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【短編小説】クリスマスの出来事 最終幕
【登場人物紹介】
大槻夕 文芸部員。高校二年生
神谷直樹 夕の同級生。夕と同じクラス。正規文芸部員ではない
戸室美咲 文芸部員。高校一年生
遠岡志保 文芸部員。高校三年生
鳴本葉子 文芸部部長。高校三年生
霜原雅也 文芸部副部長。高校三年生
崎野隼人 文芸部員。高校一年生
秋吉透美 夕の親友。夕とは同じクラス
橋元優一 透美の彼氏。他クラス所属
クリスマスの出来事 最終幕
夕と直樹は、夜の公園のベンチに座り、自販機で買った缶コーヒーを飲んでいた。星空が見える。雪は降らないが、星は降りそうだ。と夕が考えていると、直樹が口を開けて、息を吐いた。息は公園の外灯に照らされて、夕の目にも白く見えた。
「クリスマスも終わっちゃったね。」
「・・クリスマスパーティーを壊したのは、僕だけど。」
「いつ、引っ越すの?」
「年明け直ぐ。あと一週間くらいはこっちにいる。」
「部員のみんなには話さないの?」
「結局、冬休み中、活動ないし。言うタイミングもないから。」
2人は、黙って缶コーヒーをすすった。コーヒーの熱さが喉を滑り落ち、体をぽかぽかと温めてくれる。
「霜原先輩に謝りに行った。」
「どうだった?」
「開口一番、小説はどうだった?って聞かれた。」
「やっぱり、分かってたんだ。霜原先輩。」
「代わりに、孝志のこと謝られた。謝ってすむ話じゃないけどって前置きしてたけど。」
「何て答えたの?」
「もう、孝志も気にしてないと思うから、鳴本先輩と仲良くしてください。って言っといた。」
直樹の言葉に、夕がぷっと吹き出した。
クスクスと笑う夕の顔を見て、直樹の表情が安心したかのように緩んだ。
「そうだ。これ餞別として神谷君にあげる。」
夕は、バッグの中からラッピングされた紙袋を取り出して、直樹に差し出した。
「これ・・。」
「クリスマスパーティーのプレゼント交換の分。パーティー壊したんだから、代わりに貰って責任取って。」
直樹は、紙袋を受け取ると、開けてもいいか夕に確認を取って、その場で開封し始めた。
「原稿用紙に、レターセット、それにボールペン?いや、シャープペンか?」
「そう、文芸部らしいでしょ?」
「なるほど、僕に今回のことを小説にしろと?」
「それはいいよ。・・・代わりに手紙が欲しい。」
「手紙?」
「もう、神谷君に会えなくなるから。」
「・・・大槻は、僕のこと、忘れた方がいいと思うけど。」
夕が直樹の言葉に大きくかぶりを振ると、直樹は困ったように言葉を続ける。
「僕は、大槻が思った間違ったことをしたんだ。その僕が君の元を離れるんだから、喜びこそすれ、関係を持とうとするなんて、必要ない。」
「神谷君は、ちゃんと霜原先輩に謝ったじゃない。ちゃんと自分の過ちを認めた。」
「それは、大槻が、僕が間違っていると指摘したからだ。指摘されなかったら、そのままにしてたと思う。」
夕は、自分の気持ちが伝わらないもどかしさで、また泣きそうになる。
「泣き虫だな。」
「神谷君のせいだよ。」
「僕は、大槻にはそのままでいてほしい。僕にとっての眩しい存在、孝志のように。」
「私は、神谷君のお兄さんじゃない。私は。」
「・・・きになったんだ。」
直樹の言葉が聞き取れず、夕が顔を上げると、直樹はその頬に手を当てた。
「今の僕は、大槻と向き合えない。そう思ってるけど、いつか、君と向き合えるまで待っていて。その時に、僕の気持ちを伝えるから。」
「・・・。」
「本当はこんなことを言う資格もないんだけど。」
「ううん。待ってる。その時は手紙くれるよね?」
そう答えた夕の頬に、直樹は自分の顔を近づけた。
直樹の顔が離れてから、夕は自分の頬を自分の掌で囲うと、顔を真っ赤にさせる。
「か、神谷君。」
「今日のことを忘れないように。」
「忘れるわけないじゃん。こんなことされたら。」
そう答えた夕の体を、只々、直樹は強く抱きしめた。
◇◇◇◇
夕が部室のドアを開けると、中にいた美咲と隼人が、こちらを振り向いた。
「こんにちは、夕先輩。」
「こんにちは、大槻先輩。」
「こんにちは。2人とも早いね。」
夕がそう声をかけると、隼人がフフッと笑った。
「ここは居心地がいいので。」
「でも、寂しくなっちゃいましたね。部員3人って。」
高校三年生である葉子、雅也、志穂が活動をしなくなり、直樹も転校したため、文芸部員は、夕、美咲、隼人の3名となった。倍の人数がいたはずの部室は、大分寂しくなっている。
「まさか、神谷先輩が転校しちゃうとはなぁ。」
「あれだけ、文芸部来てたから、4月からは正部員になって副部長になるかとも思ってたのに。」
「私も急に聞かされてびっくりしたよ。」
「大槻先輩も知らなかったんじゃあ、学校の誰も知らなかったでしょうね。」
隼人の言葉に、美咲がうんうんと頷いている。
「新入部員をたくさん入れないと、文芸部が存続できないから、新入生オリエンテーションの時は、頑張りましょう。」
「何か、新しいこと企画したいですね。・・・そう言えば、夕先輩、髪形変えましたね。」
美咲が立ち上がって、夕の背後に回る。以前はただ下ろしていることが多かったのだが、今日は、サイドの髪を後ろに持って来て、バレッタで止めていた。
「このバレッタ綺麗ですね。でも、初めて見ます。」
「・・最近買ったの。私もお気に入り。」
「もっと、夕先輩もおしゃれしたほうがいいですよ。もったいないです。」
ねぇ。と美咲が隼人に同意を求めると、隼人は何と答えていいか分からず、口をもごもごさせる。
部室に、3人の明るい笑い声が響き渡った。
終
ということでリメイク投稿終えました。
大きく道筋は変えていませんが、元々は、雅也が完全に記憶を失ったり、夕が部員の前で犯人として指摘したり、といった内容になっています。最終幕は全て今回の書下ろし。
最初、夕が恋に関してもやもやとしてますが、それを回収してなかったので、最終幕で回収しました。
一応、ミステリーとして成立しているでしょうか?クリスマスをだいぶ引っ張ってしまいましたね。すみません。
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