【短編小説】その答えはきっとどこにもない。
私、杉本ハヅキが、学校近くの公園で、友達の葉山ミノリといつものように話をしていると、急に彼女が押し黙った。このところ、元気がないとは思っていたし、その理由も私は分かっていたが、あえて触れていなかった。
私は、手に持っていた缶のサイダーを飲みながら、ミノリが口を開くのを焦らずに待っていた。
「はーちゃん。」
「ん。何?」
「もう、卒業まで時間ないよね?」
「・・そうだね。」
彼女は私の言葉を聞いて、何かを追い出すかのように、頭を左右に軽く振った。手に持っていた缶のミルクティーを見つめながら、口を開く。
「やっぱり、告白した方がいいと思う?」
「告白しなかったら、卒業したら離れ離れだね。」
「だよねぇ。でも、ダメだったら、卒業までの間、ギクシャクするよね。今の仲の良さを崩したくはないんだよなぁ。」
彼女はそう言って、大きくため息をついた。
ミノリは、クラスメートの吉住君のことが好きだ。
吉住君、私、ミノリ、そして、私と同じ小・中学出身の川島君は、学校で何となく同じグループとして行動することが多い。
その最中、ミノリは、吉住君に恋をした。
「その辺りも含めて、告白すればいいんじゃない?何もせずに、このまま別れることになったら、後悔しそう。」
「だよね。やっぱり、自分の気持ち伝えてみる。もし、ダメだったら、はーちゃん。慰めてくれる?」
「もちろん。2人で、何かスイーツでも食べようよ。駅前のカフェのメロンパフェなんてどう?」
「高いじゃん。」
「もちろん、おごるよ。勇気を出したミノリの健闘をたたえて。」
そう言ったら、ミノリは顔をふんわりと綻ばせて、微笑む。
「約束だよ。はーちゃん。」
私は、ミノリの笑顔に視線が捕られながらも、何とか微笑みを返した。
「杉本。今、いい?」
学校帰りに、吉住君に声をかけられ、私は軽く頷いた。
ミノリは、今日、学校帰りに塾に行かなくてはならないと、早々に帰っていった。以前ミノリに告白することを促した公園に、彼と一緒に来て、ベンチに座っている。
彼は、公園の入り口に設置された自販機で買った缶のサイダー2本の内、片方を私に手渡した。自分は早々に開けて、ごくごくと飲んでいる。よく炭酸を一気に飲めるなと思いつつ、私も手渡されたサイダーを一口、口に含んだ。冷たい刺激が喉を通っていく。
「断ったよ。」
「そう。」
「あのさぁ、何で断ることが分かっているのに、葉山に告白を勧めたの?」
「・・だって、告白しなかったら、ずっと吉住君のこと、ミノリは思ったままになるでしょう?」
「それは、そうだけど。葉山、かわいそうじゃないか?」
断った本人に、かわいそうとか言われたくない。私は、そう思ったが、心の中にしまって、別の言葉を選んで言った。
「大丈夫だよ。私が慰めてあげるから。」
「・・そういう問題じゃないと思うんだけど。人に告白勧めておいて、杉本は告白しないのかよ。」
「簡単に告白できたら苦労しないし。吉住君なら分かるでしょう。それに私は卒業と同時に離れ離れにはならないから。」
「俺は、卒業の時に告ろうと思ってる。」
彼がポツリと呟いた言葉に、私は目を見張った。
「・・絶対受け入れられないから、告白しないって言ってたのに。」
「今のままじゃ、離れたら忘れ去られるだけだと思って。だったら、忘れられないようにすればいいんじゃないかと思った。・・告れば、少なくとも心に残るだろ?」
「それはそうだけど。」
そう言いつつも、私は吉住君の勇気に舌を巻いた。
「杉本だって、離れないと言いつつも、分からないよ。一緒にいる時間が減れば、自然と関係も細くなっていくものだと思うけど。」
「私は諦めないから。ちゃんと努力して、ミノリの隣を守るから。」
「はっきり言ってやろうか?無理だよ。」
吉住君は、冷めた目で私のことを見つめる。
「最初は見ているだけで、側にいるだけで、他の人より仲がいいだけで、いいって思ってても、物足りなくなるんだよ。」
「・・。」
「でも、絶対に葉山はそう言う意味で、杉本のこと見てないだろ?俺に告白してきたことからして。無理だって。」
「・・そんなことない。」
「俺は、杉本のためを思って言ってんだけどな。」
「何、その言い方。」
「少なくとも、葉山よりは分かると思うよ。その気持ち。」
「・・。」
「まぁ、葉山はいいやつだから。好きになるのも分からなくはない。応援はしてる。」
「うるさい。」
私が噛みつくように言い捨てると、彼は苦笑した。
「卒業しても、こういう気持ちは抜きにして、また一緒に遊べればいいな。4人で。」
「それは、無理でしょ。」
「何で?」
「告白を断られた相手と、顔を合わせたくないと思わない?」
「俺は、好きになった相手だったら、また会いたいと思う。」
吉住君の顔に曇りは見られなかった。きっと本心からそう言ってる。私はそう思いきれるかどうか分からない。なぜ、私達が好きになったのが、身近な同性だったのか?その答えもきっとどこにもない。
口にした缶のサイダーは、ぬるい砂糖水のように感じた。
終
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