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【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第7話 番とは
第7話 番とは
背中に、黒い翼が翻る。
鳥の羽というよりは、黒い膜が張られた翼だ。
大きな耳が後ろに向かって伏せられる。
魔人の住む地アンガーミュラーに属する魔人の特徴だ。
「ディートヘルム様。お早いお帰りですね」
宰相のカルメリタが、その水色の瞳を細めて言った。彼の大きな耳がパタパタと小刻みに揺れる。耳が揺れるのは、彼が魔王と相見えて嬉しい証拠。
「テラスティーネを取り込もうとしたら、カミュスヤーナと鉢合わせしてしまったから、仕方ない」
「お会いした感想はいかがでしたか?」
「どちらもとても興味深い」
「さようでございますか。久しぶりに遊び相手ができて、よろしゅうございましたね」
ニッコリと微笑むカルメリタを、魔王ディートヘルムは睨みつけた。
「そのような子ども扱いをするでないと言ったであろう?」
「子ども扱いしているつもりはありませんよ」
カルメリタはニコニコと笑っている。ディートヘルムは、背中の翼を身体の中に収めるように消すと、玉座に身を預けた。
「それで、今後はどうなされるおつもりですか?」
「向こうの出方次第だな。テラスティーネは私の術がかかっているし、多分カミュスヤーナはそれを解こうとするだろう」
従者が、ディートヘルムの隣の卓に飲み物を用意する。彼はそれを美味しそうに飲みほした。
「力づくでは無理ですね。……はディートヘルム様の得意とする術ですから」
「どう動くかとても楽しみだ。このところ、退屈で仕方なかったからな。本気で魔王の座を捨てて、どこかに向かおうかと思っていた」
「それはそれは。アンガーミュラーの民は、カミュスヤーナ様とテラスティーネ様にお礼を言わないといけなくなりますね」
「私がいなくとも、次の魔王が立つであろう?」
ディートヘルムの言葉に、カルメリタは首を傾げた。
「どうでしょうか?討伐ではなく、いなくなったことによる継承ですと、そのままエステファニア様が継ぐことになられるのでは?」
カルメリタの言葉に、ディートヘルムは動きを止める。
「それは……無理だな」
「無理でしょうね。彼の方には」
「やはり、子を儲けておくべきかな。そうすれば、私がいなくなっても、子に任せればよくなるし」
「いなくなることを前提に考えられるのは困るのですが……。その前に番を見つける必要があるのではないですか?」
番は、将来を共にする関係を指す。魔人は、人間のように、血族継承ではないので、結婚する必要性がなく、結婚をしている者もそれほどいない。だが、代わりに番と言う形で関係を持ち、子を儲けることがある。
魔王の座は、基本討伐により継承されるが、魔人は気まぐれで、一所に落ち着かないものも多い。だから、突然出奔していなくなることもある。その場合は、元魔王と一番近い血族の者が継承する。
先ほど名が出たエステファニアは、ディートヘルムの伯母にあたる。彼女は、いわゆる箱入り娘で、普段は離宮でのんびりと過ごしており、魔王の住んでいる館に来ることはまずない。おっとりとした女性で、世間知らずだ。
まず、魔王に就くことはできないだろう。
他の魔人を味方につけることもできないに違いない。
ディートヘルムは、彼なりに、唯一の血縁であるエステファニアのことを気にかけている。だからこそ、魔王に向いていない彼女を魔王の座に就けるつもりはさらさらない。
「久しぶりに、伯母上に会ってくる」
「かしこまりました。先触れを出しておきますね」
「いらぬ。会って様子を見てくるだけだ。すぐ戻る」
ディートヘルムはその場に立ち上がり、外衣を翻すと、その場から姿を消した。
カルメリタは、主がいなくなった玉座を見つめると、軽く息を吐いた。
第8話に続く
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