【小説】純血統種に報復を 第3話 ここに来た理由
第3話 ここに来た理由
「何をやっているのですか。お兄様」
目の前で、エルネスティーネが目を吊り上げて言い募る。まったく怖くなくて、可愛いくらいなのだが、まぁ、そう言われるようなことをオクタヴィアンはした。
「すまない。つい出来心というやつ?」
「だからって、王族の姫に、術をかけたらだめでしょう?」
確かにエルネスティ―ネの言うとおりだ。セラフィーナと見つめ合っていたら、術をかけてしまっていた。かけてはいけないのに。
オクタヴィアンたちは、天仕と魔人の血を引く父親と、天仕と人間の血を引く母親を持つ。ここでいう「はぐれ」、純血統種ではなく、他の種族の血が混じっている天仕だ。
父親が魔王なので、彼らは通常、魔人の住む地に滞在している。魔王は魔人の中でもとりわけ魔力量が多く、力が強い者をいう。セラフィーナにかけてしまったのは、魔人の状態異常の術だ。瞳を介して術をかけることができ、今回彼女にかけたのは混乱の術。
そのような彼らが、なぜ天仕の住む地にいるのかというと、話が長くなる。
父親の母親、つまりおばあさまである天仕と、母親の父親、つまりお爺さまである天仕は、兄妹で、いわゆるはぐれだった。そのため、2人は幼い頃から、この地で純血統種に虐げられていた。家族で人間が住む地に移り住んだが、はぐれは純血統種に狩られて、王に献上されるというしきたりが、天仕にはあった。2人とも純血統種に命を狙われ、おばあさまは致命傷を受け死亡し、お爺さまは妻や子と別れて暮らさなくてはならなくなった。
おばあさまを深く愛していた配偶者である元魔王は、天仕の純血統種に報復することを決めた。そして、自分にそれが成せないと分かると、自分の2人の息子にそれを託した。その内の一人がオクタヴィアンたちの父親にあたる。
父は、叔父上やお爺さまと話し合いを続け、今回オクタヴィアンたちが情報収集を兼ねて、この天仕の住む地に派遣されてきたというわけだ。
天仕に関する情報は、人間の住む地でも、魔人の住む地でも、あまり残っておらず、であれば天仕の住む地で収集した方が早いということになった。しかも、警戒が薄くなるよう子どもであるオクタヴィアンと妹のエルネスティーネを派遣した。
天仕の証である羽は、2人とも天仕の血を引いているので、顕現させることが可能だった。住む家は、こちらに来て空き家になっていたところを見つけ、勝手にもぐりこんだ。
ここにもはぐれは暮らしているが、中心地からは離れている。そして、たぶん誰も言わないが、定期的に純血統種に狩られているのだと思う。はぐれが住む地域には空き家も何件か見つかったから。必要があれば、父からいただいた転移陣で、魔人の住む地の魔王の館に帰ることも可能だ。食材や生活に必要な物は、予め大量に家へ運び込んでいる。
まずは、純血統種が通う神殿教室に足を運んだ。天仕の住む地はどこも侵入者の警戒がほぼされていなかった。天仕の羽さえあれば、誰もオクタヴィアンたちを見とがめなかった。
天仕の住む地が知られていないと思われているのだろう。これは、オクタヴィアンのお爺さまから場所を教えてもらった。お爺さまははぐれなので、神殿教室に通ってはいなかったが、わかる範囲で天仕の住む地について教えてくれた。
声をかけられても適当なことを言って、けむに巻きながら、関連しそうな授業を受け、神殿教室の図書館で資料を読み漁った。結果、はぐれについての書物は、神殿教室の図書館にはあまり置いていないことが分かった。純血統種しか通っていないのだから、当然と言えば当然かもしれない。だから、オクタヴィアンたちは王宮図書館の一般開放を狙って、足を運んだのだ。
収穫はあった。資料も手に入ったし、王族の一人にも会えたのだから。
「もしかして、姫様のこと気に入ってしまったのではないでしょうね」
これから敵対する相手ですよ。と言葉を続けるエルネスティーネの青い瞳が、オクタヴィアンはまっすぐ見られない。
女としての色気がない少年っぽい雰囲気、話す言葉ににじみ出る優しさ、王族なのに身分を笠に着たところは全くなかった様子、どれもが自分の好みだった。
「まったく、お兄様は異性に弱いですよね」
お母様に、おばあさまに、アメリアに……と、エルネスティーネは指折り数えていくが、それらは全て身内だ。アメリアは叔父上が作った自動人形で、番でもあるし。
「本当に姫様を誑し込んでみますか?そしたら、お兄様が王になれるかも」
「あ~、王とかは興味ない」
でしょうね。と彼女が笑う。これはきっと両親にも暴露される。そして、オクタヴィアンは両親からもからかわれるのであろう。
彼はそのことを思って深く息を吐いた。
第4話に続く