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【短編小説】人魚姫症候群

2023年2月6日に投稿した「【短編小説】人魚姫症候群」の加筆・修正版です。

0 人魚姫症候群

その現象がいつから発生したのかは、よく分かっていない。ただ結果として起こる事象ははっきりしている。

人が消える。
それこそ、体の端から、泡のように空にはじけて消えていく。

その様子から、『人魚姫症候群シンドローム』と、まことしやかにささやかれるようになった。

なぜ、その現象が起こるのか。それは早々に判明する。それは特定の事柄を行わないと発生しない。そして、必ず相手が存在する。つまり、必ず『人魚姫症候群』のきっかけとなる事柄を見ている人が、存在するということ。

中には、それを自らの危険をかえりみず、実行した者もいて、そのきっかけとなる事象は、主にネット経由で瞬く間に広がった。人々は、『人魚姫症候群』を認めたが、特定の事柄を行わなければ発症しないと分かっているので、その危険性は重要視されなかった。

それなのに、『人魚姫症候群』で、消える人は一定数存在する。すべて失踪しっそうとして処理されるらしいと聞いた。まぁ、こんなこと、簡単には認められないのかもしれないが。注意喚起かんきしたとしても、完全になくなることはないだろう。

皆、自分の気持ちを内に秘めたままにはしておけないのか。それとも、自殺目的で、利用する人がいるのか。ただ、本人の気持ちが伴わないと、消えることはできないらしいので、命を絶つのであれば別の手段を取る方が、確実ではあるのだが。

そのきっかけとなる事柄は・・。

1 ギュッと抱きしめられて、彼はその強さに何も言えなくなる

「別れよう。」

凌平りょうへいは、はっきりとした口調で告げた。
その言葉を聞いた紗耶香さやかは、彼の目の前で綺麗な瞳を揺らめかせる。

「何で?突然。私、何かしちゃった?」

凌平にすがって、そう言う紗耶香の様子を見て、凌平は苦しそうに顔をゆがめる。

「紗耶香は何も悪くない。」
「じゃあ、何で?」

紗耶香が理由を問うのも当たり前だ。数日前まで、彼らの関係には何一つ問題はなかった。

「・・・他に好きな人ができたんだ。」
「・・嘘。」

泣くかと思っていた紗耶香は、凌平の言葉を聞いて、いぶかしげに、彼の顔をジロジロと眺め出した。

「嘘なんかついてない。」
「何年付き合ってきたと思ってるの?5年だよ、5年。」
「だから、本当だって。」
「凌平は、嘘をつく時、目のはしが動くんだよ。」

そう言われて、凌平は思わず自分の目尻に手を当てる。それを見た紗耶香は、得意げに口の端をあげる。その表情を見て、凌平は彼女にかつがれたことに気づく。

「私と別れたい本当の理由を教えて。」
「・・それは言えない。」
「何があったの?」
「・・・。」

口をつぐんだ凌平を見て、紗耶香は困ったような心配そうな表情を浮かべる。でも、しばらくすると、覚悟を決めたように口を開いた。

「なら、私も最後の手段に出る。」
「え?」
「私は、凌平のことが。」
「だめだ!」

紗耶香が何をしようとしているのか気づき、凌平は大声を出して、彼女が全て言おうとするのをせいした。

「本当の理由を言ってくれないなら、告白する。これは私の本心だし。」
「紗耶香も知ってるだろう?人魚姫症候群。」
「動画も見たからね。思ったより綺麗だったよ。」
「何言ってんだ。消えるんだよ。」

凌平は目の前で紗耶香が消えるのを見たくはない。紗耶香に幸せになってほしいから、本当の理由を言わずに別れようとしているのに。

「消えてもいい。凌平のことだから、私のことを考えて別れようとか思ってるでしょ?私のことを本当に思ってくれるなら、ちゃんと理由を言って。何とかなるかもしれないでしょう?」
「・・・父親の体調が良くなくて。」

