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【小説】純血統種に報復を 第11話 私の本心
第11話 私の本心
今回は、あの王族との謁見が行われた後、初めてのセラフィーナとの逢瀬だ。
理由はどうあれ、彼女の婚約者の座を勝ち取ったオクタヴィアンは、王宮図書館ではなく、さらに王宮の奥の応接室に足を運ぶことを許された。そして、その応接室で、オクタヴィアンは婚約者になったセラフィーナと顔を合わせている。
顔を合わせたセラフィーナの顔色は青白くて、前回の謁見の内容を引きずっているように思われた。
少なくとも、婚約者に会っている顔ではないだろう。
「セラ。顔色が悪いけれど、前回のことを気にしているのか?」
「……それは当たり前だろう?私はそなたのお母様を……」
「セラのせいではないから、気にしなくていい。それに私のことはタヴィと呼んでくださいと言ったはずです」
「でも!」
セラフィーナは声を上げて、オクタヴィアンを見たが、彼はその銀の瞳を見ながら、話を転換した。
「あれから、貴方はお父様やお兄様にお会いになりましたか?」
「あの日、婚約が成ったから、タヴィとは連絡を取り合って、王宮の中であれば自由に会っていいとは言ってくれた。それからは、お二人には会っていない。タヴィのお母様も、エルネスティーネも、今どうしているかは分からない」
「そうですか。まぁ、仕方ありませんね」
オクタヴィアンは、セラフィーナの言葉を聞いて、大げさに肩をすくめてみせた。
テラスティーネを模した自動人形には、エンダーンとアメリアが連絡を取って、今のところひどい扱いは受けていないことは分かっている。普通の女性と変わらずに愛されているだけだ。残念ながら、献上されたはぐれに会う場面は確認できていない。
カミュスヤーナは、テラスティーネと同じ容姿の自動人形を他人が愛されている状態に、苦々しい顔はしていたが、テラスティーネに窘められていた。エルネスティーネからも今のところ連絡はないが、助けを求めてこないところから考えても、何かしら情報収集に励んでいるのだろうと思われた。
「タヴィはどうしてそのように冷静でいられる?」
「私は前に会った時に言ったではないですか。セラ。身分の違いや性別の違いも、虐げの理由になると」
オクタヴィアンの言葉に、セラフィーナは顔を上げた。泣いてはいないが、泣きそうな顔にはなっている。
「君は、あの話をした時から、このような状況になることを想定していたのか?」
「私の父も想定していましたよ。私がこのことを話した時から」
「だったら、なぜ?」
「断ったら、貴方と婚約できないではありませんか?」
「タヴィ。君は父や兄と接触するために、私と婚約したのだろう?」
「まだ、それを口にしますか?セラ」
セラフィーナの様子が心配だったから、今日は慰めようと思っていた。それなのに、今、オクタヴィアンは彼女に対して苛ついている。なぜだろう?オクタヴィアンはセラフィーナの婚約者になったではないか。セラフィーナが婚約した目的を蒸し返すのは、なぜそのために自分の母や妹を差し出すのかと問いたいだけなのに。
「私は自分の意思で貴方と婚約したのです。貴方が望んでくれるなら、この先、結婚だってしましょう。貴方もここから連れ出されたい。連れ出してくれるなら協力してくれると言ったではありませんか?」
「それは……」
「私と結婚すれば、貴方は王族という枷から自由になれます。そして、どこへだってあなたの希望するところへ行けますよ」
「……」
「でも、私にはこの地で行いたいことがある。それが終わってからです。そのためになら、私は自分の母でも妹でも差し出しますよ」
「そうしたら……君には何も残らないではないか?タヴィ?」
「この地の理が正常になれば、それでいい」
『天仕の純血統種に報復を!』
オクタヴィアンは産まれる前から、生者の存在しえない場所で、故人でもあるマクシミリアンに言われてきた。父カミュスヤーナにも、叔父エンダーンにも、夢の中で知らず繰り返されてきた負の感情。自分たちは、その感情にどっぷりと浸かって生きてきた。マクシミリアンは、自分の伴侶を殺し、自分の息子を託すほど気を許した男の人生を脅かした、純血統種をひどく憎んでいる。
おばあさまとお爺さまの人生を狂わせた、天仕の純血統種に報復をしなければならない。そのためには、はぐれを狩ってきた純血統種と、それを主導してきた王族を失墜させなければならない。
そのために、私の婚約が必要なのであれば、それに、偽りとはいえ母上の御身や妹の身が必要なのであれば、私は……。
「タヴィ!」
いつの間にか、セラフィーナが目の前に来て、オクタヴィアンの頬に両手を当てていた。
彼は目の前のセラフィーナの銀の瞳を凝視する。オクタヴィアンと視線が合ったのを確認して、セラフィーナがその顔を緩める。
「突然、一点を見つめて動かなくなったから、心配して」
「セラフィーナ」
オクタヴィアンはセラフィーナの肩に手を置くと、彼女の身体を自分の方に引き寄せた。
「タヴィ」
「どうかご慈悲を」
オクタヴィアンは驚いて動けなくなっているセラフィーナの顔に、自分の顔を近づけて、唇を重ねる。
セラフィーナが目を見開いているのを見てとって、オクタヴィアンは一度唇を離した。
「見られていると、落ち着かない」
「……突然何を」
「何って。私たちは婚約したのだよ。これぐらいは許されるでしょう?」
そう答えたら、セラフィーナはその頬を赤らめた。なるほど、これはオクタヴィアンの欲を煽る。
「目を閉じてくれないか?セラ。続きができない」
「今はこのようなことをしている場合じゃ」
「母上も妹も、このことを覚悟していた。そして、私たちが助けに行くことを信じている。……でも、セラが王族のままだと、共倒れになるよ。できれば、私たちが事を起こす前に、私と結婚してほしい」
「……本当にそれでいいのか?タヴィ」
「これは私の本心だ」
セラフィーナがオクタヴィアンの言葉を聞いて、その瞼を伏せる。オクタヴィアンが顔を近づけると、セラフィーナはまた瞼を開いて、彼の顔をじっと見つめた。
そして、口の端を上げた。
「面白いな。そなた」
「!」
背中に悪寒を感じて、とっさにセラフィーナから身を離した。
セラフィーナはオクタヴィアンの姿を上から下まで見渡すと、彼に向かって腕を広げた。そして、首を傾げて口を開く。
「どうした?続きはしないのか?」
「何者だ?」
先ほどまでのセラフィーナとは違う口調。違う表情。まるで中身だけ誰かに入れ替わったような。
「私は、そなたの婚約者のセラフィーナだが?」
「言いくるめようとしてもそうはいかない」
今の今まで全く気付かなかった。今セラフィーナの中にいるのは何者だ?
「我が名は、ファウスティーノ」
ファウスティーノ?男の名前?
「私は、はぐれを狩って、王に捧げる理を作ったものだ」
第12話に続く
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