【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第17話 黒飛竜の鱗
第17話 黒飛竜の鱗1
魔人の住む地は、大陸中央に巨大な山脈がそびえている。黒飛竜が住んでいるのはその山脈とされる。
この山脈はどの魔王が治める地にも属さない。そのため、昔から多くの魔物が生息している地となっている。どこかの魔王が手を出そうとすると、他の魔王が組してそれを阻止する地となっている。
ただ、この山脈の環境は厳しく、魔人が住める環境にはない。そして、この山脈からは何の鉱物も産出されない。この山脈を治める利は何もなかった。その為、魔人の気質の強い気まぐれな魔王達の興味は惹かずに済んでいる。
今回の「黒飛竜の鱗」の捜索には、テラスティーネもカミュスヤーナについてきた。ジリンダには、魔王ミルカトープに目を付けられる恐れがあるから連れていけなかったのだ。
「それにしても寒いな」
山脈は一面岩だらけだ。植物などもない。雪は積もっていないが、標高が高いためか、風が強く、とても寒い。
カミュスヤーナは外套をきつく身体に巻き付けた。
「大丈夫か。テラスティーネ」
「はい。問題ありません」
テラスティーネが表情を変えることなく答える。
「もし、黒飛竜を見かけたら知らせよ」
「御意」
カミュスヤーナは迷いなく、まるで黒飛竜の居場所を知っているかのように歩みを進める。その後ろを腰に吊るした細剣に手をかけた状態のテラスティーネが続く。
カミュスヤーナは魔力感知を周辺にかけており、強い魔力がある方向に足を進めているだけである。この地には魔人がいない。その為、この地で強い魔力を発する物といえば、黒飛竜しかありえない。この山脈の内、最も高い山のすそのに、黒飛竜がいるであろうことが、カミュスヤーナには分かっていた。
「この辺りにいると思われるのだが」
カミュスヤーナは、より魔力を消費して周囲にかけている魔力感知の性能を上げる。その時、背後で、魔力がうねるのを感じた。
「テラスティーネ。後ろだ」
カミュスヤーナはテラスティーネに声をかけると同時に、右の掌を背後に翳した。掌の前で火花が散る。
「何者だ」
「それはこちらの台詞だ」
そう言って、カミュスヤーナとテラスティーネの目の前に現れたのは、黒髪に黒い瞳を持つ男女だった。
「ここには魔人はいないはずだが?」
「それより、ここには何用か?」
男の方が、カミュスヤーナの問いには答えず、別途問いを投げかける。男女ともに簡易鎧を身に着け、顔立ちが似ていることから、親子か兄妹か近しい血筋の者たちであることが伺われた。
「私の名はカミュスヤーナ。ここには黒飛竜を探しにきた」
「なぜ、黒飛竜を?棋獣にでもするつもりか?通常の魔人では扱えないが……」
男女がこちらに向ける視線は鋭いが、話を聞かずに攻撃を仕掛けてくることはないらしい。
「だが、そなたの魔力量なら、大丈夫そうだな。魔王?だろうか?」
「こちらの魔力量が見てわかるのか?」
「そなたたちほど保有魔力量が多ければ、さすがに分かる」
「……私は状態異常回復の薬を作る必要がある。そのためには黒飛竜の鱗が必要だ」
男はカミュスヤーナとテラスティーネを無言のまま眺めた後、徐に口を開いた。
「我らの集落に来るがいい。そこで詳しく話を聞こう」
「私は黒飛竜の居場所が分かればそれでいい。知っているなら教えてほしい」
「……知ってはいるが、教えるには交換条件がある」
「交換条件?」
カミュスヤーナはその赤い瞳を瞬かせる。ここに魔人がいることからして想定外だ。しかも彼らの集落があるという。彼らはどの魔王にも属していないのだろう。もしかしたら、自分たちが存在することに対し、口封じをしたいのかもしれない。
口封じするなら殺すのが一番早いが、先ほど彼らはこちらの魔力量が多いことを口にしている。簡単には屠れないのは理解しているだろう。よほど愚かな者でない限り、こちらに手出しはできないはずだ。
「いかがなさいますか。カミュスヤーナ様」
テラスティーネが手元の細剣の柄に置いた手に力を籠める。
「手出しするな。テラスティーネ。こちらに何かあったわけではないのだから」
カミュスヤーナが、彼女の青い瞳を見つめながら諭すと、テラスティーネは柄から手を放して、体勢を起こした。
「いいだろう。交換条件も含め、集落に赴こう」
「では、ついてこい」
男は黒い瞳を煌めかせた後、カミュスヤーナたちに背を向けて歩き出す。女が無言でこちらの様子を伺いつつ歩み寄り、歩くようにカミュスヤーナたちを促した。
第18話に続く