紗耶香が凌平の言葉を聞いて、目を見開いた。「それで?」と先をうながす。

「一旦検査を兼ねて入院することになったんだけど、もう両親も高齢だし、子は僕しかいないから、実家に戻ることにしたんだ。」
「だから、私と別れようとしたの?」
「あちらに、紗耶香は家族も友達もいないし、僕たちは結婚しているわけでもない。・・紗耶香に一緒に行こうとは言えなかった。」

紗耶香は彼の話を聞いて、大きく息を吐いた。

「最初からそう言ってくれればよかったのに。」
「・・・紗耶香に心配はかけたくなかったし、負担をかけるのは嫌だった。」
「だから、いっそのこと別れようって?それはそれで無責任じゃない?」
「それはどういう意味?」
「そんなことで、私は凌平と別れようと考えるほど、凌平のこと軽く考えてはいないってこと。」

紗耶香は凌平の体にその身を寄せた。ギュッと抱きしめられて、彼はその強さに何も言えなくなる。

「私は凌平のことが好き。だから、一緒に連れて行ってほしい。」

紗耶香の事を見下ろすと、彼女は凌平と視線を合わせる。彼女の体は、いつまでたっても消えない。それは『この恋が叶わない恋ではないから』だ。

「僕も紗耶香とずっと一緒にいたい。」

凌平は腕の中の彼女の体を抱きしめ返した。

2 いつまでも彼女の心の中にいたいと願ってしまう

暮れ行く空を眺めていた。目の前で家々の明かりが灯り、徐々に暗闇の中に明かりの海が広がってくる頃、隣に立っていた女性がこちらを向いて、ぽつりと呟いた。

「そろそろ行かないと。」
「そうだね。今度はいつ会えるかな。」

男性がそう返すと、彼女は街灯に照らされた顔を曇らせる。

「もう、会えないよ。分かっているくせに。」
「分かってるけど、ずっとそうやって別れてきたから。」

彼女が実家に帰ると言って、彼と会うようになってから1年。実際、実家には帰っていて、嘘をついているわけではないけれど、その合間に、実家近くの彼の家に寄っていくようになった。

学生時代には恋人同士だった2人が、もう一度会ってしまったのが、よくなかった。そもそも住む場所が遠く離れてしまったことによる自然消滅で、嫌い合って別れたわけではなかった。

結婚し子育てが落ち着いて、高齢の母親の様子を見に1ヵ月に一度、実家に一人で帰ってきていた彼女と、同じ時期に実家に戻っていた彼が、再会し、また惹かれ合うのに時間はかからなかった。

だが、彼女の配偶者の転勤が決まり、家族そろって遠くに引っ越すことになった。もう、簡単に実家には帰ってこられないと言う。それを機に、いびつだった2人の関係を清算することにした。

言ってしまえば、2人は今の関係を続けることに耐えられなくなったのだ。主に彼女の方が。それを責めるつもりは全くない。

たった1年であっても、彼にとってはかけがえのない1年だった。だから、彼は今日のことを実行する気になったのだから。

小雪こゆき。」
大嗣たいし。本当にごめんなさい。」
「いいんだ。最初から分かっていたことだから。」
「でも、私のせいで。」
「話し合って決めた事だろう。」
「ごめんなさい。」

いつまでも謝りを口にする小雪に、大嗣は顔を近づける。これが最後だと思うと離れがたかった。そして、大嗣はいつまでも彼女の心の中にいたいと願ってしまう。

「小雪。俺はお前のことが好きだ。これからも。いつまでも。」
「・・大嗣?」

長いキスの後に、視線を合わせて、そう言い切った大嗣の顔を見つめた小雪は、ハッとしたように体を強張らせた。

「大嗣。何で?」
「俺は、小雪がいないと、もう生きていられない。」

小雪が大嗣の体のあちこちに視線を走らせる。大嗣も彼女の視線を追うと、自分の体の端が泡立って、欠け始めているのが分かった。

「だめ、消えちゃだめ。」

慌てたように自分の欠けた部分に手をわせる小雪の手を取って、大嗣は指と指を絡めた。

「別れても、俺のことを忘れないでほしい。」
「私も、私も大嗣のことが。」
「その先は言わないで。小雪には家族がいる。皆が悲しむ。」
「でも、でも。」
「俺は、この1年で十分だ。だから、小雪は家族の元に戻って、幸せになって。」

