【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第1話 魔王の興味
第1話 魔王の興味
魔人の住む地ユグレイティの地の魔王カミュスヤーナ。プラチナブロンドの髪に、赤い瞳。見た目は20代前半くらい。顔立ちの整った青年は、目の前の青年を見つめた後、米神に軽く指を添えた。彼の目の前には、珍しい客人が席についている。
その髪は銀、その瞳は碧色。銀の髪の一部が、鳥の羽のような形をしている。
齢はカミュスヤーナとそうは変わらないように見えるが、彼よりはるかに年上なのは確か。
客人の名前はゲーアハルト。ここユグレイティの地の南西に位置するシルクトブルグを治める魔王である。
以前、ユグレイティの地に干渉しないよう伝えてからは、音沙汰がなかったが、急遽耳に入れておきたいことがあると言われ、この地に赴いてきたのだ。
「で、ご用件は何でしょうか?」
従者がお茶を用意し下がるのを見送ると、カミュスヤーナはお茶を勧めながら、彼に向かって問いかける。ゲーアハルトは、紅茶を美味しそうに味わった後に、口を開いた。
「実は……そなたの伴侶のテラスティーネのことなのだが」
ゲーアハルトの言葉に、カミュスヤーナは眉を顰める。
「テラスティーネは、渡さないとお伝えしましたが」
「それは存じている。テラスティーネの話を、魔王ディートヘルムにしたのだ」
「魔王ディートヘルムというと」
「シルクトブルグの北に位置するアンガーミュラーを治めている」
ユグレイティからみると、西に位置する地だ。ただ、ユグレイティと接してはいなかった。ユグレイティは元々あまり他の地との交流がない。ようやく南の隣地ジリンダと交易がなったばかり。もちろん、アンガーミュラーとは関係を持ったことはない。
「それで?」
「ディートヘルムが、テラスティーネに興味を持った」
「……また……面倒なことを」
魔人は、結婚をするものが実は少ない。結婚をしなくても、子は生せるし、好きな者同士一緒にいることも可能だ。だから、結婚はしないで、番という形態をとる魔人の方がはるかに多い。そのため、結婚していることは、他者との異性交際に対する牽制にはならない。以前のミルクレインテのように、魔王の正室に収まりたいという望みは砕けるが。
「正確には、テラスティーネだけではなく、そなたにも興味を持ったのだ」
「私にも?」
「だが、そなたは魔王だし、私が受けた一件も、彼は知っているから、先にテラスティーネに手を出すことにしたらしい」
「どういった形で?」
「それは知らぬ」
ゲーアハルトの言葉に、カミュスヤーナは大きく息を吐く。テラスティーネは、今、人間の住む地に戻って、エステンダッシュ領の院の非常勤講師をしている。カミュスヤーナも間もなく、あちらに戻る予定だった。
これが人間の住む地に帰る最後の機会になるだろうと、考えている。魔人は人間と比べると、寿命が長く、そして、身体の成長が30代前後で止まる。魔人の住む地にいればいるほど、その成長が緩やかになっていて、カミュスヤーナもテラスティーネも、あまり見かけが成長しない、歳を取らないままと見えるようになってしまった。
現時点でも、カミュスヤーナは、4歳年下の義弟、エステンダッシュ領の領主アルスカインと、見た目で大きな差がつかなくなってしまっている。これ以上、人間の住む地に滞在するようになると、その内、アルスカインの方が年上に見えるようになってしまうだろう。そう考えると、そろそろ、人間の住む地にはいられない。だが、伴侶のテラスティーネにとっては、産まれも育ちも人間の住む地となるのだから、できる限りいられるようにしてやりたいというのが、カミュスヤーナの願いだ。
話はそれたが、その厄介なディートヘルムのことに考えを移すと、カミュスヤーナ達のように、前魔王エンダーンも魔王だった時は、人間の住む地に自由に行き来していた。魔王であれば、ディートヘルムだって、行き来可能だろう。
テラスティーネには、お守りを持たせているから、物理的な攻撃には対応が可能となっているが、状態異常の術や暗示等には容易にかかってしまう。魔力の色が違い、かつ相手より魔力量が多ければ、術をかけることは可能だからだ。まさか、魔王が興味を持って、人間の住む地まで行き、術を行使するとは考えていなかったから、お守りにもそのような機能を付与していなかった。
早めに戻って、彼女の側にいた方がよさそうだ。カミュスヤーナならば、彼女が術にかかったとしても解除することが可能だ。問題は、ディートヘルムのほうが、カミュスヤーナよりも魔力量が多かった場合、そして、テラスティーネにかける術に関し、彼が他者よりも秀でている場合、術が解除できない可能性はある。
第2話に続く