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【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第27話(最終話) 恋愛なんてよく分からない

第27話(最終話) 恋愛なんてよく分からない

「ディートリヒ様!」

名を呼ばれて、振り向いた先には、満面の笑みを浮かべたシルヴィアの姿があった。彼女はディートリヒが腰かけたベンチの隣に陣取じんどる。

「婚約者が、私がこの先、魔道具を作成するのを許してくれることになりました。それだけでなく、ちゃんと院も卒業させてくれると、私に約束してくれたんです」
「……それは、よかったな」
「テラスティーネ先生に聞きました。ディートリヒ様が働きかけてくださったのだと。テラスティーネ先生は、ディートリヒ様が魔王だと知っていらっしゃるのですか?」
「知らないだろう」

ディートリヒは嘘を吐いたが、シルヴィアはそれを知ってか知らぬか、そのまま話を続ける。

「結婚した後も、魔道具を作成して、ブルーノが市場に流通してくれることになりました。魔道具の必要性をブルーノも理解してくれたのです。既に領主様へも話が通っているとか」
「そうか」
「あの、だから」
「分かっている。私のつがいにはなれぬのだろう?」
そう、ディートリヒが問いかけると、シルヴィアはバツが悪そうに顔を伏せる。

「本当に申し訳ございません。私はディートリヒ様に助けてもらったのに、しかも自分を捧げるとまで言いましたのに」
「私も結局、魔王の座を捨てることができないことが分かった。もし、いつか条件が揃って手放すことになったら、その時は自分の望みのまま、他の地を見てまわることにする」
「もし、その時が来たら、私もご一緒していいですか?」
「自分が望む未来が手に入ったのに、さらに私との時間を手に入れようとするのか?」

ディートリヒがそう言って笑うと、シルヴィアもそれに呼応するように微笑む。

「離れてしまっても、私がディートリヒ様を思う気持ちは変わりません」
「……シルヴィア」
「私はカミュスヤーナ先生やテラスティーネ先生のように優秀ではありません。魔王であるディートリヒ様の隣に並び立てるとは思っていませんでした。それでもわずかの間、夢を見ました。その夢を見ている時間が伸びるだけです。この夢は叶わずに夢のままで終わるでしょう。でも、夢を見るのは自由です。違いますか?」
「……私は君とできるなら一緒にいたいと願った」

苦しそうに吐き出すディートリヒとは裏腹に、シルヴィアは嬉しそうに微笑む。
「ディートリヒ様も、私と一緒の時間を夢見たのですね」
「あぁ、夢見た」
「では、その夢を見続けましょう。2人で」
「君より私の方が夢を見続ける期間が長いのではないか?」
「そうですね。気が向いたら、会いに来てください。私が死んだら、もう夢を見る必要はありませんね?」

茶化したように言うシルヴィアを、ディートリヒは自分の腕の中に抱え込む。

「……本当は笑顔で見送るはずでした」
「今なら、誰にも見られないから、気が済むまで泣いてもいいのではないか?」
「ディートリヒ様、本当にありがとうございます。ずっと好きです」
「……涙声で、何を言ってるか、分からぬ」
そう答えるディートリヒの声も湿っていた。

お互いの体の間に隙間ができぬようきつく抱き締めあい、服が濡れるのも構わずに涙するのは、これが最後だ。泣き止んだら、体を離して、別れて、お互い別の道を見つめて歩んでいく。2人の道が交差することは、もうないだろう。2人の置かれた環境は違いすぎたし、それぞれについた足枷もあって、それらを捨て去ることができなかった。気持ちが通い合う時が一瞬あったとしても、それは長い一生の中で忘れ去られる。

やはり……恋愛なんてよく分からない。
分かりたくもない。

でも、とてつもなく心震えることだった。


「エステファニア様」
紫色の瞳を向けた先には、宰相さいしょうカルメリタが、幾分いくぶん緊張した面持ちで立っていた。
「あら、今日は貴方一人?珍しいことね」
「ディートヘルム様は、つがい候補と最後のお別れに」
「あの子は、好きな人が見つかったのにね。できれば、好きにしたらと言ってあげたかったわ」

そう言って微笑んだ後、カルメリタの表情を見て、エステファニアは表情を曇らせた。
「カルメリタは、ディータの決断が嬉しいでしょう?なのに、そんな泣きそうな表情をしたら、あの子がかわいそうよ」

「私は嬉しいのです。エステファニア様。私もあの方をこの地に結び付けるくさびになれていたことが」
「……どう見ても、嬉しそうなおもてではないけれど」
エステファニアは、頬に手を当て、やんわりと微笑む。
「今のアンガーミュラーを治めるには、ディータがこの地に留まるしかないわ。次期後継者がいない以上仕方がない。でも……」
「……」

「私が番を見つけて子をもうければ、ディータを解放することができるわね。今回の番候補の子を迎えに行くのに、間に合うかは分からないけど」
「エステファニア様」
「カルメリタも、本当はディータを自由にしてあげたいのでしょう?」
「……私は、主の思いのままに、人生を歩まれることを望みます」
「はっきり言えばいいのに。好きだって」

カルメリタは、エステファニアの言葉に、その水色の瞳を見開くと、ふっと表情を緩ませた。そして、おもてを伏せて、感情を伴わない声で告げる。

「私には、恋愛などというものは、よく分かりませんから」

途中3ヶ月のお休みを挟みましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。厚く御礼申し上げます。

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