もっと、話していたかったのに、もっと、彼女の顔を見ていたかったのに、思った以上に消えるのは早かった。

見届ける相手が、告白する相手がいなければ、『人魚姫症候群』が発動しないと思いたい。そうであれば、小雪が大嗣を追って消えることはないだろうから。

最後に見た彼女の顔が、笑顔ではなく泣き顔だったのが、心残りだ。

3 彼女はその情景を綺麗だと思って、心に焼き付けてくれるだろう

「好きです。僕と付き合ってください。」
「いいよ。」

福山が顔をあげると、相手はこちらを見て、ニッコリと笑った。

「思ってもないことを言われた。そんな顔してる。」
「いや、だって。」

まごついていると、風間は福山の肩に手を当てた。

「もしかして、消えたかった?」
「・・・。」

風間の言葉が的を得ていて、彼が答えられないでいると、「まぁ。取り敢えず座ろうよ。」と言って、彼女は教室にあった椅子の一つに座る。福山もその様子を見て、近くにあった椅子を引いて、彼女の側に座った。

黒目がちな目をこちらに向けた風間の顔立ちは、可愛いと言うより綺麗と言った方がいい。学校では、男子生徒に人気があるが、何となく近寄りがたい雰囲気があって、皆、遠巻きに眺めているところがあった。それだけ綺麗だと、女子の反感をかいそうだが、風間は女子とは普通に楽しそうに付き合っている。男子と女子とで、彼女は見せる顔を変えているのかもしれない。

だから、好きでも、きっとこの気持ちは受け入れられないだろうと思った。それでもよかった。福山は今の人生に何も期待をしていないから。

告白して、その結果『人魚姫症候群』が発生して、福山自身が風間の前で、泡となって消えてしまっても構わない。少なくとも、彼女はその情景を綺麗だと思って、心に焼き付けてくれるだろう。もしかしたら、少しは罪悪感を抱いてくれるかもしれない。そんな馬鹿な奴がいたと、生涯忘れずにいてくれるかもしれない。

そう思って、告白したのだけど。

「ねぇ、福山くんは、私のどんなところが好きだと思ったの?」
「えっと。」

好きな子から、どこが好きだと聞かれるのは、気恥ずかしい。何と答えればいいのだろう。でも、何が正解なのかは分からない。

「風間さんは、困っている人を見ると、放っておけないところがあるでしょう?よく、手助けしているなと思ったら、目につくようになって。」

そう言ったら、風間は思ってもないことを言われたというように、口を開け、その後、顔を真っ赤にさせた。先ほど、告白を受け入れられた時の自分も、今のような顔をしていたのかもしれないなと、福山は考える。

「なにか、変なこと言った?僕。」
「いや、てっきり外見のことを言われると思ってたから。」
「確かに、風間さんは綺麗だけど、黙っているとちょっと近寄りがたいかな。それよりも笑っていた方がずっといいと思う。いや、待てよ。笑っていると他の奴が風間さんの良さにより気づくから、やっぱりだめ。」

福山が慌てて言い募ると、風間は一瞬キョトンとした顔をして、笑い出した。彼は、彼女の笑顔に見とれてしまう。

「福山くん。私は福山くんと付き合うことにしたのに、今更、他の男子が私の良さに気づいても遅いでしょ?」
「あ、それは確かに。」
「それに、福山くんがそう言うなら、他の男子の前ではあまり笑顔を見せないようにするよ。」

