【小説】純血統種に報復を 第1話 プロローグ
第1話 プロローグ
ここは、天仕の住む地、王宮図書館の中。
図書館の天仕に関する書物が集まる一角での会話。
「まったく、父上も、お爺さまも人使いが荒いんだよなぁ」
「お兄様。ぶつぶつ言っていないで、手を動かしてくださいませ」
「ちゃんと読んでるよ。目当ての書物は見つからないけど」
「内容覚えてます?『はぐれ』に関する情報ですよ」
「分かっているよ。情報収集なんてしなくとも、全て壊してしまえばいいのに」
「それは……同意したい気持ちはありますけど」
「だろう?お爺さまやおばあさまの敵なんて、いろいろ策を弄さなくても、一気に壊せば済む話じゃないか」
「でも、おばあさまはそれを望んでいませんから」
「まぁ、後始末も面倒だしね」
「お兄様もこの地が欲しいわけではないでしょう?」
「そんな面倒な。誰かに任せたいよ」
「だったら、それなりに裏工作が必要ではありませんこと?」
「誰もたたなかったら、お爺さまが治めればいい」
「それを望みますかね?」
「でも、父上や母上は無理だろう。既に父上は魔王だし」
「この地で暮らしたこともないですしね。かくいう私もまだよくわかってないですし」
「私もだよ。まったく愛着は持てないんだよな。なぜだろう?」
「血統で人を区別するというのがなんとも」
「そうそう。まだ、魔力量の多さが力の強さを表す魔人の方が、分かりやすい」
「お兄様。あまり口を開けて笑ってはだめですよ。牙が見えます」
「ええ?そんなに目立たないだろう?」
「油断は禁物です」
「平気だよ。どうせ、私たちが『はぐれ』だってことも分からないよ。実際、純血統種と『はぐれ』の区別って、外見では分からないじゃないか」
「まぁ、私もこんなにすんなりと、ここに入れるとは思っていませんでしたけど」
「きっと、他者から襲われる意識が低いんだろうな。そんなんじゃ、すぐ足元をすくわれるぞと。あぁ、あった」
「どれどれ、『はぐれ』が王に献上されるようになったのは、そんなに前からのことではないのですね」
「お爺さまが言っていた通り、人型の人種で、別に行き来を制限しているわけではないから、『はぐれ』が生まれるのも当たり前と言えば、当たり前なんだな。しかも、前は人間が住む地に、天仕も普通に住んでいたんだ」
「天仕の与うる力を狙われたみたいですね。自分の意思でないと、力は行使できないはずなのに」
「術や薬を使わなくても、巧みに言葉で誘導して、力を使わせたのか。人間も怖いな」
「最終的に、天仕が自分の命を使って、死んだ人間を蘇生させる案件が増加」
「天仕の数が激減して、この地に移り住んだのですね」
「だから人間を恨んでいるのか。それで、人間の血を引く『はぐれ』が虐げられるようになったと」
「でも、これを見ると、天仕の純血統種より、『はぐれ』の方が実は魔力量が多いらしいですけど」
「なんだ。王は結局、『はぐれ』から魔力を引き出して自分のものにしていたんだ。だから、今も力があることになっている。……すると、王ってひょっとして魔人?」
「さすがに、天仕の羽が顕現できないから、魔人ということはないのでは?それに、『はぐれ』は屠られて王に献上されるんですよね?死んだ者から魔力を引き出すことなんてできるのですか?」
「魔人の奪う者の力を使っては無理だね」
「ひとまず、『はぐれ』はその魔力量を上手に使ったら、純血統種に勝てるのではないでしょうか。それか、王族は血統でもっているから、王族にも別の血を入れてしまえばいいのですよ」
「どういうこと?」
「一つは、王族と婚姻する者にはぐれをあてがうことですね。王は無理ですから、その継承予定者を狙うことになります。すると、その子どもが純血統種ではなくなるから、王を継承できるものが将来的にいなくなります」
「なるほど」
「もう一つは、天仕の力を行使して、はぐれの血を無理やり与えるかですね」
「やはり、どうやって、純血統種とはぐれを区別しているのかを調べたほうがよくないか?せっかく、王族に別の血を入れても、それを確認する術がなければ、他の者を納得させられないだろう?」
「それはそうですね。ひとまず、この書物は欲しいですね。貸出ってできるのでしょうか?」
「できるだろう。図書館なんだから」
「やはり、王宮図書館に来て正解でしたね。神殿教室の図書館は、ここまでの書物はありませんでしたし。基本、神殿教室が純血統種向けにしか解放されていないから、はぐれに関する記述があるものは少なくて」
「そもそも、利用者が全然いなかったけどな。ここもいないけど。皆もったいないことしてるよ。もっと活用すればいいのに」
「私もそう思うよ。図書館はもっと活用すべきだ」
後ろからかけられた言葉に、彼らはその声の主を振り返った。
第2話に続く