから、次にこの理を壊そうとする人物が現れたら、協力しようと思っていた」
「貴様。この理のせいで、どれだけの天仕が犠牲になったと思っている」
「……この理を作ったのは、確かに私だが、継続してきたのは純血統種と呼ばれる天仕と王族だ。彼らが一致団結して終わりにしようとすれば、この理はその時点でなくなっていたと思う。まぁ、先にその芽は摘んでしまうがな」

私はほんの少し手を加えただけ。と言って、セラフィーナは彼女に似つかわしくない表情で、けらけらと笑った。

「それに私はこれでもう消滅しようと思っているから。命であがなえるなら贖う。王の身体を借りている間に、王を討伐とうばつすればいい。そうすれば、王が死ぬと同時に、私も消える」
他の身体でもいいけど、この身体は嫌だろう?と、セラフィーナはオクタヴィアンの身体に手を滑らせて、楽しそうに笑った。

「まさか、純血統種の天仕から、この理を壊す話が出るとは思わなかった」
そなたは本当に面白い。と言って、セラフィーナは笑った。
「本当に、純血統種?なのか?」
「疑うなら……」

「いや、私にとっては、そなたが理を壊したいと思って、行動に移したのは確かだから、どちらでもいい。つい最近同じように、はぐれの中で純血統種に刃向かう天仕が現れたが、その者は家族と共にいなくなってしまった。その後、純血統種に狩られたと聞いた。大変に残念だ。もう少し楽しめると思っていたのに、あまり騒ぎにならなかった」

セラフィーナが言っているのは、祖父アルフォンスと祖母リシテキアの家族のことだろう。純血統種に刃向かう天仕がアルフォンス(お爺さま)だ。死を偽造して難を逃れたと聞いている。それをそのまま信じているようだ。
「まさか、この者と婚約して王族に切り込みを入れてくるとは思わなかった。さっき、結婚して王族からこの者を排除はいじょしようとしていたけど、そのような必要はあるのか?」
自分の胸に手を当てた後、セラフィーナはニィッと笑った。

「この者は本当に平凡だ。王を糾弾きゅうだんできる立場にありながら、それをせず、ただこの王宮の外に出ることを願っているだけ。誰かがここから連れ出してくれるのを望んでいるだけ」
私は、ただ願っているだけの人物は、嫌いだ。とセラフィーナは急に顔を真顔に戻した。
「やはり、殺すか?」
「駄目だ!」
やっと言葉を挟むことができた。オクタヴィアンは息を調えるように大きく呼吸を繰り返す。

「あぁ、やはり止めるか。私はそなたのことは面白いから気に入っているのだ。そなたがこの地の王になるのなら、引き下がってもいい」
「私がこの地の王?」
「そう。純血統種と王族を排除したら、そなたがこの地の王になればいい。そして、私が造った理を排除して、はぐれが普通に暮らせる地にすればいいのではないか?」
それは、それで面白いことになりそうだ。と言って、セラフィーナは高らかに笑った。

第13話に続く

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説那(せつな)
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