【小説】目が覚めたら夢の中 第32話:暴露2
暴露2
「もちろん、魔王から彼女の身体を取り返してからでかまいません。ただし、自分を犠牲にして彼女を救おうと思わないでください。彼女はそれを望んでいません。」
「カミュスヤーナ様。よろしいでしょうか。」
フォルネスが会話に割り込んだ。カミュスヤーナは手を挙げて、それに応える。
「私はカミュスヤーナ様の命を受けて、テラスティーネ様と婚約いたしました。その後も休みをいただくごとにテラスティーネ様と一緒に時間を過ごしました。テラスティーネ様は、毎回カミュスヤーナ様のことを尋ねられ、体調を案じられておりました。お二人は、お互いのことを思いやるあまり、自分の幸せを考えていないように感じるのです。」
「自分の幸せ・・。」
「兄上、何が障害になっているのですか?私たちはその障害を取り除くよう貴方に協力します。」
カミュスヤーナの口が何かを告げるようにはくはくと動く。その後口を引き絞った。
「すまない。それは言えない。」
「兄上!」
「だが!」
私の呼びかけに、兄は強い口調で応答する。
「テラスティーネの身体を取り戻したら、彼女にその理由を話す。私の思いとともに。その時は言葉を尽くす。」
話していることに疑義はないようだが、どうも今までの兄上の行動を見ていると不安になる。
「兄上、テラスティーネが誰かと婚姻してしまえば、貴方がテラスティーネの側には、いられなくなるのですよ。兄上はもっと早くテラスティーネと話し合うべきでした。」
「すべてそなたの言うとおりだ。アルスカイン。どんな事情があろうと、私はテラスティーネに、それを伝えるべきだった。もう遅いかもしれないが。私は彼女に甘えて、言葉で伝えてこなかった。」
「今、それが分かっただけでも良かったと思います。まだ彼女は婚姻していませんから。私も下手な小細工はせず、もっと兄上と話すべきでした。申し訳ありません。」
「下手な小細工?」
兄が瞳を瞬かせて私を見る。フォルネスも真顔になって私の方を見やる。
正直事実を話さなくても、どうにかなる。でも、婚姻まで間もないのも事実。私は今まで兄をだましていた罪悪感を払拭したかった。
「私はフォルネスにテラスティーネとの婚約の件で相談を受けました。その時テラスティーネとは形ばかりの婚約をし、婚姻準備は兄上とテラスティーネとの間で行うつもりで進めるよう意見しました。」
「・・。」
「先ほど、準備は如何様にもなると言ったのは、このためです。本当は婚姻の1ヶ月ほど前に兄上に事実をお話しするつもりでした。」「テラスティーネ様もこの件はご存知です。」
フォルネスが口をはさんだ。
「誠か。」
「はっ。アンダンテより、テラスティーネ様が、カミュスヤーナ様より、私との婚約が調ったとお聞きになり、大変ふさぎ込んでいるので心配でならない。伝えてよいか。と尋ねられましたので。」
「知らぬは本人ばかりなり、か。」
「私に懲罰を与えてくださってかまいません。」
「もうよい。」
カミュスヤーナはフォルネスに向けて、ひらひらと手を振った。
「どちらにせよ、無理にテラスティーネを遠ざけようとした私に端を発することだ。」
この件は、これでしまいだ。と言って、兄は椅子から立ち上がった。
「領政の引継ぎも大部分終わったので、しばらくはテラスティーネの奪還に注力する。摂政役の仕事はできかねるので、フォルネスはしばらく摂政役として、アルスカインを助けてほしい。アルスカインの領主への正式就任はテラスティーネ奪還後、場合によっては婚姻後とする。今は就任の儀式を行う余裕がない。」
「かしこまりました。」
私は立ち上がって、フォルネスとともに一礼をした。