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【小説】純血統種に報復を 第9話 王族との謁見

第9話 王族との謁見

恐ろしく広い部屋の一部が高くなっており、そこに3つの椅子が並んでおかれている。背後は色ガラスがはまった大きな窓がある。
中央に50代後半の男性、両脇に、20歳代前半と思われる青年、そして、セラフィーナが腰かけていた。

オクタヴィアンたちは、下段の赤い絨毯じゅうたんの上にひざまずいて礼を取る。
オクタヴィアン、父カミュスヤーナ、母テラスティーネ、妹エルネスティーネ、そして、今回王族に紹介する予定の女性2名だ。

紹介する女性はどこからかカミュスヤーナが探してきた。うねる長い金色の髪を持ち、金色の瞳を持つ女性がベルナデッタ、長い黒髪に、水色の瞳を持つ女性がデルフィーナと言う。共に美人だが、冷たい雰囲気が漂っている。オクタヴィアンであれば、付き合いたくはない相手だ。

オクタヴィアンたちが一人ずつ挨拶あいさつをした後、中央に座った王が口を開いた。
「我が娘、セラフィーナと婚約をしたいというのは、どの者か?」
「私でございます。陛下へいか。オクタヴィアンと申します」
おもてを上げよ」

彼の言葉に分からないように息を吐いた後、オクタヴィアンは顔を上げる。王はオクタヴィアンの顔をまじまじと見つめた後、軽く鼻で笑ったように見えた。
よわいは19と聞いていたが、随分ずいぶん小さいな」
「……身体の成長が遅く、齢通りの見かけになっておりません」

「そなたの素性は調べさせてもらった。セラフィーナと婚約するのに問題となる点は見受けられなかった」
……実際は問題だらけなのだが、この話を持ち掛けるまでに、自分らの素性や環境、過去は全て調えてある。表面上さらうだけでは、まず本来の素性は分からないだろう。

「だが、我ら王族はこの3名のみ。王位継承者でないとはいえ、王族が少なくなるのはあまり好ましくない。そこで、そなたらには条件を付けた」
「将来を共にする女性を紹介するようにとのことでした。そのご依頼を受け、ベルナデッタとデルフィーナをお連れしました」

「私はそちらの女性の方が好みなのだが」
王は、オクタヴィアンの2つ隣にいるテラスティーネを指差す。テラスティーネの隣で、跪いているカミュスヤーナの口の端が上がった。
「こちらは私の母です。すでに結婚し、子どもも2人います。陛下のご希望には答えられません」

他の者が言葉を述べることを、王が許可していないので、自然とオクタヴィアンが会話をしなくてはならない。そのことを面倒に思いながら、オクタヴィアンはそう言って断った。
王の横では、セラフィーナが顔を青くさせている。何を言い出すのかと思っているのかもしれない。次期王位継承者の男性は、その様子を静かに見つめているだけで、何一つ口は挟まなかった。

「私がそれでもいいと望めばいいのであろう?その者。面を上げよ」
「はい」
テラスティーネが言葉に応じて、顔を上げる。長い水色の髪を後ろでハーフアップにしており、そこに差さっている装飾品が、動きに合わせて揺れる。
「やはり、私はそなたがいい。たしか、テラスティーネと申したか。私はそなたを召し上げる」
「待ってください!」
オクタヴィアンは声を荒げて、その申し出をさえぎった。

「母は既に父と結婚しているのです。それを召し上げるとはどういうことです?」
「単に我が好みに合致しただけのこと」
「そんな……」
「オクタヴィアン。陛下に対し失礼だ。言葉を慎みなさい」
隣に跪いたカミュスヤーナが口を開いて、オクタヴィアンをたしなめた。カミュスヤーナを見やるが、彼の表情には何の色も現れていなかった。テラスティーネは諦めたように目を伏せている。

「お前はどうする?」
王は、次期王位継承者である息子に声をかける。
彼は、少し考えるように動きを止めた後、オクタヴィアンの後ろにいるエルネスティーネを指差した。
「彼女でいいのか?」

彼は王の確認に、目線で答える。オクタヴィアンは、それを聞いて唇を軽く噛み締めた。エルネスティーネは、目を見開いて、驚きの表情を見せた。オクタヴィアン同様、エルネスティーネも実年齢よりも若い見かけだ。将来を共にすると考えるには、幼く見えるのにもかかわらず、次期王は彼女を指名したことになる。

「オクタヴィアン。そなたとセラフィーナの婚約は認めよう。今日のところは下がれ。テラスティーネとエルネスティーネは、その場に残れ」

オクタヴィアンたちは目線を伏せて、テラスティーネとエルネスティーネを残して、その場を去る。オクタヴィアンは一瞬ためらうように、後ろを振り返ったが、めいくつがえらないことを知って、諦めたように目線を逸らした。その直前、セラフィーナが青ざめた顔で、自分たちを見送る姿が彼の瞳に映った。

第10話に続く

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説那(せつな)
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