【短編】子どもは必要ないとお互い思っていないのであれば、さっさと結婚しろ。
同棲を始めて4年になる相手と、夕飯を食べて、2人ソファーに座って、ダラダラとレンタルしたブルーレイを見ている時。彼女がいつものように、結婚の話を持ち出してきた。ここ最近、週に一回くらいは話に出されている気がする。
「なぜそんなに焦って結婚しようとするの?」
不思議に思ってそう問いかけると、隣に座っていた彼女が、不服そうにこちらを見上げた。
「一緒に暮らしているし、結婚する必要性を感じないんだけど。」
「分かってないなぁ、あっくん。全然分かってない。」
彼女はやれやれと言わんばかりに、首を振ると、僕の前に人差し指を立てた。
「あっくんだって、子どもが欲しいと思ってないの?」
「・・それは、欲しいと思ってるけど。」
「確かに一緒にいるだけなら、別に結婚しなくてもいいと思うよ。でもね。子どもを作るのには、適齢期ってものがあるんだよ。」
適齢期?子どもなんて、それなりの行為をしていればできるものじゃないのか?
彼女は僕が言いたいことをくみ取ったように言う。
「適齢期なんてあるのかと言いたいふうだね。あるんだよ。男性はまだいいけど、女性は短いんだから。」
女性の妊娠、出産適齢期は25歳頃から32歳頃。遅くとも35歳くらいまでにはした方がいいという。それ以降は妊娠しにくくなり、出産時のリスクも高くなる。一方男性は45歳くらいまでが適当らしい。
そう考えると、その前には結婚しておいた方がいいだろうから、女性は30歳に近づくほど結婚を焦るのだろう。それだけが理由ではないのだろうが。実際、30歳で結婚するのも、子どもを作ることを考えると遅いくらいだ。男の中でそれを知っている人はどれだけいるんだろうか?まだまだ自由でいたいから、仕事に力を注ぎたいからと考えて、結婚を遅らせることは、相手に負担を強いることになるかもしれないということになる。
「そもそも、人間って、恋愛が絡んでくるからめんどくさいよね。」
彼女が隣で大きく息を吐く。
・・話が大きく飛んだ気がするが、僕は彼女の言葉に耳を傾ける。
「だって、昆虫とか動物って、例えばオスの力が強いとか、メスの体が大きいとかで判断して、交尾をするわけでしょ?そこに好き嫌いとかは関係ないわけじゃない。」
「それは、子孫を残そうとする本能であって。」
「そうだよ。本能のままに行動してるんだよ。そこに恋愛なんて絡んでこない。でも、人間はまず相手を好きになってから、次の段階に進むでしょ?相手を好きにならないと、その人と結婚しようとは思わないし、子どもがほしいともならなくない?」
「それは・・どうなんだろう?」
僕がぽつりと呟くと、彼女はキッとこちらに強い視線を向けた。
「なに?あっくんは、好きでもない人と、結婚しようと思ったり、子どもが欲しいってなるの?」
「いや、そんなことはないけど。」
「だったら何?」
「相手を好きでなくても、結婚したりすることはあるんじゃないか?」
「ないとは言わない。子どもが欲しいから、とにかく結婚した人もいるかもしれない。お見合いだってあるし、政略結婚・・は日本ではあまりないか。でも、大体の人は好きになった人と結婚するでしょう?」
「まぁ、確かに。」
「社会人になって、好きな人と付き合うようになったら、子どもは必要ないとお互い思っていないのであれば、さっさと結婚しろってこと。」
妊娠・出産適齢期はもう決まっているんだから。と彼女は僕の顔を見て言った。理詰めで説得されると、もう何も言えない。僕だって、彼女を辛い目に合わせたいとは思っていない。
「君の言いたいことは理解した。美朋。」
「本当に?」
「だから、今度の美朋の誕生日はちゃんと休みを取って。」
「有給申請済みだし。」
3週間後の誕生日で、美朋は28歳になる。今回の話を聞いてしまうと、僕がすることは一つだ。同棲時にお互いの両親とは顔合わせもしているから、話もスムーズに進むだろう。あと3週間か・・あまり時間はないな。
「当日は覚悟しておいて。」
「・・同棲した時から待ってたもの。」
彼女はそう言って、僕の顔を見つめて微笑んだ。
終
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