そう言って笑う風間の様子を見て、福山は躊躇ためらいがちに言葉を発する。

「・・・なんで、風間さんは僕と付き合ってくれる気になったの?」

福山の言葉に、風間は口を噤んで考え込んだ。

「もしかして、僕が目の前で消えるのが嫌だから、告白を受けたわけではないよね?」
「違うよ。正直に言うと、私、人を好きになるっていうことがよく分からないの。」

風間は、机の上で頬杖をついた。

「あの『人魚姫症候群』の動画は、家で繰り返し見たの。とっても綺麗だった。でも不思議でたまらなくて。何で、泡になって消えるほど、人を好きになることができるんだろうって。」

『人魚姫症候群』の発生のきっかけ。それは、叶わない恋だと分かっているのに、相手に自分の思いを告白すること。しかも、ちゃんと想いが伴っていないといけない。冗談や嘘で告白しても、『人魚姫症候群』は発生しない。

「福山くんは、自分が消えるかもしれないと思って、私に告白したでしょう?だったら、福山くんは、人を好きになるってことが分かってるってことだよね?」
「そういうことになるかな?」
「だったら、私にそれを教えてほしいの。」
「・・・僕だって、好きな人に告白するのも、付き合うのも、初めてなんだけど。」

風間は福山の手を取って、胸の前で強く握りしめた。

「それでも、私よりは恋について知ってるでしょう?」
「・・そうなのかな。」

少なくとも、この告白が受け入れられなかったら、消えると思ったのは確かだ。

「だから、私に恋を教えて。私、絶対に福山くんと同じ気持ちを返せるようになるから。」
「・・僕にできる範囲なら。」

何となく、自分が思っていたのと違っていたけど、まぁ、好きな人と付き合えることになったから、いいか。

彼はそう思って、目の前にいる彼女に微笑みかけた。

4 消えることのない体を抱き締めながら

今、『人魚姫症候群』について、知っている人はどのくらいいるのだろう。

そして、これが彼女の望む世界だったんだろうか。

今でも結華ゆいかには、詩菜しいなのことが分からない。

◇◇◇

間もなく、詩菜が転勤で、離れ離れになることが分かっていたある日。結華は、彼女の希望で、冬空の寒い海を見に来ていた。

大学の同級生だった詩菜は、結華のルームメイトだ。
大学を卒業し、同じ都市の別会社に就職した2人は、社会人を始めるにあたって、支出を抑える為、ルームシェアをすることを決めた。ルームシェア自体も初めてだったが、価値観があっていたのか、最初に決めたルールがよかったのか、特にトラブルもなく、それは3年続いた。

3年というのは、大きな転機になることが多い。
恋愛関係や結婚も、3年目が節目だと聞く。逆にそれを乗り越えれば、その関係は長く続くとも言える。

詩菜は、ここから飛行機で行かないとならない、暖かい都市への転勤が決まった。彼女の仕事からすると、予定はされていたことだった。ルームシェアを始めた時は、いつかはルームシェアを辞め、それぞれの生活を歩むだろうと思っていた。3年も続いたのは、思っていた以上に長い。

結華は、詩菜との生活に慣れきっていて、別れるのは寂しかったが、彼女についていくには、仕事を捨てなくてはならない。中堅ちゅうけんどころの立場に立ち、面白いとさえ思うようになっていた仕事を、ルームメイトの引っ越しで、あっさり捨てる気にはならなかった。

「どうかした?」
「・・なんで、ここに来ようと思ったの?」

感傷に浸っていたのを断ち切られて、結華は詩菜の問いに、別の問いで応える。詩菜は「ちょっと試したいことがあって。」とはぐらかして、笑う。
ふんわりとしたその笑みに、結華は思わず見とれてしまう。

詩菜はとてもかわいい。自分とは全く違う。
ルームシェアを始めたものの、早々に、「彼氏ができたから一人暮らしする」と言われるだろうと、結華は思っていた。詩菜は異性にモテるから。

ルールに『お互いの恋愛には口を挟まない。彼氏ができたら、ルームシェアをやめる』と決めてあったのに、結局、それが現実になることはなかった。
今でも、結華はそれを不思議に思っている。彼女の口から恋バナを聞いたことも、そういえばなかった。

「じゃあ、そろそろ始めようか。」

詩菜は辺りを見回すと、スマホを出して、自分を撮影するようにうながす。

今日、ここに来たら、結華へのお別れ前のメッセージ動画を撮影したいと、転勤が決まった時から聞かされていた。結華は、「今生こんじょうの別れじゃないんだから」と最初断ったが、詩菜の押しに負けて、しぶしぶ撮影にOKを出した。

結華は、詩菜に向けて、スマホのレンズを向ける。

ちょうど、夕日が海に沈んでいこうとしている。その中、詩菜の姿が浮かび上がっているように見える。いい景色だと思うのに、人は驚くほどにいない。海の近くに住んでいる人にとっては、見慣れた光景だから、足は止めないんだろう。

「結華。今までありがとう。」

彼女は撮影している結華に向かって、感謝の気持ちを言葉にする。聞いている結華の方が恥ずかしくなってくる。それくらい、心のこもった言葉。

「私、結華のことが好き。」

画面越しに告白される。思わず息を呑んだ。撮影を止めて、詩菜に何か声をかけたほうがいいのだろうか。そう迷いながらも、スマホの画面を見つめていると、詩菜の体のふちがふとゆがんだように見えた。

結華は自分の目をこする。だが、スマホに映る詩菜の体は、確実に縁から泡立って欠け始めていた。詩菜は気づいていないのか、真っすぐに結華を見つめている。

「詩菜。なんかおかしい。」

結華はそう言って、詩菜の元に駆け寄ろうとすると、「来ないで!」と彼女が叫んだ。

「詩菜!」

「そのまま、続けて。」

「でも・・。」

詩菜は結華の言葉を無視して、スマホ越しに語り続ける。

「結華にとって私は仲のいい友達。でも、私にとっての結華は違う。」

「・・・。」

「本当は、ずっと一緒にいたかったの。」

「・・・詩菜、それ以上は。」

詩菜が告白する間も、彼女の体は少しずつ泡になって消えていく。

「好きだよ。結華。忘れないでね。」

彼女はそう言って笑って、一片の泡になって消えた。

◇◇◇

一人で家に帰った結華を待っていたのは、詩菜が残した手紙だった。
それに書かれていた彼女の望みは、先ほど撮影した動画を編集し、SNSで拡散すること。

詩菜は自分が消えることを知っていたのだろうか。

実際、動画を見返した結華は、その美しさ、はかなさに涙した。

わざわざ捨てアカを作り、編集した動画を投稿した後は、SNSを見なかった。いや、見れなかった。どんなに綺麗でも、詩菜が消えていく情景を何度も見たいとは思えなかった。

意識的にネットを極力見ないようにしている結華でさえも、タイトルにした『人魚姫症候群』の言葉は耳にするのだから、詩菜の望みは叶ったわけだ。

詩菜が消えたというのに、結華の元には、彼女の家族も、職場の人間も訪ねてこなかった。詩菜が消える前に何かしらしていったのかもしれない。元々、転勤自体、いや、彼女が話していたことは、全て偽りだったのかもしれない。

結華への告白、たぶん、それ以外は。

結華はあれ程近くにいたのに、詩菜のことを何一つわかっていなかった。
そして、あんな終わり方をしたら、忘れられるはずがない。

結華は、毎日のように詩菜のことを考える。これがよく分かってなかった恋愛なのかもしれない。結華は、実は詩菜のことが好きだったのかもしれない。時が経つ毎にそう考えるようになっていた。

結華は、毎日、寝る前に天井に向かって、呟く。

「好きだよ。詩菜。」

消えることのない体を抱き締めながら。

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説那(せつな)
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